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アルプラと父の背中とヒーローショー

日曜日の朝、じいちゃんの飲むコーヒーの香りと障子窓からこぼれる光に目を覚ます。いつもは布団から出られない僕だが、日曜日はちがう。今日はスーパーヒーロータイムだ。

うちの地元は田舎だからか、テレ朝系列が見れない。見るにはケーブルテレビを契約しなければならない。だから、毎週土曜の夜は必ずケーブルテレビが繋がるじいちゃん家に行って日曜日の朝を心待ちにする。

これが幼少期の僕の楽しみだった。

食い入るように、スーパーヒーロー戦隊と仮面ライダーを観る。友達には、恥ずかしくて「おジャ魔女なんか観てねーし」とか言ってたけど、おジャ魔女もしっかり観てた。

それが終わると僕の日曜は終わりだ。ここからは、「明日幼稚園やだな」モードになる。長男で甘やかされて育った僕は不機嫌になったり、あばれたりする。困ったもんだな全く。

そんな時、とーちゃんが読んでる新聞に挟まっていたものが目に留まる。アルプラザ、略してアルプラと呼ばれる近所のデパートのチラシだ。さっきまでテレビで見ていたヒーローがそこには写っていた。

「なにこれ!」
「ヒーローショーやるみたいやね」
「いきたいいきたいいきたいいきたい」

幼稚園やだなモードの息子を納得させるにはここに行かないとダメそうだと親は判断したようでショーに行くことになった。

アルプラに着くとエレベーター裏のメイン広場みたいなところに特設ステージが組まれ、いつも行くアルプラと違う雰囲気。人もたくさん座っていた。

ステージ前では観れなさそうだから吹き抜けの2階から観ることにする。転落防止の柵がありよく見えないとまた駄々をこねるととーちゃんが黙って肩車してくれた。

ヒーローショーの怪人は強い。

いつもなら負けないような敵にヒーローが追い込まれる。そこで司会のお姉さんが僕らを誘導する。みんなの応援が必要よ!みんないっしょにいくよ!せーの

「が、がんばれ!ギンガマン!」

大好きなヒーローを助けたいと振り絞った声でヒーローは勇気づけられアルプラの平和は守られた。

ギンガレッドが言う。
「ありがとう君のおかげだ!君もヒーローだ!」

そうか。僕もヒーローか。

言い知れぬ満足感の中でフードコートのマクドナルドを頬張って家に帰る。

アルプラと父の背中とヒーローショー

僕のエンタメの原点だった。


時は流れ2022年春。
ヒーローショーのスーツアクターの人たちと知り合った。いわゆる『中の人』ってやつだ。そのうちの1人のOさんと一緒に飲むことになった。

酔いが深まった時、Oさんがこぼしたのはヒーローショーの現実だった。

コロナ禍でイベントが減り、ヒーローショーの仕事は激減した。イベント主催者側も分散して楽しめるようなエンタメを求めるようになってきた。

Oさんは切なそうに
「主催者側が、ヒーローショーがなくてもイベントが回るってことに気づき出したんです。」と言った。

そうか、ヒーローショーはなくなっていくのか。
幼い頃の俺の大好きな場所は、
口数の少ないとーちゃんのあったかい背中は、
柵を乗り越えた先で戦うヒーローは、、、

Oさんの話を聞きながら、寂しい気分になる。

ふと、心の奥であの頃の僕が叫ぶ。

「が、がんばれ!ギンガマン!」

あの日、僕達の応援はヒーローを救ったんだ。
僕たちもヒーローになったんだ。
ヒーローはいつだって最後まで諦めない。

「ちょっと、俺のヒーローショーへの想い、語っていいっすか?」

さっきまで飲み会テンションでふざけてた僕だけどヒーローショーへの思いをあの頃の思い出を真剣に伝えた。それがいま僕にできる応援だと思ったから。Oさんは少し涙を浮かべながら聴いてくれた。


あの熱く語った夜からまた少しの時が経った。ヒーローショーの仕事も少しずつ戻ってきたみたいだ。Oさんたちのステージを見に、僕は久しぶりにヒーローショーにきた。暴太郎戦隊ドンブラザーズショー。

会場には、たくさんの子どもたち。
パパの膝に乗って目を輝かせる。

でも、やっぱりヒーローショーの怪人は強い。
それを見て、心配そうな子どもたち。

ドンモモタロウが言う。
「袖振り合うも他生の縁!会場のみんなも仲間だ。会場のみんなの応援で俺たちは強くなれる!」

まだ声は出せない代わりに、子どもたちは必死に拍手で応援する。ダメと言われてるのに思わず声を出しちゃう子までいて。

そして、そんな応援する我が子越しのドンブラザーズを写真に撮るパパやママ。

時代も、常識も、価値観も、そしてヒーローもあの頃とは全く違うのに、あの頃と変わらないヒーローショーが、あの頃と変わらない親子と絆が、あの頃と変わらない魂がそこにはあった。

まだまだヒーローは必要だったよ。


僕たちも、まだまだがんばれる。
それでは、今日はこの辺で。
新潟謎解きクリエイター集団Try-aNgLeのたこやきでした。



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