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【ドキュメンタリー感想】今、父を殺しました ある虐待少年の叫び

2019年、ルイジアナ州で起きた尊属殺人事件。自ら警察に通報したアンソニー・テンプレット、18歳。彼が父親を射殺した。

彼は第二級殺人で裁判を受けることになる。

彼は父親バートとふたり暮らし。
しかし近隣の住人は「息子の姿を見たことがない」と言う。
バートとご近所付き合いをしていた住人もいない。

やがてバートが異常なほどアンソニーを監視していたことが分かる。
自宅には多すぎる程の監視カメラ、GPSによる位置確認、追跡、学校へは通わせておらずアンソニーの学力は小学低学年レベルだった。
一時期一緒に暮らした継母(と義弟)のおかげで基礎レベルの学力はつけられたが、アンソニーは他に何も教育を受けていない。
 
外界との接触を断たれ、父親から育児放棄され虐待されていた少年。
つまり、彼は社会へヘルプを求める手段も方法も知らずに育ってきた少年だということ。

やがてアンソニーの実母が判明。

11年前、テキサス州で親権が彼女側にあったに関わらず、それを認めなかったバートがルイジアナ州より手を回して工作→それによりアンソニーがバートの手に渡り、実質連れ去られた状態であったことが判明。

アンソニーの実母、継母、義弟の証言からバートの真の姿が明らかに。

支配欲の強いDV男。
過去歴には警察に犯行履歴があった。

アンソニーは父親から虐待を逃れる術として感情を殺して生きてきた子供で表情が乏しい。
検事補も最初、アンソニーの態度に不安を覚え「彼の境遇は気の毒だが殺人は殺人である」の意見だった。

だが、彼には本来有る筈の医療記録、学校記録等がない。
一方でバートと近い人間からは彼のDVを訴える公式文書ある。

弁護側は犯罪心理学の専門家の見解を求めた。
彼らはアンソニーは社会の驚異ではないの結論を出した。

これらが決め手になり、彼は二級殺人での裁判は免れ、保護観察処分となる。

検事補が懸念していたのは、録画された彼の取調室での態度と、彼が父親を射殺したのは防衛か否か(3発発射されている)の2点。

しかし考慮すべきは、アンソニーが長年に受けた心理的虐待の大きさ。
彼は外界と隔絶され(あるいは父親から怒鳴る/暴力を受けることから身を守るために隔絶し)助けを求める術もアクセスする手段を持たなかった。
アンソニーへの洗脳、心理的虐待がそれだけ大きく、父親へ歯向かう気力を奪っていたのは事実。
しかし、今回は身の危険を感じ、そして自衛の手段があり、実行した。

インタビューの最後の質問にアンソニーの表情が崩れる。
この子泣けるようになったんだな……と思うのと"普通になる"ことの難しさ、奪われた子供時代と開かれた未来に直面し混乱しているのかな……とぼんやり思う。

彼の祖母が「幸せになってほしい、幸せ?」と問うと「幸せだよ」と答えたアンソニー。

導く人達に恵まれ良き道を行けることを願う。

おしまい。

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