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永遠にはない色彩と光景と音楽を(2013/05/08/NHK HALL 五十嵐隆【生還】)

会場内に響く女性ヴォーカルのSE。new waveとAmbientの中間くらいの音楽。

客電が消え

様々な世代の、様々な性別の、でも彼の音楽を待っていた人たちが立ち上がる。

ひらひらとステージを覆う半透明のレース。

その向こうに座っている五十嵐隆のシルエット。
彼の声を、彼の音楽を待っていた人たち。そして、鳴らされる最初の音。

ライブのタイトル【生還】

そこで半分くらい予想はできていた。でも、それが最初に鳴らされるとは思わなかった。奏でられるメロディ。


一緒にいた友人の肩を叩く。口からこぼれる声「なんだこれ」

涙が止まらなかった。

そして、聴こえてくるドラム、まさかと思った。でも、このドラムは間違いなくあのドラムの音。


立っていられなくて、かがんで嗚咽をこらえる。

五十嵐隆が帰ってきて、また歌をうたうということ。それだけで、それだけをずっと待ってきた。

でも、ステージから聴こえるドラム、ベース、そして五十嵐の声、薄い膜の向こうのシルエットの3人。


この人生で、再び、同じステージにあの3人が立つ姿を見ることがあるとは正直、思っていなかった。そう呼んでいいのか、複雑な気持ちもあるけれど、でもNHKホールのステージの上にはSyrup16gが立っていた。




2曲目、sonic disorderの途中でカーテンは両方に引いていき、完全に彼らの姿が見える。クールにベースを引くマキリン、持てる力の全てをドラムに叩きこむかのようにドラミングするたいこさん。そして、五十嵐がそこには居た。


と、帰ってきてある程度の時間が経過した今は思う。これを書いている21時過ぎ、ちょうど、24時間前の今くらいにライブが終わった。その時は、ぼうっとしすぎて、何が起きていたのか、そのことを考える余裕もなかった。

某所から拝借したセットリスト。

  
Reborn
Sonic Disorder
神のカルマ
I.N.M
生活
赤いカラス
新曲
新曲
新曲
新曲
新曲
明日を落としても
センチメンタル
月になって
落堕
天才
Coup d'Etat
空をなくす

en1
パープルムカデ
リアル

en2
翌日


赤いカラスを含めて、そこまでは聴いたことのある曲。でも解散前より、五十嵐さんの声はずっと出ている気がした。出ているだけじゃなくて、今のモードの歌い方なんだと思った。ギターも・・・・いや、うっかりさんで曲間違いとか、相変わらずつかめない感じのゆるい喋りとかも、変わっていないような部分もあって、でも現在の五十嵐さんだったと思った。


5曲の新曲のうち、3曲目の曲がとても良かった。老人のようにとか歌っていた曲。
やっぱり、未発表曲あるんだなと、そこだけ冷静に考えたのを覚えている。というか、全曲未発表曲のライブやるんじゃないかと思っていたくらいだったし。


MCについては、とても印象的だったのが鼻をかんだときに、会場内で笑った声がして、「笑い方で母親だってわかりました」みたいなことを五十嵐さんがいっていて、ああお父さんが亡くなってから、お母さんと交流あるのかなと少しほっとしたこと。たしか離婚してからしばらく会ってなかったみたいな話を聞いたことがあったので・・・・・。ライブ後には親戚一同から送られた花が展示されてたみたいな話もあるし、そういう交流があったのなら良かったと思った。


あとね、ライブの終盤にさ、昨日のライブをやるきっかけみたいな話をしていて、半年前まで、ライブやる予定も何もなかったんだって。で、ダイマスさんとかお世話になった人の話とかスタッフさんに感謝してる話して、その時に、「複雑な心境もあったと思うんですけど、引き受けて一肌脱いでくれたメンバーの2人に感謝してます」みたいなことを言ったのね。

メンバーの2人って言ったの。Syrup16gなんだって、改めて思ったらまたライブ中なのに涙止まらなくなってさ。


最後の「翌日」は五十嵐さんが20年近く前に、中畑さんに最高の曲が書けたから聞いてってチャリに乗って聞かせに言った時のヴァージョンで演奏。



ただのライブとして、昨日のライブを評価するのはごめん、無理だ。
2度と観ることができなかったと思っていたライブを、結果的に見てしまったという驚き。というか、あれは本当に現実だったんだろうかと今でも思う。だってライブ終わった時に、友人にずっと「何が起こったのかわかんねえ、わかんねえ・・・・」ってしつこくつぶやいてたもの俺。


落堕もムカデも、リアルも、もう、なんていうか、音がそのままぶつかってきて、俺が全部消えてしまうくらいに圧倒的なもので、ああ、俺、生きてるんだって思った。その時体中が未来を感じたんだって、こういうことかって思った。


ライブ後も、何かの発表はない。
これをもってSyrup16gが再結成をするということでもないらしい。

でも、そんなもんクソ喰らえなんだよ馬鹿野郎(神のカルマ躁バージョン風に)って思う。

五十嵐さんが今後について何も語らなかったのは、何かが決まっているわけではないのに、何かを言って期待させるのが嫌だったからなんじゃないかと。

期待させて裏切るくらいなら、不誠実と思われても何も言わないほうが誠実だと思っているのではないかと。

こういう俺みたいな考えで期待して、妄想してしまうのは、より五十嵐さんを追い込むし、苦しませるんだろうけど、絶対的なマンセーじゃなく、不誠実に見える態度が誠実なことなんじゃないかって本当に思うんだ。そして、それも責任感だし、優しさなんじゃないかって。

でも、彼はまたステージに帰ってきてくれたよ。何の約束もないけど、保証もしないけど、4年ぶりにステージに立ったし、生きているうちに目にすることはないと思っていたsyrup16gのステージも見せてくれた。

あの光の向こうにあったものが昨日のライブだったのかどうかはわからない。

答えはまた見えなくなって、はっきりしたものなんて、確かなものなんてまたなくなった。

でも、その時を待って、その場所まで歩いて行きたい、生きたいって気持ちにはさせてもらった。

俺は待っているし、待っているだけじゃなくて、自分の道を歩いていたい。

音楽はずっと消えていなかったし、あの会場にいて、いやライブするって3月に知ってから気持ちの奥にそのことを温めていた全ての人に五十嵐さんの声は届いていると思いたい。

ぐだぐだで、まとまりなくて、120%自己満足なこの文章を呼んでくれた方に感謝します。

俺、ろくでもないことばかりしたり、してないことも多かったり、正直しんどいなとか、もういいんじゃねーのって思うことが多かったのね。でもさ、やっぱり生きていてよかったよ。


LIVE FOREVER

でも、その永遠までの一歩一歩にもメロディも色彩もそれぞれにある。

永遠にはたどり着けない人間の、その心の中に存在する自分だけの永久ではない美しさを

俺は彼の声に音楽に教えてもらった気がするんだ。

そんなライブ。彼の生還に感謝。

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