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【院試解説】令和元年度 東京工業大学 物質理工学院 応用化学系 9A (1)

こんにちは やまたくです。

今日は院試解説の第三弾として

令和元年度 東京工業大学 物質理工学院 応用化学系 9A (1)

を解いていこうと思います。
著作権上の都合から、問題は大学ホームページのリンクからダウンロードしてください。


① アニオン重合の開始剤に関する問題 (ポリマーA:イソプレンゴム)

化合物Aはcis-1,4-ポリイソプレンですね。有名な合成ゴムの1つです。

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モノマーは2-メチル-1,3-ブタジエン (イソプレン)です。
今回の問題ではアニオン重合で重合を進行させるという条件があるのでアニオン重合の開始剤になるものを考えていきます。

アニオン重合の開始剤としては求核性が高い順に
・アルカリ金属 (Li, Na, K), アルキル金属 (NaR, LiR, KR)
・グリニャール試薬 (RMgX)
・アルコキシド (ROLi, RONa, ROK),  AlR3, ZnR2
・ピリジン, 水, NR3
などがあります。

そうすると問題の選択肢の候補としてはGとIが残ります。

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しかしイソプレンはアニオン重合性が低いモノマーとして知られているので、求核性の低いアルコキシドでは重合を開始することはできません。
したがって、本問題での正解はIとなります。

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ちなみにアニオン重合性の高さを判断する基準としては、C=Cに付いている官能基の性質を考えることが大切です。
電子求引性基 (シアノ基やメトキシカルボニル基など)がC=Cに付いている場合、開始剤の求核攻撃を受けやすくなり、アニオン重合性が向上します。これはC=C上の電子密度が低下することに起因します。
逆に炭化水素系共役モノマーである、α-メチルスチレン、スチレン、イソプレン、ブタジエンなどは共鳴安定化効果により、C=C上の電子密度が向上するため、アニオン重合性は低くなります。


① ラジカル重合の開始剤に関する問題 (ポリマーB:PMMA)

続いて化合物Bに移ります。化合物Bはアクリルガラスとして知られるポリメタクリル酸メチル (PMMA) ですね。

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モノマーはメタクリル酸メチル (MMA) です。
本問題では問題ではラジカル重合という指定が入っています。
この問題はかなり簡単でそもそもラジカル重合の開始剤が1つしかないので
正解はJとなります。

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ラジカル重合の開始剤には過酸化物やアゾ化合物があります。
有名どころでは、
・クメンヒドロキシペルオキシド (CHP)
・過酸化ベンゾイル (BPO)
・アゾビスイソブチロニトリル (AIBN)

などを覚えておくと良いでしょう。

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② ポリビニルアルコールの合成に関する問題

これに関しては大学受験でも良く出るので知っている人が多いと思います。
ポリビニルアルコール の製造工程は以下のようになります。

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したがってLの答えとしては酢酸ビニルになります。

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(もちろん加水分解してポリビニルアルコール にさえなれば良いので別解もありえるとは思います)

ちなみに酢酸ビニルアセチレンに酢酸を反応させることで得られます。


③ 開環重合に関する問題 (ポリマーD:ポリ乳酸に関する問題)

開環重合といえばイプシロンカプロラクタムが有名ですが、ここではそこまで簡単な問題ではありませんでしたね…

まずポリマーDについて

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ポリマーDは生分解性ポリマーとして知られるポリ乳酸ですが、六員環化合物から重合することが条件となっているので、答えは以下の化合物になります。

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いわゆるラクチドですね。ポリ乳酸はもちろん乳酸から直接合成することも可能ですが、高重合度実現のためラクチド化したのち合成することも多くなってきました。


③ 開環重合に関する問題 (ポリマーE:ポリペプチドに関する問題)

ポリマーEはポリペプチド (ポリアミノ酸) の一種でしたね。

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α-アミノ酸-N-カルボン酸無水物 (NCA)
アミン、アルコール 、水などのプロトン活性化合物
アルカリ金属アルコラート、水酸化物などの求核剤により
脱炭酸しながら開環重合が進行することが知られています。

したがってEを得られるような五員環の化合物は下記のようなα-アミノ酸-N-カルボン酸無水物となります。

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脱炭酸機構を含む環状化合物の重合反応はそれほど多くないので、問題としてはかなり親切だったと思います。


③ 開環重合に関する問題 (ポリマーF:オレフィンメタセシス重合に関する問題)

ポリマーFは環式メタセシス重合で得られる代表的なポリマーですね。

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この問題に関しては知っていたか知らなかったかだけなので答えを示してしまいますが、ポリマーFを得るのに利用される炭素数7のモノマーは下記に示すノルボルネンです。

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そもそも、オレフィンメタセシス反応とは二種類のオレフィン間で結合の組換えが起こる触媒反応のことをさしますが、重合反応の場合には、モノマー同士で組み替え反応が生じ重合が進行していきます。

触媒としてはRu触媒 (中性カルベン種, Grubbs触媒) やMo触媒 (求核カルベン種, Schrock触媒) などの金属触媒が使用されます。

近年では、くし形ポリマーや星形ポリマー、グラフトポリマーの精密合成などに利用されており、研究が盛んな合成法の1つです。


終わりに

本日は過去問解説の第三弾として

令和元年度 東京工業大学 物質理工学院 応用化学系 9A (1)を見てきました

高分子を専門に学部の頃から勉強していた人にとっては簡単だったかもしれませんがそれ以外の人にはなかな厳しい部分もあったのではないでしょうか?
ただ、高分子に関しては出題できる範囲も限られていますので、有機化学が得意な人は、少しの勉強でも得点源になると思います。

質問やコメントがあれば残していってもらえれば嬉しいです。

(この記事は100%合っていることを保証する解答ではないので間違いがあるかもしれません。もし間違い等があればコメントで教えて頂ければ幸いです)

ご愛読いただきありがとうございます