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『バベル』紹介|一発の銃弾が引き起こした四つの悲劇。

前置き

こんにちは。
映画大好き21歳 トマトくんです。

今回書いたのは、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の『バベル』です。世間的にはあまり評判の良くない本作ですが、個人的にはこの作品がとても大好きなので紹介してみたいと思います。少しですが感想もあります。


あらすじ

舞台はモロッコ。父親が手に入れたライフル銃で遊んでいた兄弟が、観光バスを標的にして射撃の腕を競っていた。

時を同じくして、モロッコを旅行中だったアメリカ人夫婦が、観光バスの中で突如何者かによって銃撃を受け負傷してしまう。政府はこれをテロと認定。少年が撃った一発の銃弾によって、モロッコ、アメリカ、メキシコ、日本の4つの国が交差していく…。


作品解説

全ての人類は同じ言語を用いていたが、天まで近づこうとバベルの塔を建設したために、神の怒りを買い、人間は互いに意志疎通ができないように言葉を乱されてしまった。

これは旧約聖書「創世記」にて描かれた「バベルの塔」の物語で、本作はこのテーマに沿って展開されていきます。

人種も言語も文化も宗教も全く違う。生死に関わる問題に直面しているにも関わらず、お互いの偏見や価値観の違いによってコミュニケーションがままならない「負の連鎖」を描く。

(監督)アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ

監督は『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』と『レヴェナント:蘇えりし者』で2年連続のアカデミー監督賞を受賞したアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ。

本作で、カンヌ国際映画祭の監督賞を受賞し、ゴールデングローブ賞では作品賞(ドラマ部門)を受賞。第79回アカデミー賞では、作品賞や監督賞を含む全7部門でノミネートされて、作曲賞が唯一の受賞となった。助演女優賞では菊地凛子がノミネートされたことで、日本でも少し話題になった。

公開直後から賛否両論あったものの、世界的に高い評価を得たことは間違いない作品である。


登場人物

アメリカ

ケイト・ブランシェット/ブラッド・ピット

モロッコへ旅行にやってきたアメリカ人の夫婦。特にケイト・ブランシェット演じる妻スーザンは、本作における最大の犠牲者でもある。彼女が観光バスの中で何者かに撃たれたことによって、多くの悲劇が連鎖していく。

目の前で瀕死状態の妻を目の当たりにする夫リチャードは、モロッコの田舎町で救助を要請するも、言語の壁にぶち当たる。

銃撃事件を起こしてしまったモロッコの兄弟たちを最初の悲劇とするならば、その先で起こる夫婦の災難こそが第2の悲劇と言える。


メキシコ

アドリアナ・バラッザ/ガエル・ガルシア・ベルナル

アドリアナ・バラッザ演じるアメリアは、リチャードとスーザンにベビーシッターとして雇われたメキシコ移民の女性。二人の子供をまるで我が子のように育てている。

しかし、ガエル・ガルシア・ベルナル演じるクソ男の登場によって、ひょんなことから国境検問所でメキシコ人の不法労働者と間違われ、事件に巻き込まれてしまう。これが第3の悲劇。


日本

菊地凛子

母親を亡くし、愛に飢え、性的衝動を抑えられない少女チエコ。聴覚障害者の女子高生で、彼女を演じた菊地凛子が本当に素晴らしい。コミュニケーションによる壁を見事に体現した、本作を象徴するようなキャラクターである。

劇中では全裸を披露したりと、体当たり演技もあり、きっとイニャリトゥは手話だけではなく、性もコミュニケーションのひとつとして捉えていたのだと思う。そこら辺の日本人女優ではできない。菊地凛子はこれでオスカーを受賞できなかったのがめちゃくちゃ残念だ。

そして詳しいことまでは書けないが、彼女の身に起こる第4の悲劇こそが本編なのである。


ざっくり感想

ひとつのひとつの物語の関連性は薄く、題材とスケール感の割にはかなりの小品。映画としての地味さは否めないが、それ以上に深い物語が存在する。

また本作が公開される5年前。9.11で崩壊したワールドトレードセンタービルは、いわゆる現代のバベルの塔。グローバルなアメリカだからこその出来事とされており、ある種の風刺作品としても捉えることができる。実際、9.11後の混沌とした世界を示唆しているような内容で、テロが身近になったことによる不安感も画面の節々から感じさせられた。

しかも、メキシコ人による不法入国や不法移民問題にも触れられているため、社会的メッセージが凄まじい。やはりよく考えられた大傑作である。ぜひ時間がある方は騙されたと思って観てほしい。


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