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プロローグ3

WC:女性の手によって千晴はぐるんと体を返されるが、時すでに遅く…

 ここから、TRPGにおいて大きなウェイトを占めることが多い部分である「戦闘」が開始されます。
 戦闘では、それ用の細かいルールがどっさり入ってくることが多く、初心者がTRPGを始める上での大きな障害になることもあるのですが、同時に、TRPGに限らず色々なゲームにおいてそうであるように、知恵と運を振り絞って勝敗を決めるという、『ゲーム』としての楽しみが詰まっている部分でもあります。

 このリプレイは、<M0>のプレイガイドも兼ねますので、<M0>のシステムも解説しながら戦闘の流れを追ってゆきます。しかし、上記のとおり、戦闘は独特の用語などが飛び交い、難解な状態になりやすいので、ストーリーを追いたいだけの方や、TRPG初心者の方は、読まずに「戦闘終了」へ飛んでしまっても良いと思います。


 WC:千晴は『スタートチャージなし、ウェイト6』のペナルティで戦闘スタート。 

千晴:なんだってー!!!

玄:そらそうだろ(笑)。

  迂闊な行動をとればペナルティが発生するのもTRPGでは良くある光景です。
 本来ならば避けるべきことですが、今回の千晴のように、あくまでキャラクターの個性に従い、あえて不利益のある行動をとるのも、非常にTRPGらしいスタイルといえます。

 TRPGの『RP』は、ロールプレイング、すなわち、「役を演じる」こと。自分の意志を貫いて失敗するキャラクターは、機械的に効率の良い行動をとるキャラクターより魅力的なものです。
 ペナルティの内容については、以後の説明でおいおい理解できる筈ですので、ここでの説明は割愛します。

WC:隊列確認。

玄:俺は前衛

千晴:前いけるよ。

玄:じゃ、二人前衛。

WC:敵は、2体の獣型怪異。
赤い気を纏った山犬「クク」が前衛。
黄色の燐光を引く狐「コノヤ」が後衛。

  戦闘が開始されたら、まずは戦況、つまり敵味方の数や配置の確認を行います。
 M0では、敵味方ともに、敵に隣接し、攻撃しやすいが同時に攻撃されやすい「前衛」、敵とやや距離を置き、攻撃を受けにくいが攻撃しずらい「後衛」のどちらかに位置を取ることが出来ます。 

千晴:スタートチャージみんながんばってね。

WC:ではスタートチャージ。

玄:ノーマル。ダイス6で理黒属性をチャージ。

WC:山犬ククは赤烈、コノヤは黄華の属性力をそれぞれチャージ。

 M-0における特殊能力は、世界に満ちる5つの力(属性)によって発動します。 
 論理と整合性によって体系だてられる科学技術や魔道を用いる<理黒>属性、自然崇拝や生命の息吹によって生まれる自然魔術や古神道の属する<天青>属性、哲学的な思想や強固な信仰によって作り出される魔術や聖剣術の基となる<統白>属性、奔放な情熱や強い精神力によって燃え上がるPSIや特殊闘技を生み出す<赤烈>属性、混沌と雑多な情報によって構築される情報技術や召喚魔術が混在する<黄華>属性、キャラクターは、このうち1つの属性の加護を受けており、それにふさわしい特殊能力を使うことができます。

 それぞれの属性には上図のような優劣があり、攻防時には、それらを考慮することでM-0独自の戦略が生まれてゆくのです。

 M-0には、多くのRPGで言うところのMP(マジックポイント)の概念はありません。特殊能力の使用時は、周囲から、その力の源となる「属性力」を集め、自分の力として蓄積することで、それを消費して特殊な術を発動したり、身を守ったりできるのです。この、属性力を集める行動を<チャージ>と呼びます。

1ターン目

千晴:<千誓>目を閉じ、自分の戦いがなんの為であるか宣言することで、心を研ぎ澄ます。
「千晴の名において、怪異を滅する」…ちらっと美人を見る。

<千誓>
心を研ぎ澄まし、属性力のチャージ量を増大させる千晴のスキル。

WC:邪念が(笑)。

千晴:ケアフルで…ダイス7なので…合計6。白属性がたまっていきます。

WC:次はコノヤです。黄色を蓄積…

千晴:<一號>相手の集中を、大声で阻害します。ケアフルで…威力11。

<一號>
敵の属性力のチャージ量を威力と等しいだけ減少させる千晴のスキル。

WC:阻害された。

 「属性力」の管理がM-0における攻防の要となります。属性力が不足すれば、満足に攻撃を行うことも出来ず、大きな威力の攻撃から身を守ることも出来なくなるのですから。
 千晴は、属性力のチャージ量を上げるスキルや、敵の属性力チャージを阻害するスキルを持つキャラクターです。
 これらのスキルを駆使することで、彼我の属性力を味方有利に保つことが出来るのです。

3ターン目

玄:「天元!」左腕の盾中央の玉が紫がかった黒いオーラを放ち、右手に巨大な鉤爪状に宿る。
「下がれ下郎!」

千晴:「ははー。」

玄:右手をなぎ払いオーラを放って攻撃する。

WC:殿中でござる!殿中でござる!

玄:ククに<闇爪>。ケアフルで、テクニック12!

<闇爪>
前列または後列をまとめて攻撃する玄の理黒属性攻撃スキル。

WC:回避はできません。威力どうぞ。

玄:ギャンブルで、ダイス2…低い!威力13。

WC:ひくー。多少ガードして…残っていた赤属性を蹴散らして、かすかにダメージを与えた。

玄:<再駆動>で、まだ左手に鉤爪は残っている。

<再駆動>
一度発動させたスキルを、もう一度発動させることの出来る玄のスキル。

千晴:これは期待。 

 属性力は、消費することで、攻撃や回復、能力強化などのスキルを発動させることが出来ます。しかし、適当に攻撃スキルを撃つだけでは、回避されたり、敵の属性力によって威力を減衰されたりしてしまいます。
 そこで重要になるのが、属性間の相性を利用することです。
 玄の属性は理黒で、ククの赤烈属性に対して有利に働きます。この関係を利用し、玄はククにダメージを与えつつその蓄積した赤の属性力を根こそぎ消し去ります。 

千晴:ククに<一白刀>。十字架の束をした光の剣で敵を切りつけます。
命中13。

WC:回避せず。

千晴:威力24。

WC:ガードしますが、ダメージは通りました。

千晴:おけ! 

 属性力は、攻撃の威力を減衰させる鎧代わりにも使用できるため、十分に属性力をチャージした敵にダメージを与えるのは容易ではありません。
 そこで重要になるのが連続攻撃です。
 単発の攻撃を繰り返すより、一撃目の攻撃によって削った属性力をチャージさせる間を与えずに追撃を行うことで、間隔の開いた単発攻撃を繰り返すよりもはるかに有効な打撃を与えることが出来るのです。

5ターン目

千晴:ククに<一白刀>。命中5。

WC:回避しない。

千晴:威力28。

WC:ガード17で、そこそこダメージ食らった。

千晴:まだまだいくよー!!

玄:いけーーー!

千晴:玄が。

玄:おい!

WC:わかってた(笑)。

玄:<闇爪>再駆動!命中8。

WC:よけない。よけられない。

玄:…威力13。

千晴:威力まで再駆動しなくても…

玄:まったくだ…

WC:ガード12で、損害軽微。

千晴:はやく美人さんと話がしたいよ…

  連続で攻撃するも、ダイスの目がいまいちで、ククを倒しきれない。

 WC:コノヤ。尾から二筋の金の矢が飛び出し、ふたりを狙って飛来。
命中ひっくー。4(笑)。

玄:回避8。回避した!

千晴:回避7。俺も回避。

  そうこうするうちに、属性値をチャージしたコノヤの反撃が飛来するが、これは危なげなく対処。
 しかし、攻撃に属性力を使い果たした2人は、再度属性力のチャージを余儀なくされる。その間にククも属性力を再チャージ。ダメージを負ったククを倒しきれないまま戦いは続く。

 攻防の中で、「回避する」「回避しない」「ガードする」などの用語が飛び交っています。
 これらは全て防御側の発言で、攻撃に対して「どのように対処するか」を表しています。M-0では、攻撃に対し、回避して攻撃を無効化する「回避」と、攻撃を受け止めて損害を減らす「ガード」の2通りの防御が出来ます。
 「回避」「ガード」の2つの防御法には、それぞれに一長一短があります。
 「回避」は、成功すれば攻撃を完全に無効化できますが、失敗すると攻撃のダメージを全く軽減することなく受けてしまいます。
 「ガード」は、確実に攻撃のダメージを減らすことが出来ますが、完全にダメージを0にするのは難しく、攻撃に付与された特殊効果などを回避することもできません。
 M-0では、攻撃のたびごとに、命中値や攻撃の特性に対して有効な防御を選択してゆかねばならないのです。

WC:クク。雄たけびを上げ、いくばくかの命を赤属性に変換。
で、敵陣に炎をまとって突撃。縦一列攻撃で、命中9。

千晴:ガード。

玄:回避。ダイス9!回避成功!

WC:威力はギャンブル…ダイス9で、威力49。

ギャンブルマトリクスは、失敗も多い代わりに、本来有り得ないような大ダメージをたたき出すことがある。

千晴:<女の涙ポイント>で、「実は」シールドではなく、<身代わり>をお店の女店員におしつけられていた。

WC:やっぱり女なんか(笑)。

千晴:身代わりのわら人形が飛び散った。

玄:店員さんいい読みだな(笑)。

WC:その店員微妙(笑)。

  ダイスの悪戯か、ククの反撃がまさかの高威力に。千晴は、<女の涙ポイント>で、装備アイテムを、「実は、ダメージを一回だけ肩代わりしてくれる<身代わり>に変えておいた」ことにし、これを凌ぐ。 

 一応ヒーローものであるM-0には、使用することでピンチを切り抜けることのできる、いわゆるヒーローポイントも用意されています。消費することで、僅かに過去を改変できたり、判定のダイスを加算できたりするこのポイントのネーミングも、特殊能力の設定などと同じく、プレイヤーが自由に決めることができます。つまり、ポイントの名前でキャラクターの個性を表現することも出来るのです。

 ちなみに今回の物語では、女性に弱い千晴は「女性を泣かせない誓い」を表現する<女の涙ポイント>、友誼に篤い玄は友人のために頑張れる<友情ポイント>と名づけてあります。 

千晴:一応攻撃にはいける。

玄:いこうぜ!

千晴:全力ギャンブルか?(笑) 

<全力>
判定のダイスを2回振り、好きなほうを使えるようになる行動オプション。
ただし、実行すると、直後の行動速度に大きなマイナス修正(ウェイト)を受ける。

玄:ケアフル多めのマトリクスなら、それでもいいんじゃない?

千晴:いや、命中はケアフル、威力をギャンブルで。

玄:いけええええええ!

千晴:全力<一白刀>!命中9です。

WC:回避試みず。威力どうぞ。

千晴:威力38!いったか?!

WC:ガード9と赤の障壁1、計10点削って…

千晴PL:どきどき。

玄PL:もじもじ。

WC:力及ばずカグヤの霧になって散りました

<カグヤ>
赤烈属性のこと。

2人:やったー!!!

千晴:「見たか!」

  属性力が、攻撃スキルなどの発動と、防御時のダメージ軽減の両方に用いられるということは、多くの場合、大技の後などには属性力が減少しており、追撃のチャンスでもあるということです。
 ククの大技直後の隙を見逃さずに叩き込まれた千晴の全力攻撃で、山犬の怪異ククは消滅。
 しかし、その代償に、大きな「ウェイト」を受けてしまう。

 ウェイトとは、多くのスキル、そして特殊な行動を行うことによって生じる「行動後の隙」のようなもので、直後の行動の速度を遅らせる効果を持っています。このウェイトの影響で、ターン開始時に行うスピード判定(行動順決定の判定)が0以下の値になってしまった場合。行動順が遅れるだけでなく、そのターンは行動不能になってしまいます。
 つまり、ウェイトの大きい大技や無理な行動の直後は、スピード判定で出来るだけ大きな成果を出し、次ターン以降への影響を小さくすることが戦術的に重要になるのです。
 ここまでのリプレイではカットしていましたが、玄の攻撃スキルは広範囲対象である分、属性力の消費もウェイトも大きく、発動にも、発動後のウェイトからの復帰にも手間がかかっています。また、千晴の攻撃スキルは、属性力の消費、ウェイトともに小さく、小回りの利くスキルですが、攻撃範囲は狭く、遠距離攻撃も出来ません。その分、千晴は、全力攻撃などのオプション行動を取れますが、やはり、それによってウェイトを受けています。

 リプレイ上、「なにもしていない」ように見えるターンの多くは、「属性力のチャージ」か「ウェイトからの復帰」を行っているわけですね。

9ターン目

千晴:もどってこないとなー…

玄:スピード、-3。

千晴:おーい、玄ーかえってこーい!
俺のスピードは、ノーマルで、ダイス…0。スピード-3。出遅れ。

玄:かえってこーいーよー♪

WC:お前もな!

  ククを無理して倒した代償か、2人ともウェイトでスピード値がマイナスに達し、行動できず。
 とはいえ、残ったコノヤも、補助型の怪異であるため、攻撃スキルの発動には時間ががかる。
 千晴のチャージ妨害の効果もあり、先に属性力をためたのは玄。戦闘が長引くと、疲労がたまり、さらに不利になるため、ここで決めようと…

11ターン目

玄:よし、全力<闇爪>!
「控えろおおおおおおお!」

千晴:「この紋所が目に入らぬか!」

玄:ダイスは1と3! 命中4!

WC:それは(笑)。
回避で、ダイス9。目でよけた。ギラリ!
で、結局無駄にウェイト増やしただけか?

玄:だけ!ウェイト16(笑)。

WC:もう君はやること無いな(笑)。

玄:まったくないよ!

  全力での攻撃も、あえなく空振り。スキルの基本ウェイトに加え、全力攻撃の分で膨れ上がったウェイトで、2~3ターンは行動不能確定。行動可能になる頃には、疲労で動けなくなっているはず、というお手上げ状態。
 対して、反撃のコノヤもダイスの目が低い。

 WC:コノヤ。尾を振って、2人に二筋の黄金の鏑矢を放つ。
命中は…ダイス0。おい…

千晴:いいねー!

玄:おおお!

WC:矢は明後日のほうにとんでった。

玄:「こういう立ち位置で見ると、あれきれーだなー。」

WC:余裕だなー。

玄:当たってないからね(笑)。

 

13ターン目

千晴:どうするかな…属性はあるんだけど。

玄:いけー!

千晴:むりむり(笑)。

千晴の統白属性は、コノヤの黄華属性に弱いため、
ある程度属性力がチャージされた状態では、コノヤにはダメージを与えられない。

玄:ですよねー。

  双方決め手にかける状態になってきているが、持久戦になれば、疲労で行動不能になる人間と、そもそも疲労しない怪異では、怪異が最後に勝つのは見えている。
 属性に優劣がなく有効な攻撃が繰り出せる玄は行動不能、行動は可能だが属性で不利な千晴は… 

千晴:アイテム使うしかないか。
ホスト名刺を投げる!「よろしく!」

ホスト名刺
天青属性の攻撃アイテム。実際は護符。
千晴が、自分の天敵である黄華属性の敵に対する奥の手として用意しておいたもの。
使いきりアイテムとしてはお高価い。

WC:仮想狐「ハッ!?」

玄:「よろしく!」

仮想狐(WC):「次にお前は『全力護符!』という。」

千晴:「全力護符! …はっ!?」

WC:(笑)。で、命中は?

千晴:命中7。

WC:そんなん回避で…ダイス…0…あーー!

千晴:いいね! 
威力ダイス…ギャンブルで…9!きたー!!

玄:きたああああああ!

千晴:威力42の青属星じゃ!!くらえ!

WC:でけえ!一撃で狐は砕けて消えた。

玄:よし!

千晴:女の涙も涸れ果てたよ。 

玄:友情もな(笑)。

この戦いは、導入戦としてはかなり厳しかったようで、2人とも、それぞれのヒーローポイント<女の涙ポイント><友情ポイント>を完全に使い切っている。

千晴:友情は枯れるな!

戦闘終了。


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