3月のパンケーキ短歌(脱がせ~細胞膜)

※雨宮真由(@amamiyamayu /「かばん」)、斎藤見咲子(@mitterion/「かばん」)、坂中真魚(@mana_tanka/「神保町歌会」)がtwitter上で行った「短歌しりとり」を元にしたnoteです。

この「しりとり」は、「前の人の歌に入っている単語を1つ使う(動詞は活用あり)」という変則ルールを採用しています。

前回のやりとりはこちら

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9首目:斎藤見咲子

こちらでは晴れない空が順番に雲を脱がせてもらっています

【雨宮】「こちらでは」っていう初句が歌の不思議さを増してる気がします。
「空が順番に」っていうのが空が複数あるように取れるからまず面白くて。
「こちらでは」が主体のいる世界のことだとかんがえると、別の世界にいる誰かに手紙を書いてるような感じがするし、「こちらでは」で場面が切り替わって主体をレポーターのような人物だと考えると、いろんな不思議な出来事を紹介してるみたい。「脱がせて」を雲と繋げたところもかっこいいアクロバットだなー!って思います。
【斎藤】やったー、うれしい!アクロバット!!
【坂中】雨宮さんの読みが素晴らしく、感じたことをほぼほぼ言語化していただいている!「順番に」が良いですよね!「こちら」という天気予報っぽい報告体も「雲」と合ってて面白いです。
「雲を脱がせる」は晴れていくことかな?夜になることでも美しいかもしれないですが。
奇をてらった単語は使われていないのに、パラレル感や物語が立ち上がってくるの素敵で、好みです。

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10首目:雨宮真由

どうしてもほしいひとなの順番に細胞たちを手なずけていく

【斎藤】あれですね、自分の全細胞が「こいつは絶対アカンやめとけ」と警報を鳴らしてるのをなだめてる感じ。しかしそういう身体からの警報ってやっぱりマジだから、やめたほうがいいね!その恋!みたいな…
【雨宮】 あっ、なるほどー…。やっぱり誰の細胞を手なずけたいのかちゃんと書かないとそういう読みも出ますよね。
こっちに変えてもいいですか…?そういうのはあり…?

10首目・再:雨宮真由

どうしてもあなたがほしい順番にその細胞を手なずけていく

【斎藤】あーっ相手の細胞だったのか!私の思い込みが激しいところが出ましたね~。
【坂中】 雨宮さんの歌、1首目(ひらかれた襟からのぞく一対の骨よあなたのもろさを愛でる)に戻って再びセクシーな感じですね。
私は第1稿でも相手の細胞だと解釈してました。でも「細胞」って単語にすでに複数あるはずという意味が含まれていると思うので、第2稿のほうが整理されてスッと入るかもです。
「手なずける」ための具体的な手法や動作は語られていないのですが、撫でている仕草(外側からの手なづけ)や、料理を食べさせているところ(内側からの手なづけ)を思い浮かべたりしました。
しかし「どうしてもあなたが欲しい」ってすごい…!私には使えない語彙です!

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11首目:坂中真魚

夏みかん細胞膜に刃を入れる産むと産まぬの境界にいて

【斎藤】坂中さんの歌は、夏みかんの細胞膜~?!と驚きました。刃物を入れると細胞が壊れて果汁が出てくる。それが産む産まないという生(死?)に関することへ繋がって行く。主体が子供を産むか産まないかという判断をしないとならない年齢なのかな?と思いました。けどそういうことじゃないかもしれない。「産む」というのは、「なにかを造り出す」ということかも。
【雨宮】「産むと産まぬ」はやっぱり子供のことなんじゃないかなって気がします。
みかんって大きい房に小さい房がくっついてると「子どもがいた」とか言いません? だからやっぱりそのイメージな気がするんです。
細胞膜に刃を入れたら細胞はだめになると思うから、それは生き物としては産まない、っていうか産めない、っていう方向に振れると思うんだけど、もしかして主体はいっそ自分も「産めない」ならいいのにって考えちゃってるのかも、って思います。
【坂中】雨宮さん、ありがとうございます!
作った私が微妙なお年頃なので、色々考えちゃいはしますねー……出産も、仕事の実績も、短歌やほかの表現作品も、全てが岐路というか、何かの途上にあるような気がしています。でも本当は何歳であろうと、常に人生から決断を迫られ続けていて後戻りはできないんだとも。
みかんの小さい房は、他の家庭でも「こども」って呼ぶんですね、可愛くて好きです。
【斎藤】はあー、そうなんですよねー……ほんと……人生は決断の連続で、どんな決断をしても不安だし後戻りできないし。でも、失った選択肢のおかげで選ぶべきものが見えてくることがあるかも??とか考えてます。
【坂中】たしかにー、私も気が多いタイプなので何でも選べるよりは、かえって選択肢が減った状況のほうが集中できるのかもしれないです~。

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12首目:斎藤見咲子

春の日のカプセルトイの天ぷらの細胞膜をゆっくり剥がす

【坂中】3人とも細胞になりましたね~短歌的ワード(!?)なのかも。
カプセルトイ(ガチャガチャででてくるやつ)は生物ではなく、天ぷらそれ自体も生物ではなく、無機物と生命活動を停止したものの掛け合わせに、それでも主体は「細胞」をみている。
日射しに透けるプラスチックケースと、泡立つように分裂していく天ぷらの衣を想像しました。分裂というか増殖でしょうか。

【斎藤】 ありがとうございます。ガチャガチャのケースと細胞膜のイメージ(内包しているというイメージ)を関連させたかったのですが、なかなか難しかったです……。

【坂中】あのケース不思議ですよね。カプセルに細胞を重ねるイメージは建築のメタボリズムの例もあり、無理なく読めたのですが、天ぷらの解釈に少し迷いました。外国人がチープな日本土産として買ったカプセルトイかな?とか。

【斎藤】あっ そっか、天ぷらの解釈の方が謎か。でも天ぷらのカプセルトイってあったらかわいいかなと思って。
【坂中】空港とかでお寿司とえび天かな?見たことある気がします。みさこちゃんは何天ぷらのイメージでした??
【斎藤】天ぷらは海老天です。
【雨宮】天ぷらは私も海老天だと思いました。
【坂中】みんなえび天だった!笑 天ぷらの代表なんですね。
【雨宮】見咲子さんの歌はキラキラした印象で、細胞膜も日の光を反射していそう。見咲子さんの話からすると、「剥がしてる細胞膜」=「カプセルトイのケース」ということでしょうか? 今の歌の形だと私は細胞膜は天ぷらにくっついてる、ケースとは別のもの、って感じがするのですが、イメージはよくわかるし、ガチャガチャの機械に入ってるものひとつひとつが生き物みたいに思えてきて面白いです。
【斎藤】あれ、自分でもわかんなくなってきました。天ぷらの細胞膜を剥がす、かつ、ケースのイメージと重ねる????? うーん……。
【坂中】そう解釈してました。
>天ぷらの細胞膜を剥がす、かつ、ケースのイメージと重ねる
ただそれは、私にカプセル=細胞という刷り込みがあるからで、素直に歌の文面を読むと「トイの」「天ぷらの」となるので、最も近い位置にある「の」は天ぷら。なので、雨宮さんが所有格が天ぷらにかかっている気がすると仰ってるのは、文法的には自然な流れかも?
【雨宮】あー!意味がわかりました……!「天ぷらの」の「の」 がどうかかってるか、ってことですね?私は「細胞膜」だけにかかってると感じたけど、言うなれば「細胞膜をゆっくり剥がす」全部にかかってる感じ、ってことでしょうか。納得しました。
【斎藤】ありがとうございます、納得してくれて……本人にもよくわからんのに……

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3月は年度末だからか(?)、2月よりもスローペースの「しりとり」になりました。
ただ、一首ずつの読みは丁寧に検討できたのと、発言が入り乱れる場面も出て、「トークルーム歌会」の様相を呈してきました。
4月もまったりと続けているので、後日まとめるかもしれません。(坂中)

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8.紅のレースを脱がせておくれってくれるくれないくれよくれたね
9.こちらでは晴れない空が順番に雲を脱がせてもらっています
10.どうしてもあなたがほしい順番にその細胞を手なずけていく
11.夏みかん細胞膜に刃を入れる産むと産まぬの境界にいて
12.春の日のカプセルトイの天ぷらの細胞膜をゆっくり剥がす



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