女子アイスホッケー『スマイルジャパン』。進化した得点力のポイント3つ
「女子の試合って……男子と比べると、ゴール前で選手が団子になってさ、
ごちゃごちゃっと混戦になって。遠くから見てると誰がどう決めたか分からないうちに点が入っていることが多いじゃない?
男子みたいに強いシュートでズバッと決まる得点ってのがまだ少ない。
その辺りはまだまだだよね」。
だいぶ前のことですが、一時的に監督から退いて相手チームのスカウティングの役割を担っていた飯塚祐司さんとスマイルジャパンが練習している様子をスタンドから眺めてたとき、そんな言葉を聞いた記憶があります。
2015年、スウェーデンの世界選手権に向けた直前合宿のときだったか……。
確かにその時期のスマイルジャパンはまだまだ「ごちゃごちゃの混戦から押し込め~」っていう得点が多かった。
それから7年。
スマイルジャパンの得点の取り方はその頃と比べて大きく変わりました。
北京オリンピックの初戦、日本対スウェーデンの試合で小池詩織選手が決めた先制点もゴーリー(GK)の肩口を抜いたシュートだったし、浮田留衣選手が決めた2点目なんて、もう男子顔負けのスーパーゴールでした。ソチの頃なら、小池選手のゴールのように、あんなゴール近くの真正面にディフェンス(DF)の選手が入り込むなんて攻撃パターンはなかったです。
↑浮田選手のスーパーゴール。何度見ても気持ちいい(笑)
オリンピックに女子アイスホッケーが正式競技に採用されてから回数が深まるにつれて、NHLを頂点とする男子アイスホッケーの得点テクニックが女子でも当たり前に行われるようになってきました。
女子のアメリカ対カナダの試合を見ていると、時々「あれ、男子の試合だったっけ?」と錯覚しますもの。
なのでここからは、近代のアイスホッケーで得点を取るためにどんなテクニックがあるのか? 最近流行のものを3つ、ご紹介します。
これ、女子だけでなく男子の試合でもガンガン使われるので、この3つのポイントに注目して試合を見ていると、北京オリンピックを最終日まで、とっても楽しめますよ。
①GKの目の前に立ち、飛んでくるパックを隠して幻惑する「スクリーン」
ゴーリーの立場からすると、障害物が何もなくてシュートの瞬間が見える状態の時は普通のプロで90%、オリンピックに出てくるようなゴーリーなら95%以上の確率でシュートを止めるというデータが出ています。
どんなに早くて強いシュートでも上手いゴーリーなら止めちゃうんですね。
でも、打つ瞬間が見えなかったら……その確率は格段に下がります。
ゴーリーに対してその状態を積極的に作ろう、というのがスクリーンです。
↑スイスとの試合でスクリーンが見事に決まったシーン。6番・鈴木世奈選手のシュートのさい、18番・高涼風選手がしっかりスクリーンを作っているのが分かると思います。
↑スクリーンプレイの基本的な考え方がよく分かる動画。一瞬GKの目の前を横切って視界をさえぎる「フラッシュスクリーン」の練習。米・アリゾナ在住の日本人コーチ・若林弘紀さんの動画です。
良くあるプレーとしては、フォワード(FW)のうち1人がゴールクリーズのギリギリ近くでGKの視線をさえぎるように立ち、DFが遠くからシュートを打ったタイミングで「避ける!」。低い軌道のシュートならジャンプして「避ける!」。とにかく「避ける!」。
ゴーリーとしては、選手の身体の陰からいきなりパックが現れるものですからたまったもんじゃない。パックへの反応が遅れるわけです。
※ゴールクリーズ=水色でペイントされているかまぼこ形の空間。ざっくり言うと、GK以外の選手はここに入ってはいけないルール。
もう正面からバーン!と打ちこむシュートはなかなか通用しない時代になっているんですね。
ピョンチャンオリンピック代表FWだった中村亜実さんによるとゴール前の攻防は「手や肘がとんでくる。最終予選の試合ではあごが2回外れそうに」という肉弾戦。
今回北京でのスマイルジャパンFWのみんなも、その肉弾戦に耐えられる強さを兼ね備えていると思います。
②ゴール前でコースを変える、「ディフレクション」
4年前のピョンチャン五輪のころよりも一番進化したテクニックがこれ。
ものすごいスピードで飛んでくるスラップショットを、ゴール前にいた選手がスティックでコツンと当てることで進行方向を変えてGKの逆を突くのが「ディフレクション」です。
※スラップショット=スティックを振りかぶって打つ強烈なシュート
↑世界最高峰、NHLのディフレクションゴールを集めた動画。すごすぎ。
語源は英語の“deflection”。屈折とかゆがみ、とかそんな意味ですね。
これ、FWがゴール前で相手DFとバトルしながら飛んでくるパックを細いスティックに当てる、ということでかなり難しい技術なのですが、今や女子でも当たり前に使われるようになりました。
これ、時々失敗して身体にパックが当たるととんでもなく「痛い」。
もう悶絶するほど「痛い」。
でもゴーリーの側も守りの技術が進歩しているのでこんなことまでしないと得点が入らない。
野球のバットよりも全然細くて長いスティックで、ダルビッシュの剛速球をバントするようなもんです。
で、パックも野球のボールと比べたらぜんぜん小さい。
このパターン最初に考えた人は凄すぎます。
レベルが上がってくると、①スクリーンで避けながら+②ディフレクションする、なんてこともやりますので、そうなったらゴーリーはもうお手上げです。
スマイルジャパンの試合でこんなゴールシーンが見られたらもう永久保存版ですね。
③横パスからの「バックドア」
さて。「ゴーリーにとって最大の弱点」って、知ってますか?
それは「横に動くのがとっても大変」なこと。
スケートの刃は縦向きについてますから、真横に滑ろうとしてもぜんぜん滑れません。当たり前だ、といわれる方、たしかにおっしゃるとおりですごめんなさいごめんなさいごめんなさい。でもこれ見て↓
↑ゴーリーが横に動くのがどんだけ大変かが分かる動画(笑)。
なので“シャッフル”といってカニ歩きのように細かいステップを使って横移動するか、ゴールポストを蹴った勢いでズザーっと横に“スライド”して動くしかないワケです。
↑ゴーリーはシャッフルの動きをこんな感じで練習してます、な動画。
アジアリーグアイスホッケー、日光アイスバックスに所属している
井上光明選手の練習風景です。
↑で、スライドしちゃったらなかなか逆には戻れない。
これ、完璧に弱点突かれちゃってます。
その「横移動に弱い」というゴーリーの弱点を突くのが、横パスからの「バックドア」へのシュートです。「バックドア」というのは、ゴーリーが横や斜めのシュートに対応するためにどちらか片方のゴールポストに寄ったとき、がら空きになった逆側のこと。
↑いま、日本人でNHLに一番近い男、71番・平野裕志朗選手のゴール。
バックドアへ放ったシュートの典型的なパターンですね。
↑もう1つ男子ですが、カナダ(白)のゴールシーン。
2回も横パスでゴーリーを左右に振ってます。もうゴーリーは大混乱。
最近のアイスホッケーでは
ゴーリーの目の前を横ぎる早いパスによって、ゴーリーが横に移動しきれず空いたバックドア側からシュートを打つ、という形が得点パターンの主流となっています。
どのスポーツも同じでしょうが、アイスホッケーでも様々な面が年々進化しているんですね。特に女子はその進化のスピードがとても早いです。
さりげなくこの③つをつぶやいて、ひと味違うご観戦を
①「スクリーン」②「ディフレクション」③「バックドア」
この3つの言葉をTV中継をみながらさらりとつぶやくと、周囲から『〇〇さん、通ですね』と尊敬のまなざしを集められるかも(笑)。
ぜひ、こんなところにも注目して試合を楽しんでください。
【北京オリンピック 女子アイスホッケー 放送予定】
スマイルジャパンの試合はすべて地上波で放送!
<予選リーグB組>
2月5日17:30- vsデンマーク(テレビ東京系)
2月6日17:30- vs中国(TBS系)
2月8日17:30- vsチェコ(NHK総合)
文/ポタやん(IcePressJapan編集長)
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