見出し画像

利島と下田に行ってきた(その2)

 前回の旅行記を公開したら、まだ出発してないじゃないかとつっこまれてしまった。旅行記を書く時はいつもそうだ、楽しみさが溢れてついつい行くまでが長くなってしまう。でも指摘の通り、旅行記なんだしさっさと旅に出ることにしよう。

【第1章:さるびあ丸】

 今回の旅は利島に向かう船の出る竹芝桟橋からはじまる。その竹芝桟橋に行くには、浜松町から歩くか、新橋からゆりかもめに乗り竹芝で降りるかの2通りの方法があるのだが、船に乗る時はどうも浜松町から歩かないと気分が乗らない。建築において建物までのアプローチが、そこでの体験に大きな心理的影響を与えるように、どのようなルートで港に向かい船旅を始めるかは島旅の成功のためには非常に重要だ。浜松町駅北口から竹芝桟橋までまっすぐ伸びた道、そしてすれ違う日常を送るサラリーマン、脇に見えるゆで太郎や、船で宴会をするためなのだろうコンビニで酒を買い込む旅行者などは、その意味でまさにこの旅におけるアプローチの役割を果たし、嫌が応にも島への旅に対する期待感を高めてくれる。今回は初の一人島旅であるが、竹芝桟橋に着く頃には何人かで島に行くときと同じようなウキウキした気持ちになっていた。少なくとも顔には出ていたと思うし、もしかしたら声にも出ていたかもしれない。

 乗船券を購入し、券に住所や氏名を記入する。楽しく快適な船旅であるが、名前を書くこの瞬間は、船に乗ることが現代でもリスクを伴う行為なのだとふと意識させられる。この旅で海の藻屑となる可能性だってゼロではないのだ。
 厳かな気持ちで、さるびあ丸に乗船する。そして自分の席に荷物を置きつつ早々にAデッキ後方のテーブルと椅子を確保する。去りゆく都心部を眺めながら航海の安全を祈願するもとい酒を飲むのにベストな場所だ。ここら辺の素早さにはおかげさまで自信がある。

 そして船内を少し探検する。来年には現在建造中の新しい船が就航してしまうから、さるびあ丸に乗るのはもしかしたらこれが最後かもしれない。そう思いながら船内各部を見渡すと、どこも思い出深い場所ばかりで少ししんみりした気持ちになった。初めての島旅行で大島に行ったときに風と寒さをしのぎながら酒を飲んだ場所、神津島に行くときに風をしのぎながら飲んだ場所、式根島に行ったときに飲んだ場所。新島に行ったときに飲んだ場所。どこも飲んだ場所ばかりだが実際飲んでばかりだったからしょうがない。オフシーズンの平日なのもあり、そんな賑やかな思い出の甲板には誰もおらず、一層感傷的な気分が引き立てられる。それを味わいながら飲んでいたら、缶2本で結構いい具合に酔ってしまった。

画像3

 余談だが、今日船に持ち込んだのは写真の通りビールとチューハイ。1本はいつでも誰かにあげられるように飲みやすいチューハイだ。昔も空振り覚悟でチューハイを買ったなあなんてことも思い出す。どこでどんな出会いがあるかわからないからね。これもまた懐かしいさるびあ丸の思い出だ。

画像7

 ちなみに今回は上に書いた通り2本とも俺が飲んだ。

 そんな間に船はレインボーブリッジをくぐり、羽田空港を横目に東京湾を南下していく。何度乗ってもこの都心部から離れていく感じがたまらなく好きだ。日常が、見えているのにどうにも手が出せない距離にいるということが、旅という非日常にいることをより強く意識させてくれる。

画像4

 あと羽田空港も好きな風景だ。何十キロも先まで飛行機が等間隔に整列して次々と着陸するさまやそれを受け入れる煌々と輝く空港。どこか遠くの地に飛び立っていく飛行機。それぞれに乗ったり働いている人に思いを馳せずにはいられない。

 船には哀愁があり飛行機には夢があるなあなんてことを考えながら、夜は更けていった。

 さて、利島につく前に、今回の旅の行程を位置関係と共に改めてざっと書いておこう。
 1日目夜は竹芝桟橋を出て、船で利島へ。利島はこの東京都心から100kmくらい南にある小さな島だ。利島には2日目朝8時前に着。島を1周したのち14時半頃の船で下田へ渡る。これは2時間くらいの船旅。そして下田泊。3日目午後に下田から東京へ電車で帰って来るという海陸満喫2泊2日ぐるっと伊豆諸島半島1周の旅だ。

スクリーンショット 2019-11-11 13.35.27

 翌朝起きたら一つ前の島、大島を出港するところだった。海は穏やか天気は快晴、最高だ。朝飯を食べにまた甲板に向かう。

画像5

 海風を感じ、大島を眺めながら朝食をとる。となりのテーブルには、カラオケのバックの映像に出てきそうな長髪の幸薄そうな女性が、椅子に体育座りで座りながら海をぼーっとながめていた。なんて絵になるんだ。海と船の力だ。その脇で私はパンとおにぎりを食べる。とても気だるく優雅で贅沢な時間が流れるなか、私は一つのことを思い出していた。
 たしか、船からちょうど見えている、大島の北端にある岬が乳ヶ崎というのだった。10年前行った時に「確かにおっぱいに見える!Aカップだ!」とみんなで岬に興奮したことを思い出した。最初は誰もそうは見えなかったのだが、一人見方がわかると、すぐに全員そうとしか見えなくなっていたあたり、全員どうかしてたんだと思う。
 船からその岬を見てそんなことを思い出したが、ただの海食崖の岬にしか見えず、年をとったなあとすこし悲しくなった。

画像6

 島を眺めながら本を読んだりしているうちに利島の姿がすぐそこまで迫ってきていた。着岸準備をする旨の船内放送が流れいよいよ到着。
 これまでスルーし続けてきた利島にいよいよ上陸だ。待ってろ利島!

画像7

(つづく)

よろしければサポートお願いします。いただいたサポートは創作環境の充実のために使わせていただきます。