聖なる寿司殺し〜ザ・キリング・オブ・セイクリッド・スシ〜
今日の客は許し難かった。あろうことか寿司のネタだけを食べ、シャリを残したのだ。スシ・ガーディアンである俺がこれを看過出来る筈が無い。カウンター内に設置されている高速リフトから垂直射出された俺はその客の眉間めがけて刺身包丁を投擲した。瞬く間に客の顔面は見事な三枚おろしと化した!
「いやぁいつも助かるねぇ、ゲンさん。また次も頼むよ。」
「いやいや、礼は要らねえよ。これが俺の仕事だからな。」
俺はカウンターから客の亡骸を速やかに撤去しながら店主に返事をした。この不届き者には養殖場のマグロの餌として寿司文化の発展に貢献してもらうこととする。古くは明治時代より、スシ・ガーディアンが寿司文化を守護してきたのだ。俺で十代目のスシ・ガーディアンになる。もっとも、かつてはこんな横文字の呼び名ではなかったが。国際化が進み各国で寿司文化が多様化した今となっては、寿司文化の覇権を巡って各国のスシ・ガーディアンが聖戦と称し、水面下で凄惨な殺し合いを行っている。相手の国の寿司文化を殺す、「聖なる寿司殺し」である。
「お騒がせしました。引き続き、お食事をお楽しみください。」
客席に一礼してカウンターの奥に下がろうとした時、俺は驚愕に目を見開いた。さっきまで非の打ち所の無いマナーで寿司を黙々と平らげていた白人男性が、突如懐からアボカドとキュウリを取り出し、見事な手つきでカリフォルニアロールを作り始めたのだ!男は俺の方を凝視しながらそれを口へ運んだ。明らかな挑発行為である!
「テメェ、何の真似だ。」
「わかりませんか?私はアメリカからやってきました。あなたを殺しに。ミスター・ゲン。」
男はスクと立ち上がると、左右の袖から飛び出した出刃包丁を構えた。隠し包丁だ!
「私はスシ・ガーディアンを殺すスシ・エグゼキューショナー。この国の寿司文化を、頂戴致します。」
この国の寿司文化を賭けた聖なる戦いが、今、始まる・・・
【続く】
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