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「どう使うか」をイメージすれば、 デザインのお金のかけどころが見えてくる。 | Yocouchi&Co.株式会社 横内尚樹 × TRUNK 【後編】

TRUNKのブランディングは、すべてお客さまとの共創によってできあがったものです。課題を解決するための進行過程で得られた気付きや、制作の裏側にあるストーリーをお伝えしていきます。

つくば市に美容室を展開するYocouchi & CO.とは、同社が法人化する2013年よりパートナーシップが始まりました。3店舗目となるTHE SUNのオープンとなった2020年には、Webサイトをリクルート向けに大幅リニューアル。代表の横内尚樹さんにサイト公開後の反応や、経営とデザインについてTRUNKでデザインしたYocouchi&CO.のショップ&オフィスでお話を伺いました。

横内 尚樹(よこうち なおき)
Yocouchi & Co.株式会社(ヨコウチアンドコーカブシキガイシャ)代表。茨城県つくば市内に、artisanale AVEDA、NATALIE、THE SUN、artisanale ninomiya を展開。美容室の運営にとどまらず、THREEやSHIGETAなどを取り扱う artisanale ninomiya cosme shop や古着のセレクトショップ THE SUN vintage をオープン。現在も新プロジェクトが進行中。

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「なにこのマンガ(笑)」と、狙い通りの反応。

笹目:今回のサイトリニューアル後の反応についても、お話を伺っていきたいです。トピックスとして、「横内尚樹美容伝説」というマンガコンテンツを作成しましたね。

横内:はい、主に学生向けのリクルートを目的としていたので、文章よりもマンガで面白く会社や経営者である僕の想いを知ってもらえたらと思って依頼しました。さっそく学生向けの説明会で紹介したのですが、「なにこのマンガ(笑)」と、いい反応でしたよ。その場で1話だけ見せて、続きは見ておいてって言えば、後で見てくれるじゃないですか。

笹目:狙い通りですね。お話を受けたときは、漫画家さんに依頼したことがないので、どうしようかなといろいろ考えていたんです。それで、堀道広さんでやったら面白いんじゃないかって思い、ご相談したらOKをいただけて。

横内:その行動力がいい。僕の半生も、描き方によってはシリアスすぎる話になっちゃいますから(笑)、堀先生に描いていただけて大正解でした。
笹目:そもそも美容室のサイトにマンガを載せるって、なかなか珍しいことですよね。プロの漫画家に頼めばもちろん費用もかかりますし。デザインに対してどうお金をかけるかを悩まれるお客さまは多いのですが、どう考えていらっしゃいますか?

横内:迷ってしまうのは、目的がはっきりしていないからじゃないでしょうか。できあがったデザインをどう使うかがイメージできていない。漠然とWebサイトをつくるだけなら、もちろんマンガなんていりません。でも今回は、やる気のある若い人に「他の美容室と全然違う」と、興味を持ってもらうことが第一の目的だったから、うちのブランドに合うクオリティの高いマンガは必須だった。僕は基本的にお金の使い方については慎重ですが、かけるべきところには惜しみなくかけます。そのかけどころのひとつが、今回はマンガだったと思います。

デザインは好みではなく、あくまでお客さまの視点で判断する。

笹目:使い道をイメージできているからでしょうか、横内さんはデザインに多くを求めすぎない印象もあります。

横内:そうですね。たとえば家を建てるとき、普通は理想をカタチにしたいと思いますよね。でも僕は、そもそも理想の家なんて建てることはできないと思っています。今できるのは「今のベスト」だけ。だって10年経って10歳年をとれば、階段がきつくなってきたとか、必ず問題がでてくるでしょ。そしたらその時直していけばいい、そういう考えです。

笹目:サービスの成長を時間軸で見て、今のベストを目指すというのは大切ですね。そう思えるのは、「凡事徹底」があるからでしょうか。今やるべきことをやりきるという。

横内:そうかもしれないです。そもそも運用方法が決まっていれば、「いつまでに、ここまでのクオリティであればOK」という線引きも明確です。僕はいつも80点であれば問題ないと思っていますが、TRUNKさんはいつも100点、120点で返ってきます。

笹目:ありがとうございます。具体的な内容についてはどのような視点で判断していますか?

横内:餅は餅屋ですから、デザイン的な部分はタッチしません。ただ、見てくれる方にとっての「読みやすさ」や「価格まわりなどの必要な情報」などは、しっかりチェックします。大切なのは個人的な好みかどうかではなく、あくまでお客さまを想った利他的な視点。おかげさまで今回のリニューアル後も、常連さんから「クオリティが高いね」「リクルートを意識したんでしょ」って言っていただけています。

笹目:ちゃんと意図が伝わっているんですね。

横内:サイトの目的をリクルートに振り切ったことで、会社の姿勢をお客さまに対して伝えることができて、結果的に顧客満足につながありましたね。

どんなやり方でも、その人を笑顔にすることがデザイン。

笹目:ヘアデザインというジャンルで、日々デザインを仕事にされていますが、ご自身にとってデザインはどんなものだと思いますか?

横内:その人にフィットしていることはもちろんですが、その人を笑顔にすることでしょうか。それは手の込んだデザインカラーかもしれないし、毛先を数ミリ切るだけかもしれない。究極を言えば、見た目がほぼ何も変わっていなくても、僕とお話をしたことが良かったと喜んでくれたらそれもデザイン。手法はなんでもいい。依頼してくれた人を笑顔にするというのが僕のデザインです。

笹目:カットやカラーは手段であって、いかにお客さまを満足させるかが大切ということですね。

横内:そうです。担当はお客さまのお話をしっかり聞き、それに対して提案した内容と価格にご納得いただいてから施術を始めることを大切にしています。サービス、技術のクオリティを上げてひとりひとりのお客さまに満足していただくことに重点をおいています。

笹目:ビジネスにおいても、やりたいことがシンプルで明快ですね。だから社員の方はもちろん、仕事を依頼される僕らも、プロとして目の前のことに専念できるんだなと思います。

業界を変えたい。そのために、自分のやりたいことだけで稼ぐ。

笹目:今後の展望を教えてください。

横内:僕は本気で美容業界を変えたいと思っています。そのひとつが、学校をつくること。ウチで働いてもらうことを条件に、入学金や授業料無料で美容を学べる特待生を迎え入れる環境をつくりたいんです。

僕自身、夜間学校に通っていた経験があり、学ぶ環境と人の将来について考えることが多くありました。今はさらに社会の格差が拡大していて、冗談じゃなく、子どもの将来は親がどれだけ塾代を払えるかになってしまった。じゃあ自分がこの社会に貢献できることは何かと考えたとき、自分の経験を本当に意欲のある子に伝えて、育てることだと思ったんです。自分たちも潤いたいけれど、その次、さらに次の世代までずっと循環していく仕組みをつくる。それができれば、いつ自分がフェードアウトしてもいいくらいです。

笹目:すばらしいですね。そうした目標のなかで、デザインを経営に取り入れることについてどう考えますか?

横内:目標実現には、あと7年かかる見立てですが、なんとか5年くらいで叶えたい。そのためにもお金が必要です。とはいえその手段は何でもいいわけではなくて、自分のやりたいことしかやりたくない。ダサいことはしたくないんです。新しい店舗を出す、新事業を立ち上げるにも、すべて自分がこだわったと言えるものでありたいから、デザインは欠かせないものです。デザインは、会社のブランド力そのものだから。TRUNKさんとは長いお付き合いで半分友だちみたいですが、これからもプロとプロとしてお付き合いしていきたいですね。

笹目:お互いに今のベストを尽くす精神でお付き合いしていきましょう。今日はありがとうございました。

ライティング|平嶋さやか