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「庭仕事の真髄」を読んで:ライカース刑務所の試み

「庭仕事の真髄」を読んでとても感動したので、紹介する。この本は、精神医学者スー・スチュアート・スミスが箱庭療法を使って精神を病んだ人々を治癒していく様子を描いたものだ。私はこの本によって庭園と人間の精神が密接な関係性を持っていることに気づかされた。植物の持つメタファー的なものの見方が私の感覚にとてもフィットしてこの本を読む度に何か感動を覚えるのだった。


最初は、本書の一節「ライカース刑務所の試み」について書こう。ライカース刑務所では囚人たちが庭園で植物の育て方や世話の方法を学ぶプロジェクトを行ってきた。この治療法が庭園療法と呼ばれている。この著者はそのプログラムに参加し、徐々にその庭園療法の魅力に引き込まれていくのだった。

ライカーズ刑務所と庭園療法

ライカーズ刑務所

ライカーズ刑務所は米国ニューヨーク市のライカーズ島にある世界最大規模の刑務所であり、合計で8000人の男女を収監している。

グリーンハウスプログラム

グリーンハウスプログラムは、ニューヨーク厚生局とニューヨーク市教育局との協力でニューヨーク園芸協会が運営するプログラムだ。詳しくは引用から:

このプロジェクトには毎年400人の男女が参加しており、植物の育て方、世話の方法を学び、その活動を通じて、希望とやる気を引き出し、それによって再び収監されなくてもよいように支援するのだ

「庭仕事の真髄」

園芸療法は再犯率を下げる

刑期を終えた人が再就職するのは非常に難しい。通常の3年以内に刑務所に戻ってくる再犯率は、通常の場合、65%だが、庭園療法を受けた人の場合は、10~15%と非常に低くなっている。刑務所の建物内では暴力事件はあったが、過去30年間には庭のある区域では暴力沙汰は起きていなかった。

庭園療法の有無による再犯率の比較

庭が人々に与える効果

本文には素晴らしい洞察に満ちた文章があるのそのまま引用したい。庭園が人々に幾つかの効果を与えるので、それについて紹介したい。

庭は人々を平等にする

庭には人間を平等にする効果があるということだ。そこでは社会的な階層も人種的な分断も他よりもずっと少ない。土に触れて働くことは、人と人の間に真のつながりを育てるようだ。そこには、人と人の関係を特徴づける気取った態度も偏見もないのだ。

「庭仕事の真髄」

庭で作業をしている人々は通常の人間関係の中でかぶっている仮面をする必要がなくなり、自由を感じることができるようになる。その結果、平等意識が生まれるのだろう。

身体の自由から内面の自由へ

参加者が庭に出て身体の自由を感じると、内面の自由も続いて感じられ、違った生き方の可能性をふと考えるようになるのだ。

「庭仕事の真髄」

人間は身体の自由を感じると、次には内面的、つまり精神的な自由を感じるようになる。これは日本の武道に通づる考え方だ。つまり、大技心であり、体→技→心の順番で成長していく。(一般には、心技体と呼ばれるが、この誤謬は、軍国主義的なスポ根によってゆがめられた精神主義の影響だと思う。)

植物のもろさが残酷性を取り除く

幼いころに十分に大事にされなかった場合、それどころか実際に経験したものが虐待や暴力だった場合、後の人生の中で何かを大事にする仕方を学ぶのは、困難に満ちたものとなる。心の中にひな形がないというだけでなく、他者の中のもろさが自分の中の最悪のものを引き出す可能性がある。これが、虐待が無意識のうちに繰り返される理由だ。(中略)植物のもろさは小動物や弱い人間のもろさとは異なっている。植物に痛みを加えることができないとう事実は、残酷な行為を呼び込まないという意味だ。植物を扱うのは、大事にすること優しさを学ぶための安全なやり方であり、(以下略)

「庭仕事の真髄」

ここで重要なのは、安全性が精神的な学びのために必要だということだ。植物はその本質から残酷性とは関りをもたないので、心を病んだ人間に警戒心を与えることはしない。従って、植物は彼らに安全な場所を提供し、学びを促進することができるのだ。

最後に

ライカース刑務所での庭園療法はうまくいっており、心を病んでいる人には効果のある心理療法である。本書では、刑務所だけではなく、学校から落ちこぼれた子供たちや復員兵士など様々な精神疾患患者にも適応例が挙げられており、普遍的に有効な精神疾患への有効な治療法であると思われる。



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