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学術系クラウドファンディングに挑戦した3つの理由

この度、研究資金獲得を目指し、アカデミスト社を通じてクラウドファンディングに挑戦することにしました。

なぜわざわざクラウドファンディングなのか?と複数人から聞かれたので、
クラウドファンディングを始めた理由を記したいと思います。

クラウドファンディングとは

ご存知の方も多いかと思いますが、
クラウドファンディングは、インターネット上でプロジェクトを公開し、
プロジェクト内容に賛同してくれた人から資金を集める仕組みをいいます。
多くの場合は、支援者に対してリターンを提供しますが、
学術系の場合は謝辞への名前の記載やオンラインセミナーなど、
研究にまつわるリターンを推奨することが多いようです。

研究資金の調達方法

研究するにも資金が必要です。
アンケート調査でも、何千、何万人という規模になると数百万円以上の費用がかかります。
研究費用は研究者自らで獲得する必要があり、従来の研究資金の獲得方法は概ね次の3つでした。

  1. 国からの公的資金

  2. 民間財団からの助成金

  3. 企業との共同研究

一般的な方法が国からの公的資金です。
中でも科研費(科学研究費補助金)は、
研究者なら誰もが応募する主要な研究助成の1つです。
人文・社会科学から自然科学まで、あらゆる分野が対象となります。
しかし、国の財政状況の悪化、研究資金の不正利用などから、
研究資金の使途に対する説明責任を強く求められ、使途にも制限があります。
また、成果の得られる見込みが高い研究に資金が集中しやすいと言われており、
実際、基礎研究分野では特定の研究代表者に偏る傾向があると指摘されています [1]。

続いて、民間財団からの助成金です。
様々な助成金があり、多様な研究を支える貴重な研究基盤を提供しています。
一方で、産業・サービスへの応用を見込んだ研究助成も少なくないため、
実利が見込めない研究は助成を得にくいといえます。

最後に、企業との共同研究になります。
企業から研究資金を受ける代わりに、企業と共同して研究開発を行います。
ある程度実績のある立場でしか実現は難しいと考えられます。
また、民間財団からの助成と同様、
収益化の可能性が低い研究では共同研究は難しいでしょう。

クラウドファンディングのメリット

今回研究調査を行うに当たって、科研費や民間助成での研究費獲得についても、
クラウドファンディングと並行して準備を進めています。
それぞれに長所・短所があり、比較を通じてそれがより鮮明に感じられるようになりました。

クラウドファンディングによる研究費獲得のメリットは、
柔軟性が高いこと、これに尽きるかと思います。

具体的には、

  1. 資金準備のタイミングを選ばない

  2. 資金の用途が比較的自由

  3. 研究内容を研究者以外にも知ってもらう機会

の3点にまとめることができます。

資金準備のタイミングを選ばない

公的資金や民間助成は公募のため、
必要な書類を準備し期限までに提出した上で、
審査を経て採択された後に研究費を得ることができます。
研究テーマや研究規模によっては近い期限の公募がないこともあり、
公募が出るまで待たなければなりません。
待てる場合は良いのですが、
資金獲得を急ぐ場合は不都合です。
クラウドファンディングであれば、
いつでも募集をかけることができ実施準備から実際に調達までの期間は数ヶ月
と、比較的短期間での資金獲得が可能です。

資金の用途が比較的自由

公的資金などでは、
資金の使用用途を明確にし事細かに報告する義務があります。
また、使用用途が規定されており制限があります。
さらに、繰り越しができなかったり、できたとしても手続きが煩雑であったり、
柔軟な運用が難しいのが現状です。
説明責任を果たすためとはいえ、多くの研究者がその煩雑さに嫌気が差しているのではないでしょうか?

その点、クラウドファンディングは、使用用途や使用期限に制約はありません。
所属する研究機関のルール内であれば、自由に活用できます。
また、個人に資金が振り込まれる場合は、生活費などに当てることも可能です。

研究内容を研究者以外にも知ってもらう機会

研究テーマ・研究内容を広く一般に知ってもらうことができるのは、
クラウドファンディングの最大の強みと言って良いかも知れません。
今回、個人的に関係のある人に宣伝する中で、
研究内容に共感してくれる応援を複数いただきました。
研究は多くの労力と時間をかけて行います。
折角なので、学会発表、論文にして終わりではなく、
一般の方々にも広く知ってもらいたいという想いがあります。
また、研究に関心を持ってくれた人の中から、
色々なアイデア・意見をもらい、研究自体の発展にも繋がることを、
個人的には期待しています。

今回お世話になっているアカデミスト社は、
特にこの点に注力されている運営会社ではないかと思います。
独自のメディアをもち、一般の方々に向けて様々な研究について情報発信されています。
また、研究者同士のコミュニティづくりも支援されており、
一研究者として非常に有難い環境だと感じています。

クラウドファンディングの課題

以上、クラウドファンディングによる研究資金調達のメリットについて、
私見を述べてみました。
研究者でもクラウドファンディングの活用が普及し、
研究費獲得方法としてスタンダードになることを願っています。

一方、上記のメリットの裏返しとして、
研究資金の不適切な運用が懸念されます。

クラウドファンディングによる詐欺事件なども報道されており、
資金の使途について透明性を確保する必要があります。
これについて明確な指針はなく、研究者個人の倫理観に委ねられているのが現状です。

不透明な資金運用の事例が増えれば、
クラウドファンディング=リスクの高い投資
として認識されてしまい、廃れていく危険性があります。

また、公的資金等と同じように制約が増えていき、
クラウドファンディングの強みが失われてしまうかもしれません。

学術系クラウドファンディングが今後も健全に発展していくためには、
支援を受けた研究者個々人が、高い倫理観を以て研究資金を適切に使用する必要があると考えます。

以上、学術系クラウドファンディングについて考えたことをまとめてみました。

クラウドファンディングを開始してから既に1週間ほど経過しており、
募集期間が終わったら、今回の経験をまとめてみたいと思います。

参考文献

[1] S. Shibayama, Distribution of academic research funds: A case of Japanese national research grant. Scientometrics, 88(1), 43–60(2011)
網中裕一, 吉岡(小林)徹. 日本におけるクラウドファンディングを通じた科学研究支援の動機. 研究技術計画, 2020, 35.1: 77-95.



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