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【怖い話?】梅雨になると思い出すこと。

あれは小学校4年生くらいの頃。シングルマザーで忙しかったお母さんは仕事で家におらず、僕は田舎の方にあるおじいちゃん家に預けられていた。時刻は夜の8時くらいで、テレビで特番の逃走中が放送していた。夢中になっていた僕の邪魔をしないように、おじいちゃんは「ご飯買ってくるからな」と出かけて行った。

ちょうど梅雨の時期だったこともあって、外は大雨で、ゴロゴロと雷も鳴っていたので、そんな遠くには出かけないだろうと思って、僕も「行ってらっしゃい」と一言だけ呟いて再び逃走中に視線を戻した。

おじいちゃんが出かけてから数分経ったとき、突拍子もなくいきなりプツンと家の中が真っ暗になった。どうやらブレーカーが落ちたらしい。しかし、テレビだけがなぜか灯っており、砂嵐がザザザザザ…と大きな音を立てて鳴り響いていた。当時の僕の身長ではブレーカーまで手が届かないし、そもそも家の中が真っ暗なので身動きすらとれない。棚の中に入ってあった懐中電灯を取り出して、僕は漫画を読み始めた。

すると、バンバンバンバンバンバンバン!!!と隣の部屋の窓が激しく揺れる音がした。僕はびっくりしたが、外は大雨だったこともあって、何か木のようなものが当たったのだろうと思った。

しかし、少ししてから再びバンバンバンバンバンバンバン!!バンバンバンバンバンバンバン!!と音が強くなっていくのがわかった。僕のいるリビングから窓までは数メートルあり、その場にいれば窓が割れたところで怪我はしないはずだけれど、うるさい音に我慢できなかった僕は、その窓を開けようと立ち上がった。

バンバンバンバンバンバンバン!まだ鳴っている。かなり大きな音を立てて、何かが窓に打ち付けられている。僕は振動している右側の窓ではなく、左側をゆっくりと開ける。外は薄暗い上に雨が降っていたので視界はかなり悪かったが、窓の周りにぶつかりそうなものは何もなく、そこに広がっていたのは大きなドブ川であった。

風の音だったのかな。そう思ったが、そこまで強い風は吹いていない。雨が部屋のなかに入ってきたので、僕は焦って窓を閉める。すると、窓一面にズラーーっとびちょびちょに濡れた手形がいくつも付けられいることに気づいた。驚いて体が硬直したが、そのあとすぐに窓に触れてみると、僕の手に水滴がついた。手形は内側から付けられいた。

流石に怖くなった僕は、走ってリビングへと戻り、もこもこの毛布にくるまった。毛布の中で懐中電灯を付けて、ただおじいちゃんの帰りを待つことにした。

ガラガラ。バタン。
勢いよく窓が開く音がした。

…ぺちゃ。
続けて窓から誰かが入ってくる音が聞こえた。

ぺた。ぺた。雨で濡れて湿った足音が、ゆっくりとこちらに近づいてきているのが分かった。

僕は急いで懐中電灯の明かりを消した。家の中はテレビの明かりと、ザザザザザとうるさい砂嵐の音だけが響いていた。

ぺた…。ぺた…。ぺた…。足音は鳴り止まない。むしろこちらに近づいてきている。

「さっきの子は、どこ?」

すぐ近くで掠れたおばあさんのような声がした。僕は毛布の中で小さな隙間を作って、声のした方を細目で覗いてみた。

紫色の血管の浮きでた皺まみれのつま先。泥のようなものが詰まって黒く汚れた爪。生きているとは思えないほど、あまりにも白すぎる肌。暗くて全体像は見れなかったが、明らかに精力を感じない。知らない誰かの姿がそこにはあった。

「さっきの男の子は、どこへ消えたのかしら」

窓の外から僕のことを見ていたらしく、「顔を見られた」その事実だけで僕は震え上がった。

ぺた。ぺた。ぽつり。ぽつり。濡れた足音がリビングの中をウロウロと歩き回っているのがわかる。そしてその女性は、とてつもなくドブ臭く、こちらに近づくたびに鼻の奥がつんとした。

「帰ったでー」

玄関の方からおじいちゃんの声がした。

その直後にカランと何か鉄のようなものが床に落ちる音がして、リビングの電気がついた。テレビは別の番組になっていて、逃走中はもう終わっていた。おじいちゃんはリビングへ来ると「おい!なんやねんこれ!」と声を荒らげる。僕は毛布から頭を出した。

リビングの床は、雨水と泥でベタベタに汚れており、足跡もしっかりとついていた。何者かがリビングの中を徘徊していたのは丸わかりだった。もちろん、窓も開きっぱなしだった。

そして、僕の近くには、刃が欠けてボロボロになった古い包丁が落ちていた。もしあの時、毛布の中に隠れていなかったら、僕は何者かに殺されていたのかもしれない。6月になると、毎年このことを思い出す。

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