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#4 適応障害で働けなくなった人の【お金の話:傷病手当金 編】

体調を崩してしまったので長めの休みをとりたい。でも有休は残ってないし、金銭的に不安……
そんなときに思い出したい「傷病手当金」(しょうびょうてあてきん)の話。


1. 傷病手当金ってなんだ?

  • ひとことで言うと、「ケガや病気で働けなくなった時に、健康保険組合が、被保険者(自分)に出してくれるお金」

  • さまざまな要件を満たし、申請が通ってはじめて支給される。加えて、支給期間の上限もある

  • 根拠法令:健康保険法 第99条(法律で決まっているので、支給要件自体はどの健康保険組合でも共通)

以下で詳しく見ていきます。

【※おことわり】
本記事は、民間企業に正社員として1年以上勤務している人のケースを前提としています。
正社員でも勤続期間が短い場合や、アルバイト・パートタイマーの方には当てはまらない可能性があります。
ご自身の状況については、お勤め先や健康保険組合にお尋ねいただき、本記事は参考程度にご覧ください


2. 支給要件

以下の要件をすべて満たした場合にのみ、支給される。

(1) 「業務の病気やケガ」の療養のために仕事を休んだこと。(※1)
(2) その病気やケガにより、働くことができない状態(労務不能状態)にあること。(※2)
(3) 療養中に給与の支払がないこと。(※3)
(4) 療養のため連続した3日間休んでおり(これを「待期期間」という)、かつ合計4日以上(待期期間含む)仕事を休んだこと。
なお、待期期間には有給休暇や土日祝も含む。

以上のうち(4)がクセモノなのですが、たぶん図で整理した方が早いです。

図1:傷病手当金申請における、待期期間の考え方


【補足】


(※1)「業務の病気やケガ」と認定されれば、それは「労働災害」。労災保険でカバーされる。その場合、当該の病気やケガについて傷病手当金はもらえない。
(例)勤務先工場の機械でケガをして働けなくなった場合で、労災認定され補償を受けたときは、その同じケガに対して傷病手当金を申請することは不可

(※2)労務不能に該当するかどうかは、申請書の記入内容をもとに健康保険組合が判断する。とはいえ病院にかかるほどのレベルであれば、そうやすやすと却下されることはないと思われる

(※3)ただし、給与の支払いがあっても、その日額相当が傷病手当金の日額より低ければ、差額が支給される


3. 支給額

  • まず、待機期間中には傷病手当金の支給はないことに注意。待期期間後の4日目の休みから支給が開始される

  • おおまかには、1日当たり【1日分相当給与の3分の2(約6割)】が支給される

  • より厳密には、「直近1年の標準報酬月額(※4)平均額」を用いて、以下の計算式で求めた額が支給される。
    なお、被保険者期間が1年未満の場合、適用される条件が異なる。詳しくは各健康保険組合のウェブサイト参照

1日当たりの傷病手当金額=直近1年の標準報酬月額平均額÷30×3分の2

協会けんぽウェブサイト https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3040/r139/

【補足】
(※4)標準報酬月額とは?
勤め先から支払われる給与(諸手当含む)を、便宜上、一定額の範囲で区分けした金額のこと。なので実際の給与額とは異なる。
毎月の給与から天引きされる社会保険料の算定根拠として使われ、保険料計算の煩雑化を防ぐ意味合いがある。

自分の標準報酬月額については、詳しくは会社の人事担当に聞いてみよう。
あるいは、健康保険法第40条の表からも一応確認できる:


4. 支給期間

同一の病気やケガに対しては、支給開始日から通算(※5)で最大1年6ヶ月間支給される。

【補足】
(※5)「通算」というのは、「傷病手当金が支給される期間のみをカウントしますよ」という意味。

たとえば、【(1) 病気で休業、傷病手当金受給開始→(2) 改善したっぽいので勤務、受給停止→(3) 再発し休業、再度受給】
といったケースでは、(1)と(3)の期間のみが、支給期間の1年6ヶ月としてカウントされる。


5. 申請について

A) 申請先

  • 勤務先が加入している健康保険組合

  • どの健康保険組合かわからなければ、保険証の表面に書いてあるので見てみよう

B) 申請方法

  • 所定の「傷病手当金受給申請書」を、健康保険組合 or 会社に提出する

  • 本人が健保組合に直接申請書を提出して振込を受ける場合もあれば、会社を代理人として申請し、会社経由で支払われる場合もある。
    どんな申請の流れをとるのかについて、会社の担当者に事前に確認をとっておこう

  • (1) 被保険者(=自分)が記入する部分、(2) 人事等会社担当者が記入する部分、(3) 自分がかかっている医師に記入してもらう部分がある。
    健保により様式は異なるが、記入する内容は似通っている

  • 申請先となる健保組合のウェブサイトを見て、申請書がどんな感じか確認しておくといいかも
    (例)


C) 申請の時期

  • 休んでいた期間以降に、申請書を作成して提出する。

  • 筆者の主治医曰く、「月末締め→翌月に申請」という1ヶ月単位で申請するケースが多いそう
    (例)2023年3月1日~20日まで休んだ場合:2023年4月以降に、「2023年3月1日~20日」を申請対象期間として申請書を作成・提出する

D) 支給の時期

筆者の場合、
【会社が代理人として申請→従業員本人に対しては、いったん手当金相当額を会社から払う→健保組合から会社に対して手当金の支払がなされる】
という流れだったので、休んだ月の翌月の給料日に支給されました。

直接健保組合に申請することになった場合は、組合に確認してみましょう。初回申請では支給まで数ヶ月かかるともいわれます。


6. 傷病手当金に関する疑問あれこれ


Q1. 申請書に記入する「発症日」「発症原因」がはっきりわからない。なんて書けばいい?

  • 申請書によっては発症日や原因を書かなければならないものもあるが、結論としては、わからない部分は「不詳」でよい。
    メンタル不調の場合は、こう書かざるを得ないケースも多いかと思います

  • いずれにせよ、できる限り主治医と相談しながら埋めていくのが最も確実と思われます
    ※申請者(自分)と医師の見解が大きく食い違わないように注意!

  • 一応参考までに、筆者の申請時の記入内容を抜粋します。以下内容で申請し受理されました:

【傷病名】適応障害
【発病または負傷年月日】(主治医の記入した発症日と同じ日付)
【発病または負傷の原因】不詳
【申請期間の症状・経過】(自覚症状を記入)
【療養のために休んだ期間】(休んだ期間を記入。土日祝も含める)


Q2. 退職後も引き続き傷病手当金を受給できるか?

原則として、退職後は傷病手当金の申請はできない。在職中の健康保険を任意継続した場合であってもダメ。

ただし例外として、以下のすべての条件を満たした場合のみ可能。

(1) 退職日の時点で、1年以上継続して健康保険組合の被保険者であったこと(任意継続の期間は含まれないので注意)
(2) 退職日の時点で、すでに傷病手当金を支給されているか、支給要件を満たしていること

図2:退職後も傷病手当金を受給したいときのパターンいろいろ

【補足】

  • 退職後の受給が認められても、退職後に1日でも働くと支給打切り。以降は、たとえ再度働けない状態になっても申請はできない

  • 退職前に引継ぎなどを行なう場合は要注意!継続受給を受けようとする場合、退職日当日は必ず休みましょう(図2も参照)


Q3. 退職後は国民健康保険に切り替える予定だけど、それでも引き続き受給できる?

受給可能。

  • Q2の要件を満たしていれば、在職時と同じ健康保険組合に対して引き続き傷病手当金を申請できる

  • 健康保険の任意継続をしているかどうかは関係ない。つまり、たとえ任意継続していても、条件を満たしていなければ受給不可

健康保険の切り替えについてはこの記事でいろいろ書いてます:

※なお、市町村の国民健康保険自体には、各健保組合のような傷病手当金制度は実質的には無い(コロナに罹患した場合の特例は除く)。

なので、国保に切替え後、健保の傷病手当金継続受け取りをしなかった場合に、病気やケガで働けない状態になったとしても傷病手当金は支給されない
(健康保険の枠組みではなく、雇用保険の傷病手当を利用する方法はある)。

Q4. 傷病手当金から所得税や住民税は引かれる?

傷病手当金自体には税金はかからない。所得税や住民税の課税対象外(参考:国税庁タックスアンサー)。

だからといって、「払わなくていい」ということではない。例えば退職後に傷病手当金をもらう場合でも、住民税は自分で納める必要あり。念のため…


ざっくりまとめ:これだけは覚えておきたい傷病手当金のこと

  1. 申請しないと支給されない。申請の流れは会社によりけり
    →会社の人事担当者に流れを確認しておきましょう

  2. 申請書には、自分と会社と担当医師(自分の病気・ケガを診察したお医者さん)の三者が記入する
    →休んだらまず病院に行っておきましょう

  3. 待期期間の翌日から支給される。待期期間は有休や土日祝も含む
    少なくとも3日間は連続で休みましょう。待期期間の翌日に勤務を挟んだ場合でも、4日目の休みから支給対象になるけど、無理はしないで!

  4. 休んでいるあいだに給料が支払われる場合は、原則支給されない
    →例えば有休を使った場合、その日分の傷病手当金支給はなし

  5. 退職後に病気やケガで働けなくなったとしても、原則として傷病手当金を申請することはできない

  6. 在職中に傷病手当金を受給していて、退職後も引き続き受給を希望するなら、【1年以上被保険者+退職日の時点で傷病手当金の支給要件を満たしている】必要あり
    退職日は勤務しないこと。また、3日間連続で休んで待期期間の条件を満たしておきましょう。引継ぎなどでやむを得ず勤務する場合は、なるべく退職日付近を避けるように調整しましょう
    →任意継続か国保に加入しているかは特に関係ない




ご覧くださりありがとうございました!
自分ではきちんと調べたつもりでおりますが、誤りなどあればご指摘いただけると大変助かります…!