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393位:Taylor Swift 『1989』(2014)|ローリングストーン誌が選ぶ「歴代最高のアルバム」500選(2020年改訂版)

 このnoteでは2020年に8年ぶりに改訂された「ローリングストーン誌が選ぶ「歴代最高のアルバム」500選 」の英語サイトからの解説文翻訳(とたまにレビュー)の連載をしています。本日はこちらのアルバムです。

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393位:Taylor Swift 『1989』(Big Machine, 2014)

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<解説文の翻訳>
 スウィフトは『1989』で「あからさまなポップ・ミュージック」を作ることを目指し、Pet Shop BoysやEurythmicsへのラヴ・レターを作り上げた。本作のサウンドは煌びやかなシンセと固いスネアに覆われ、また“Blank Space” や “Bad Blood”といった楽曲では狂気的な感情の迸りも覗かせる。アルバムを締め括るのは、失恋の克服についてのエレクトロ-チルな"Clean”であるが、この曲は彼女の楽曲のうちで最も飾り気がなく、かつ最もスケールを感じさせるものの一つだ。同曲で、彼女は愛の記憶を「“a wine-stained dress I can’t wear anymore”(ワインのシミで着れなくなってしまったドレス)」と例え、我を忘れ愛に溺れたりそれを乗り越えたりしていくイメージを見せているが、この姿は80年代のもう一人のヒーローであるケイト・ブッシュのことを思い起こさせる。
(翻訳:Shu Tsujimoto、 原文へはこちらから)

<翻訳メモ>

・「blatant pop music」・・・blatantは「 露骨な、わざとらしい」。「あからさまなポップ・ミュージック」と訳した。テイラーは前作『Red』でカントリーからポップスに舵を切ったが、本作では80'sポップスをリファレンスとすることでその方向をさらに推し進めている。『Red』ではアレンジに常にバンジョーが組み込まれるなどカントリーアーティストとしてのアイデンティティも保った彼女であったが、『1989』ではそういった出自やファンベースへの目配せもなく、トレードマークであったアコースティックギターを置き、ダンサーを従え、完全にメインストリームのポップ・スターとしての新しいイメージを打ち出した。

<ランキング比較>

参考として、「このアーティストのアルバムが500枚のリストに合計何枚ランクインしていたか」と「このアルバムの順位が前回版(2012年版)ランキングと比べてどう変わっているか」についても以下に調べてまとめています。

【2020年度版】
同アルバムの今回順位:393位
同アーティストのランクイン枚数:2枚(本作の他は、99位『Red』)

【2012年度版】(前回版)
同アルバムの順位:掲載なし
同アーティストのランクイン枚数:0枚

<感想など>

 今聴くと、上の解説文でも触れられている本作収録の"Clean”と、The 1975のデビューアルバムに収録されている"Rubbers"が、ソングライティングとプロダクションの両面においてかなり似ていると感じられ、ネットでも調べてみたのだが、やはりマッシュアップ動画まで作られていた。このような感想を持ったのは自分だけではないようである。ここでそれをわざわざ書いたのは、パクリを指摘したかったというよりも、2013年のThe 1975のデビューアルバムと、2014年のテイラーの『1989』はどちらも個人的に思い入れのある作品であるのだが、「UK 80'sポップス」を補助線とすることで両者のリファレンスを結ぶことが可能であるということに時間が経ったことで今になって気づいたからだ。The 1975に熱を上げてきた自分にとって、インディーに接近した『Folklore』が出ようとも、なぜテイラーのディスコグラフィの中でこの作品が最も自分の琴線に触れるのかがわかった気がする。2010年代後半のラップ全盛時代の直前、EDMが最盛期を迎えて少し下火になるかならないかの頃に、"Get Lucky"や"Uptown Funk"といったファンク・リファレンスの80'sリヴァイバルとはまた違った形で、UKポップスを参照とした80"sポップスのリヴァイバル(上の解説文でもPet Shop BoysやEurythmicsが引き合いに出されている)がポップシーンで起こっていたのだということをこれらの作品は記録していると思う。
 この作品についてもう一つ。CDが手元にあるから思い出したのだが、本作については、リリース後にテイラーがApple Musicのアーティスト還元の仕組み(ユーザーの無料トライアル期間の再生はアーティストへの報酬にならない)に抗議してストリーミングから引き上げたという事件があった。最終的には、Appleがテイラーに折れる形でロイヤリティのルールが方針転換されることとなり、『1989」も無事にApple Musicに載ることになったという結果となったこのニュース。彼女の勇気と影響力には多くの人が感心し、称賛の声を送っていた。昨年のNetflix制作のテイラーのドキュメンタリー「ミス・アメリカーナ」は、彼女がはじめて政治的なスタンスを打ち出すことについてのドキュメントであったが、彼女はこの頃からずっと戦っていたということだ。Apple相手に異を唱えた功績はもっと評価されるべきだろうし、『1989』というアルバムはこういう意味でもストリーミング黎明期を代表する歴史的な傑作だと言えるだろう。


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