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「あまがさき一箱古本市」に出店した理由

2022年5月22日に開催された「あまがさき一箱古本市」に出版社スタブロブックスとして出店しました。

迷いながらの初出店でしたが、商いの原点に触れる貴重な経験を積ませていただきました。本をつくるメーカーとしてお客様とじかに向き合い、自社の本を紹介して買っていただき、手渡しでお代金を受け取る初めての機会だったからです。

さらに良い出会いもありました。

「古本市」というくらいなので、本を扱う商売をされている方が出店されているのかなと思っていましたが、実際には本業を別にもつ人たちばかりでした。そんな方々との出会いに刺激をもらいました。別の仕事をしながら古本市というマニアックなイベントに出ている時点ですでにちょっと面白いし、実際に話をしてみてもやっぱり魅力的な人たちばかりだったからです。

さらに古本市に出ている限りは何らかの思いがあるはずで、しかも行動に移している人たちです。行動すると言葉にするのはかんたんだけど実践するのは面倒くさいです。その面倒の壁をクリアしているだけでかっこいいと思っています。

思いをもって行動している面白くてかっこいい人たちの集まり――それが古本市の正体でした。そんな集団に自分も属している爽やかな興奮を感じました。

主催者の皆さんにもよくしていただきました。声をかけてくださるスタッフの方も多く、初めての出店で緊張していた私にはありがたかったです。誰にも相手にされずにぼーっとするしかなかったらどうしよう……と心配していたので。。。

あまがさき一箱古本市は今後も3か月おきくらいに開催されるとのこと。スケジュールが合えばまた出たいと思っています。

さて、前置きが長くなってしまいました。そろそろ本題へ。

取次会社を通して新刊書店に本を出荷している出版社が、なぜ古本市に出店したのか、その理由です。

「注文出荷制」のありがたさ

古本市に興味をもった理由には「返品」が関係しています。

スタブロブックスは取次会社JRCと契約し、「返品条件付きの注文出荷制」で全国の書店様に本を流通させています。この「返品条件付きの注文出荷制」は、当社のような小さな出版社にとってすごくありがたい出版流通システムだと思っています。

ポイントは3つで、1つ目は全国の(取次を通した)書店様とのルートが開通すること、2つ目は物流と決済を取次会社に代行してもらえること、そして3つ目は見計らい配本はなくご注文いただいた書店様にのみ配本するしくみになっていることです。

システムを説明するのが本題ではないので端折りますが、これはつまり出版社が書店と直接取引をする際に課題となる物流と決済を取次会社にお任せしながら、全国の書店と効率よく直取引をしている状態と同じなんじゃないかと思っています。この返品条件付き注文出荷制の良い側面がもっと語られてもいいのになあとよく思います。

ただし、〝返品条件付き〟とあるように返品は生じます。当社の場合は1~2割の商品が返ってきます。展示と返品がトレードオフにならざるを得ない委託販売制度についてはさまざまな議論がなされていますが、見計らい配本のない返品条件付きの注文出荷制による本の流通はすごくいいとこどりのしくみだと思いますし、その結果生じる健全な返品は当社のような名もなき出版社の本を読者に知ってもらう意味で前向きなコストととらえてよいと思っています。

でも、そうはいっても返品はつらいことです。当社は倉庫と契約していない(できない)ので返品商品が事務所に直接届きます。表紙や帯に傷がつき、ページが折れ、小口が黒ずんだ商品を初めて目にした時のあの何とも言えない気持ちは一生忘れないと思います。返品率1~2割は優秀な部類だと思いますが、モノとして実際に目にしてしまうとショックです。

この返品本と目をそらさずに向き合いたい、そんな思いが古本市に出店するきっかけになったのでした。

〝ひとりオーナー出版社〟にとっての返品本の意味とは?

カバー・帯をかけかえ、汚れた小口を削って〝新品状態〟に戻す改装サービスを利用する方法はあります。ですが送料を払って東京の業者に送り、手数料を払って改装作業をお願いし、また送料を払って送り返してもらうのはコストがかかりすぎるので現実的ではありません。自社でやれることといえばカバーと帯のかけかえですが、返品本の多くは小口のところどころが黒ずんでしまっているので再出荷はむずかしいです。

結局は、改装作業も頼める倉庫と契約できるよう出版事業を早く軌道に乗せるのが、解決に向かういちばんの早道かもしれません。ではそれまでのあいだ、再出荷できない返品本は黙って眠らせておくしかないのか。

うーん。

他方で所有と経営が一体化した〝ひとりオーナー出版社〟の場合、会計上は切り分けていますが実態は会社のお金=自分のお金であり、返品商品も自分の身銭を削ってつくった大切な商品です。姿が本に変わっているだけで、実際には私のお金がそこに積んであるわけです。

ちょっと汚れているからといって最終的に裁断処分するのは、想像するだけで心が痛いです。いずれそういう時期が来るのはやむを得ないにしても、あらがえるうちはいろいろチャレンジしたい。

そこで、挑戦の第一歩として出店を決めたのが「あまがさき一箱古本市」だったのです。

提供できる価値と向き合う

本の価値を外身と中身にわけた場合、たしかに返品本は外身は多少よごれています。でも、中身の価値は何ら変わりません。だったら、その価値を認めてくださる方に適正な価格でお譲りする方法はないものかと以前から考えていました。

その手段のひとつとして一箱古本市に以前から興味はあったのですが、〝古本〟のイベントに新刊本を製造販売している出版社が出てよいものかと迷っていました。

でも一箱古本市の情報をいろいろ見ていると、古本に加えて自主制作のZINEや雑貨のようなものを販売している人たちもいる。そっか、ようするに〝ブックイベント〟なんだと気づいたことで、別にスタブロブックスとして堂々と出店してもいいじゃないかと思えました。

そこで、「委託期間中の新刊書は定価販売」「返品本はその旨を明記したうえで適正価格で販売」というルールを定めて最終的に出店を決めたのでした。

初出店の感想は冒頭で書いたとおりです。肝心の返品本を扱うことに関しての感想は……

中身の価値は変わらないという、私が抱いていた思いをお客様にも感じ取っていただけたのではと、これはあくまでも私自身の期待にすぎませんがそう思っています。

なにより、本をつくるメーカーとして、提供できる価値と向き合う良い機会となりました。

ちなみに、各地で開かれている一箱古本市のなかでも「あまがさき一箱古本市」に決めた理由は場所にあります。尼崎は、加東市にUターンする前に10年近く住んだ思い出のまちなのです。

懐かしいまちで、ひとり出版社として、本を売ることになろうとは。人生わからんもんです。

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