見出し画像

バンコクで大麻を吸って地獄を観光してきた(リポストで無料

割引あり



期待外れ

全くだった。
全くの期待外れだった。ノドがやたらいがらっぽくなり、咳が出るだけだった。
さっさと吸い終えて帰ろう。そう思っていた。

でも、女性が吸うタバコのように細くて白いフィルターにどこか不格好な感じにつながっている「ソレ」は
タバコのようには簡単には短くならずプカプカと吸い続けるしかなかった。
すると余計に咳き込む。

店のオーナーらしき背と鼻が高く、金色の髪と白い肌を持つ外人さんがオレの顔を覗き込む。何やら心配そうな顔でこちらを見ているが何が言いたいのかがわからない。
どうやらオレの吸い方が悪いと言ってるみたいだ。
オレはタバコみたいに勢いよく吸っていたんだけど、その外人さんがいうには
「これはもっと少しずつ吸ってゆっくり肺に溜め込むんだ、ゆっくりだ」ということらしい。
オレは言われた通りに浅くゆっくりと少量だけ吸い込み肺の中に充満させるように、吐いてもう一度浅く吸って肺の中に充満させるように吸ってみた。

そしたらどこか頭の奥がチリチリするような感じがしてきた。
チリチリと言うかチカチカと言うか、頭の横で何か小さな火花みたいのが散っているのが見える。
(その時は自分を俯瞰視点というかTPS視点とでも言えばいいか、一歩後ろから自分を見ているような感覚が少し不思議だった。効き初めていたのだろう)
あーこれかぁ……とは思ったけど、別に大したことなかった。
特に高揚感とか気持ちいいとかいう感じではなくてただチリチリチカチカしているだけ。
お酒に酔ってるのとはちょっと違うけどそれでも別に楽しくはなかったし、気持ちよくもなかった。

期待はずれだったしもう帰りたかったけど「ソレ」はまだ半分以上残ってた。まだ1/3くらいしか減ってなかった。

細い「ソレ」

すると背の高いオーナー外人さんがこれを試してみろって感じで持ってたやつをオレに渡してきた。
それはオレが持っていた白いフィルターが付いている「ソレ」とは違って、フィルターがなく「ソレ」そのものといった感じで焦げ茶色くて細いやつだった。
オレはそれをほんの少し、本当に少し。
これ以上ないっていうぐらい少し吸った。なんか高そうだったから。
そしてソレを外人さんに返した。
それをゆっくりと吸い込んで肺に充満させてそれからまたゆっくりと吐いた。
外人さんがオレの様子を見ていた。

目の前にいた K さんもその細いヤツを同じように吸っていた。
これが結構キたのか急に座りたくなった。身体の力が抜けていくような感覚だった。でも座っちゃダメだ絶対に座ったらダメだって思った。

太い「ソレ」

そこに体格の良い別の外人が太い「ソレ」を吸いながらやってきて元からいた背の高い外人の細い「ソレ」と交換しお互いの「ソレ」を2人で回し吸いをしていた。
オレは、なんか映画で見たやつだな、なんだったかな?と、呑気に見ていた。
すると外人さんが太いやつをオレに渡してきた。
吸ってみろって感じだった。
色はさっきの細い「ソレ」と似たような焦げ茶色だったけど、太さはちょうど紙巻きタバコくらいで色以外はフィルター無しの紙巻きタバコと同じ。
持ってみるとフィルターなしの紙巻きタバコより少しゆるいかな?って感じで、どこか手作り感があった。
このガタイの良い外人がチマチマと「これがオレのロッテルダムスペシャルだぜ!」とか言いながら(オレは「ソレ」=オランダというイメージを持っていたのでこの二人をオランダ人だとイメージしていた)
「ソレ」を作っているところを想像するとまた何か映画を思い出す。
なんだっけか……そうだ、野蛮なやつらだ。
とうぜんこっちのガタイが良い外人さんがチョンで、背の高いほうがベンだな。オフィーリアはいないけど。
オレは少しふらつく感じはあったけど、まだまだ呑気だった。

オレは太い「ソレ」受け取ってそれもちょっと吸ったんだけど細いやつよりちょっと多めに吸ったと思う。

キた!!

そしたら急にキた。
オレはやばいと思った。

それは徐々に酔うとかじゃなくて急に、一気に缶チューハイを2 L 3 L 飲んだ状態にいきなり連れて行かれた感じ。

でも今日は酒を飲んでない。
「ソレ」を買った店で一緒にチャーンのクラシックの瓶を1本買っただけだ。それをちびちび飲みながら「ソレ」を吸ってただけだしアルコールはほとんど入ってない。

だから、これはお酒のせいじゃなくて「ソレ」のせいだって分かった。
一瞬で身体の力を半分ぐらい持っていかれた感じだった。

目の前で K さんが太いやつを吸おうとしてた。
オレはやめろって言った、それはダメだって。
でもKさんは吸ってしまった。オレはまずいまずいまずいって思って帰ろうって言った。
倒れそうだったけど、絶対に倒れちゃダメだって思ってた。必死だった。必死に立っていた。

Kさんとその彼女にホテルに早く帰ろうって言った。 オレのホテルは少し遠かったし、まだその時は10時ぐらいでみんなで新年をK さんの部屋で祝おうって言ってたからだ。

ラリってきた。

倒れそうだったけど倒れはしなかった。倒れるのは絶対にダメなんだ!
けど身体がグラグラしてる感じでひどく酔ってる、お酒に酔ってるような感じなんだけどそれとはまた違う酔い方をしてた。
お酒で酔っている時は、顔というか頭がフラつくというか、波がある。ちょっとフラついても気合を入れると少し覚醒して真っ直ぐ立てる、でもまたフラつく。そんな感じだけど、
コレは全身くまなくキていて酔い方に波がなく全身から少しずつ力が抜けていく感じ。酔いに全く抵抗できない。
頭と身体が別々になっている感じ。頭は割とハッキリしているつもりなのに身体がついてこない。
酒の酔いのようにしっかり立とうとしていてもふらつくって感じじゃない。
身体が言うことを聞いてくれないというか、脳と身体を繋ぐ回線が切れかけている、そんな感じだった。
立っていることはできる、でも歩こうとするとダメだ。
オレは壁に手をついた。
倒れちゃだめだ。強くそう思っていた。
いや違う、倒れそうなんじゃない、座りたいんだ。ただ座りたかったんだ。座ったらとても気持ちよさそうだったんだ。
座りたいオレに絶対に座ったらダメだというもう一人のオレが必死に抗議していた。

オレが帰ろうって言ってるのに K さんはなかなか動いてくれなくて頼むから帰ろうとお願いした。

座っちゃダメだ!必死にそう思って立ち続けていた。

Kさんがやっと帰ろうとしてくれたんだけどビールの瓶を返さなきゃとか言い始めて店に向かった。ホテルとは逆の方向に進んで行った。
だけど K さんはビールの瓶を返すだけなのになかなかこっちに来てくれなかった。

オレはそっちには行けないのに!
(その時のオレはホテルに帰ることが全てだったからホテルとは逆方向にある「店」に近寄ることはできなかった。身体と頭の全てがそれを拒否していた)

Kさんの彼女も何かやっていた。
2人がひどくモタモタしているようで俺は本当にイライラしてきて「早くしろ!!」と怒鳴りたかったんだけどそれは必死に抑えてた気がする。

Kさんの彼女がオレを必死になだめようとしていた感じだった。まだ必要な手続きがあるみたいなことを言ってた。
おそらくそれはビールの瓶とかではなくて残った吸いかけの「ソレ」を返すとかきちんと始末しなければいけないっていうことだったんだと思う。

でもオレはそんなことはもうどうでもいいから今すぐ帰るんだって言った。

だってオレはそっちには行けないんだから!早くホテルに向かわなくちゃ!なんでもいい!とにかく帰るんだよ!
そう思っていた。
それでも K さんとその彼女はなかなか来てくれなくてオレは本当にイライラしてたけど、オレはそばにいた外人にソーリーって謝った。
多分、オレは大丈夫だってアピールしたかったんだと思う。
外人はかなり心配そうにオレを見ていたから。

まだ大丈夫。

それでもやっと2人が来てくれてホテルに向かって歩いたんだけど、まあそんなに遠くはない、100m か200m。それぐらいしかない。
オレは必死だった。歩くのが酷く難しい。でもここで倒れるのは絶対ダメだって思った。
右足、左足、また右足だ。こんなに一歩一歩を慎重に進めたのは生まれて始めてだった。

なぜなら倒れたり座ったりしてはダメだからだ。
救急車なんか呼ばれたりしたら全てが終わるって思った。
だから、倒れちゃダメだ、座るなって強く思っていた。
だから、ホテルのベッドにたどり着きさえすれば安心できると思ってた。

オレはホテルのベッドにたどり着くことを考えて、余計なことは考えるな!いける大丈夫だ!いける大丈夫!って思ってた。
だってホテルはすぐそこだったし部屋だって4階だしすぐにすぐにつけるよ大丈夫!もう少しだ!そう思ってた。

オレは道路脇の茂みとかに手を突っ込んだり葉っぱが顔とかにぶつかって歩いてた。
前から車が来て俺はひどく酔ってるのが分かっていたから十分すぎるほどに避けて植え込みの陰に体を隠した。

車が通り過ぎてまた歩き始めた。
植木の葉っぱや草が何回も右手を触れていた気がする。
(草に触れたのはやけに覚えている)

ホテルのロビーについたらKさんが鍵がないって言い始めた。
彼女に「Nさんの彼女を電話で呼んで降りてきてもらって」って言ってた。
部屋のルームキーがないとエレベーターに乗れないからっていうことなんだけど、Kさんは鍵を持ってるんだよ。
オレはそれを分かってた。こうなる可能性は既にわかってて、だからすでに鍵を受け取っているんだよKさんは。
オレは早くして欲しくて鍵持ってるでしょうKさんって言ったけど、Kさんは「違う、ないんだよ」って言った。

ダメだ、Kさんもヤられてる。そう思った。

そしたら彼女もオレと同じようにあなた鍵持ってるでしょうって言ってくれて、そこで K さんはようやく「そうだそうだ」って言って鍵を出してエレベーターに乗った。
多分この少し前ぐらいからアレが始まってた。

三秒世界に連れていかれる。

何て言ったらいいのか0.5秒ぐらい進んで0.4秒戻って、0.5秒進んでまた0.4秒戻る。
そんなコマ送りのような感じで世界が進んでた。
何故かKさんとその彼女が赤と白の服を着て、同じように赤白の服を着たオレを二人で支えるように歩いているのを、俯瞰視点と言うか、上から見ていた。
(このコマ送りの世界、部屋のベッドまでなんだけど、なぜか赤と白が強調されているように思えた。実際には誰も赤白の服なんか来ていないし、その色が選ばれた心当たりも無い)
世界はなかなか進まなくて0.5秒進んで0.4秒戻る。
それをひたすら繰り返してようやく3秒ぐらい経つと今度はまた一気に2.9秒ぐらい世界が戻ってしまう。
エレベーターはいつまでたっても進まない。いや進んでいるんだけど、いつまでたっても四階には到着しない。
もうずっとエレベーターに乗ってた気がする。
でもそれは進まない。進むんだけどまだ戻ってしまう。
それでもようやく部屋に着いてベッドが見えた。ベッドに座ろうとした瞬間だ。
よくやく安心できる。そう思ったらオレはまたロビーに戻されてKさんが「鍵がない」って言ってた。 
オレは何で!?って思った。

頼むホテルのベッドにつけばそれで安心できるんだよ、お願いだから進んでくれってオレは思ってた。
またエレベーターに乗った。
エレベーターはまた進まない。
いつまでたっても到着しない。
やっと四階に着いた。
またロビーに戻された。
なんで!?
オレはまだその時はベッドにたどり着きさえすれば安心できると思っていた。

何度も何度もエレベーターに乗って
何度も何度もエレベーターが進んで
やっとドアが開いて部屋についてベッドが見えると、またロビーに戻された。
クソ!なんでだ!
早く早く!ベッドにたどり着きさえすれば!

でもベッドにはたどり着けないままそれが何度も何度も続いた。

オレはこの3秒世界とでも言えばいいのか、この世界がやっとわかってきた。
分かってきたからベッドに座れた。

走馬灯を見始める。

これは走馬灯だ。
オレは今から死ぬんだと思った。

走馬灯と言っても今までの人生を振り返るわけじゃなかった。
オレはベッドの上に座って3秒世界をぐるぐると回り続け、ここで今、オレは死ぬんだという事がはっきりと感じられた。
いつ死ぬんだろう次の瞬間死ぬのか?と考えてた。それはとても怖かった。ホテルの部屋の中だからK さんと N さん、それにそれぞれの2人の彼女もいて、Nさんはお前どうしようもないな、みたいなことを言ってた。

でもオレは走馬灯を見続けていた。いつ死ぬの?ただそれだけが怖かった。いつ終わりが来るのか?終わったらどうなるのか?
何もわからなくて本当に怖かった。
ゆっくりと進む三秒世界の中でゆっくりと死が追ってきているのが分かる。

後悔。

いやだ死にたくないって思った。
何であの店に行ってしまったんだろうって本当に後悔してた。
とにかく死ぬのが怖かった。
いつ死ぬのか?死んだらどうなるのか?
何もわからない。

わからないことが本当に怖かった。
一応お袋のことも思い出しておくか、悲しむかな。とか思った。
とにかく死にたくなかった。

あの外人に何か打たれたのかって思った。
記憶はないけど部屋のどこかに連れてかれて何か特別な薬を打たれたのかもと思った。オレが買ったソレだけでこんなことになる、つまり死ぬわけがないって思った。
だからあの外人に何かされたんだって思った。
でもそんなことはもう遅いんだ、今更言っても。オレはもう死ぬんだから。
一瞬病院の真っ白い部屋の中で電気ショックを胸に当てられている自分が見えた気がした。
でもそこに行かないってことは分かってた。Kさんも N さんもちっとも焦った様子がなくてただ酔っ払いを見てるように俺を見てた。
助けて欲しいとは思わなかった、そんなことよりもただ死にたくなかった。
あの店に行ったことを本当に後悔した。本当にただ死ぬのが怖かった

誰かが助けてくれるとは思わなかった。ただ本当に死ぬのが怖かった。

永遠の苦しみ。

怖い怖いって思い続けていたらふと気がついた。

これ永遠に続くんだって。
いつ死ぬのかわからないまま死ぬのが怖いって思い続ける世界が永遠に続くんだ。
次の瞬間死ぬかもしれないっていう恐怖が永遠に続くんだって分かった。

オレはいろんなステージを渡り歩いたというか、連れていかれた。
(おそらくこれはスマホで使ってる画像生成ソフトのimagineのスタイルのイメージが頭に残っていた物なんだと思う)
ゲームの世界だったりアニメの世界だったりコミックの世界だったりいろんな世界に行くんだけど、たまにホテルの部屋に戻る。

オレは死ねなかった。
死ねないというよりも、終わらなかった。
苦しくて苦しくて、終わらせて欲しかった。
消えて無くなりたかった。
でもこれが終わらないのはわかってた。
この苦しみは永遠に続くんだって分かってた。

世界ってもんを理解した。

そして世界ってものが何なのかわかった。
世界っていうのは原子とか素粒子とかそんなものじゃなくて、何も無くって、ただオレが死の恐怖に怯えながら、でも死ねないままずっと死に怯え続けて終わらせて欲しいけど終わらない世界。
それが世界なんだとわかった。
それが全て。
他には何もない。
他には誰もいない。
世界っていうのはただ永遠にオレが苦しむためだけに存在する。

永遠に苦しむことが本当につらく苦しかった。
だって今まだ10秒しか経ってないし、ほらまだ20秒しか経ってない。
これが何年も何百年も何千年も永遠に続くなんてとてもじゃないけど耐えられなかった。
けどどうしようもない。耐えられなくても終ることはないんだ。

終わりにすることもできないし、苦しみが終わることもない。
なんでオレなんだって、なんでオレがこんな目に合わなきゃいけないんだ。なんでオレが選ばれたんだってずーっと考えてた。
終わらないままずっと永遠に考え続けてた。 

万能の存在になる。

いやだいやだいやだいやだ!!永遠に苦しむなんていやだ!終わらせて!苦しい!終わりたい!なんでオレなんだよ!苦しい!いやだよ!終わらせて!苦しいんだよ!
色々なステージでいつ死ぬのかわからない恐怖を永遠に味わい、時折ホテルの部屋に戻る。ベッドの上に横たわったまま天井を見つめてる。

あの天井いつか凍らすことだってできる。
オレはそう思った。
だって永遠に生き続けるんだから誰かがあの天井を凍らす。今のオレではないけど別のオレが、未来のオレがいつかあの天井を凍らすことができる。だって永遠に続くんだからいつかあの天井は凍る。
そう思ってた。

(オレは仰向けに寝たまま嘔吐してた
その瞬間の記憶はない。
けどその直後のみんなが掃除してくれてた記憶は断片的にある、というか永遠の中に組み込まれてた)

オレは永遠の中に生きてるから何でもできる。
天井を凍らすことだってできるしこのホテルを全部燃やすこともできる。
今は燃えないけど永遠に生きてるわけだから、永遠のどこかでオレがホテルを燃やし尽くす事ができる。
もちろんホテルが燃えたとしても終わりではなくてそれも永遠の中の一部でしかない。
それはわかってる。
これは終わらないんだ。永遠に苦しみ続けるんだ。

オレは試しにライターを手に取ってソファーに火をつけようとしてた。
でもソファーは全然燃えなくてオレは諦めたけど、いつか別のオレが燃やすんだろうって思った。ホテルはいつか燃え落ちるんだ。
(これは現実かどうかわからない、ソファには確かに焦げが残ってたけど焦げを見てオレがライターを持っているところを想像したのか、本当にオレがライターを手に焦がしたのかそれは分からない)

オレは永遠に苦しみ続けるから、何でもできる。

でもそれは万能感とかそういったものではなくて、ただ終われないっていう絶望でしかなかった。
そして、起き上がることはできなかった。
起き上がろうとしてもそれは無理だった。苦しみ続けるわけだから自由にはならないんだ。
そう思った。
(これは単にまだラリっていて身体の自由が効かなかっただけなんだろう)

せめてどこかに行ければいいんだけど、オレはこのベッドの上で永遠に苦しみ続けるんだ。このベッドからは出られない、永遠にこのベッドの上でいつまでも苦しむ。

オレはベッドの横に顔を出して床にゲロを吐いた。
ほらできるだろ?何でもできるんだ。この部屋をゲロで満たすことだってできる。
ゲロはどんどんオレの口から出てきてNさんとKさんが慌ててゴミ箱を持ってきた。
それ以上ゲロは出なかったけど。
な?永遠に生きるってこういうこういうことなんだ、何でもできるんだよ。いつかこの部屋をゲロで満たすことだってできる。

ただ終わることだけができない。
でも永遠に苦しむから何でもできるんだ。
何でもできるけど永遠に苦しみ続けるんだ……

またホテルの部屋から別のステージに行く。
別のステージに行くといろんなステージを結構な勢いでチェンジしていく。
だけど、どのステージに行っても苦しいのは変わらなかった。

世界、とは?

時折、小さな三角形が見える。
それこそが世界で、オレしかいない世界。
他には何もなく、その三角形の中は無限で、終わりがなくありとあらゆるステージがある。
オレがそこで終わらない人生を永遠に苦しみ続けるだけ、それが世界。
(ちなみにその三角形はそれぞれの線が角から突き出している直角二等辺三角形だった。)
それが世界のすべて。
原子も素粒子も宇宙もない。知識も意識もなにも存在しない。ニュートンもアインシュタインもホーキングも無意味で何もない。
オレが苦しみ続けるだけ、それが世界。

またホテルの部屋に戻ったひどく不快だった。何か冷たい、左腕が冷たい
(これはおそらくオレが吐いたゲロをみんなで掃除してくれたからなんだと思う、つまりベッドが濡れていたってわけだ)

オレは永遠に苦しまなければいけないのに何一つ癒しがなかった。
Kさんの彼女がオレを抱きかかえてゲロで汚れた口の周りや首を拭ってくれていた。
(これはおそらく現実で、ただ記憶が前後してて腕が冷たいと思う前の出来事だったはずだ。オレが仰向のまま吐いてそれを掃除してくれてる時の記憶だと思う。その時の記憶は細かく何度も出てきた。いつもKさんの彼女が俺のことを介護してくれていた。冷たい濡れたタオルでオレの首を掃除してくれてた。顔を拭いてくれた。大丈夫?って言ってくれた。オレは答えなかった、その時はまだ永遠の中にいたから。彼女は永遠の中で何度もでてきた)

世界とは、終わりだけを願う地獄。

オレはただひたすらに終わりにしてくれって思い続けていた。
助けてくれなんて気持ちは一切なかった。
終わりにしてくれって思ってた。
死にたい!ではなく、終わらせてくれ!って思ってた。
オレが苦しみ続ける世界が終わったらオレも消えるってことは分かっているけど、とにかく終わりにしてほしかった。
本当に辛く苦しく無慈悲で悲しくて孤独な世界だった。
永遠に続くから、10秒しか過ぎていないことに絶望するしか無い世界だった。

それにあのベッドでもう一度現実に帰れるなんて微塵も考えなかった。一瞬たりとも考えなかった。
もうあのベッドは現実ではなく、永遠に切り替わり続けるステージの一つでしかなかったから。

とにかく終わりにして欲しかった。でも終わらないことはわかってた。だから何でもいい癒しが欲しかった。

地獄での癒し、それはエロ。

それはまずエロだった。
永遠に続くんだからエロいことだって何でもできるはずだった。
せめてそれぐらいあってもいいんじゃないかって思った。
いつかものすごい美人がやってきてベッドの上で横たわるオレの上に乗ってくれるもんだと思ってた。
でもいつまでたってもその美人はやってこなかった。
でも永遠に続くわけだからいつかは乗ってくれると思った。
だから何でもいい、ささやかなものでいいから癒しが欲しかった。
永遠に苦しいだけなんてひどいよと思って、何でもいいから癒しが欲しかった。
いろんなステージをずっと巡ってた。それは苦しくて苦しくてやめて欲しくて終わりにして欲しくて。
でもわかってるこれは永遠に続くんだって。

二枚のバスタオル。

そこでオレはまたホテルのベッドの上に戻って、そこで起き上がった。
目の前のソファにタオルがあった。
バスタオルが2枚かけてあった。
それを1枚取ってベッドの濡れてるところにかぶせた。
それでもう1回寝転んだ。
左腕が冷たくなくなって少し癒された気がする。
でもそうすると今度はクーラーの冷気がひどく不快に感じて結局プラマイゼロだな。いや、少しマイナスかもしれないって思った。
なんでなんでなんでずっと永遠にこんなに苦しまなきゃいけないんだって思った。
少しぐらいいいじゃないかって思った。
オレはもう一度起き上がってもう1枚のバスタオルを見た。
それを手にするのはとても怖かった。

何か予想ができた。
それを手にするのはとても恐ろしいことだった。
それがあればクーラーの冷気を防ぐことができる。
でもそれをしてしまってはダメなんだ。
でもオレはどうしても癒やしが欲しかった。
このまま永遠に苦しむだけの人生を続け続けるのはイヤだった。

そうじゃない、苦しみ続けなければならないんだ。
そう思ったけど、オレはもう一度起き上がってソファの上のバスタオルを手にした。
そしてベッドに横になって自分の体にそのバスタオルをかけた。クーラーの冷気が防がれてオレは少し癒された。
少しプラスになった気がする。これなら永遠に苦しみ続けることに耐えられそうな気がした。

でもそれはダメなんだよ、永遠に生きるんだから永遠に苦しみ続けないとダメなんだよ。
そんな2枚のバスタオルで癒しを得たら永遠に生きる意味がなくなってしまう。
苦しみもなくただ単に永遠に生きているなんて何の意味もない。

ループ。終わらない地獄。

そうするとまたどこからともなく走馬灯がやってきた。オレはまた、死ぬのかなと思い怖くなった。
ついさっきまで永遠に苦しみ続ける世界を続けてきて終わりたい終わりたいと思っていたのにふと走馬灯がやってくるとやっぱり死ぬのは怖かった

なんとなくわかった。
やっぱりオレは死ぬんだって。
永遠に苦しみ続ける世界を味あわせて、終わりにしてくれって心の底から願い続けさせておいて、また走馬灯を見せてやっぱり死にたくないと思わせてからオレを殺すつもりなんだ。
死ぬのは怖かった。

でもあの永遠に苦しみ続ける世界にもう一度戻されるのもやはり怖かった。
死ぬのは怖かったけどあの世界にもう一度戻されるぐらいなら死ぬのも仕方がないと思ったけど……
やっぱり死ぬのは怖い。

更なる苦しみ。

オレはベッドの上に起き上がった。
誰も気づかなかった。K さんが隣で寝てた。
K さんの彼女はベランダにいるようだったタバコを吸ってるのかなと思ったけどなかなか出てこなかった。
N さんの彼女が俺に気がついた。
オレを指差して「起きたよ」と N さんに言った。Nさんは「大丈夫か」って言った。
これ何度も見たな。
やっぱりまだ終わってなかったんだオレは「ダメだ」って言って首を振ってまたベッドに横になった。
まだ終わっていなかった。

オレは四人に申し訳ないって思った。
オレは永遠に苦しみ続ける世界にいる、それはわかってる。
でもここにいる四人はそれがわかってない。永遠に苦しみ続けるオレに付き合わされてるんだ。
オレはそれをとても申し訳なく思ってずっと心の中で謝ってた。

またいろんなステージをぐるぐる回ってたまに、この世界の小ささを、あの三角形を見ることで味合わされて、世界はこの三角形だけなんだってそれを見せつけられてひどく寂しくなって、終わりたい終わりたいってまた思い始めた。

またホテルのベッドの上で起き上がった。
誰も気づいてない。N さんの彼女がオレを指さして「起きたよ」って言ったN さんがオレを見て「大丈夫か」と言ったオレは首を振って「ダメだ」って言った。
やっぱり終わらない。オレはまた横になった。

やはり永遠に続くんだ。あの走馬灯もいつかまた来る。いや何度でもくる。
何百回でも何千回でも。
永遠に生きるんだからあれをまた永遠に味わうんだ。
死にたくないと思い、それが永遠に続き、終わりたいと思ってるのに、死にたくないって思わされる。
その恐怖が永遠に続くんだ。

黒いゲロ。

オレは仰向けのまま真っ黒いゲロを吐いた。それはどんどん広がってひどく不快だった。それは今までで一番不快な苦しみで耐えられないと思ったけどどうすることもできない。
この真っ黒いゲロはひどく不快なんだけどなかなか消えてくれなかった。
でも永遠に続くんだからいつかは消える、それは安心できるんだけど、永遠に続くわけだからこの真っ黒いゲロはまたいつかやってくる。
それはやっぱり5回とか10回ではなくて100回でも1000回でも100万回でもなくてやっぱり永遠に何度もやってくる。
あの黒いゲロがまたいつかやってくる。必ず来る。そう思うだけでも不快だった。
首の周りの黒いゲロがいつまでたっても消えてくれなかった。

一人の女神。

Kさんの彼女がまた顔を拭いてくれた。冷たいタオルで拭いてくれた。
オレを抱きかかえてタオルで俺の首や顔を拭ってくれて綺麗にしてくれている。
「大丈夫?」彼女が聞く。彼女の顔が見える。オレを見ている。
でもオレは答えない。大丈夫なわけ無いし、返事をすることになんの意味もないからだ。
これも何度も見た。一番見た。無限に見た気がする。

オレはホテルの部屋に戻ってくるたびに、なんでオレなんだ!もう嫌だ!って足をパタパタさせてた。
ベッドから膝の下だけ出して足が床についてそれをペタペタペタ足をバタつかしてて駄々をこねるようにしていた。
(これは現実かわからない。足を動かしていたつもりなのか、本当にパタパタ足を動かしていたのか)

いい加減エロが来てくれないかなって思った。
早く可愛い女の子に早く乗って欲しかった。
でもなんとなくそれは永遠に来ないだろうなっていうのは感じ取ってた。
だってそれができたら永遠に楽しめることになるから。

帰ってこれた?

オレはまたベッドの上で起き上がった。
やっぱり誰も気づいてない。Nさんの彼女がオレを見て指をさして起きたよっていうと、Nさんが振り返って大丈夫かっていう。オレは首を振ってダメだよ終わらないって言った。

でも今度は長い何か長い。
次に行かなかった。もしかして……そう思った。
でもまだ怖かった。帰ってきたのか?そう思った。でもまだ信じられなかった。
永遠に生きてるんだからこれぐらいのトラップは何度も何度も永遠に繰り返されるんだろう。
助かったと思わせておいてまた引きずり込まれるんだ。
そうすればオレが苦しむから。
そういうことをしてくるんだ、永遠に。
ありとあらゆる苦しみをオレに与えるつもりなんだ。
いつまでも、終わりがなく、永遠に。

でもやはり長い。長ければ長いほど本当にオレは帰ってきたんじゃないかと思うんだけど、それが嬉しくなった瞬間にまた永遠に戻されるんだってことは分かっていた。
N さんは興味なさそうにすぐにオレから視線を外してテレビを見ていた。
オレは戻らなかった。ずっと待っていたけどやっぱり戻らなかった。

オレは N さんに声をかけてずっと死にたかったんですよと言った。
Nさんは生返事をした。
(それはそうだろう誰だってラリってるバカを相手にしたくはない)
隣を見ると K さんが寝ていた。

連れ帰る。

オレはKさんもあの世界にとらわれているんじゃないかって思って起こさなきゃって思った。
1回起こせば帰ってこれる。
そう思った。だからNさんにKさんを1回起こしましょうって言った。
でも N さんは、気持ちよく寝てんだからいいじゃねえか、そう言った。
でもオレは K さんもあの世界にとらわれているんじゃないかと思うと怖くて怖くて怖くてとりあえずKさんを揺さぶって起こしたくてN さんにも頼んで一度でいいから起こしましょうと言った。
Kさんはあっさりとすぐに起きたし、何ともないようだった。
あの世界に囚われていたのはオレだけだったんだ。

あの世界では10秒過ぎるのを待つだけでも辛くて苦しくて仕方なかったのに、この世界では10秒経つごとに帰ってきたんだって思いが強まっていく。

オレはラリってただけだったんだ。

でも死の恐怖とか永遠の恐怖は残ったままであそこにまた戻されるんじゃないかっていう恐怖は残ってたし、また走馬灯が始まるんじゃないかっていう恐怖も残ってた。

立てた。が・・

オレはベッドの脇に立ってみたけど手がビリビリ震えてて足も少しガタガタしてるようだった。
立てるには立てたけど歩くのは少し難しそうで自分のホテルまで歩いて帰るのはちょっと無理だなと思った。

N さんと K さんがオレを心配していた。立ってふらついてるオレを見て座ってろって言った。オレはベッドに腰を落ち着けて何を話そうかって考えてた。

オレは永遠の中で終わりにしたいってずっと思ってたと言ったんだけど当然伝わるわけがなかった。
(オレにしてみればとてつもない体験をして戻ってきたんだけど、彼らにしてみればオレはただのラリったバカでしかなかったからだ)

Kさんの彼女がとても心配そうにオレを見て、寝てた方がいいって言った。
でもオレは寝たらまたあの世界に戻されるんじゃないかと思ってとてもじゃないけどもう寝るのは嫌だった。
オレはあの、ホテルのベッドまでの3秒世界で見た記憶を二人に話してみた。

記憶はあるんだ。

外でオレは帰ろうって言いましたよね。
Kさんは「うんそうだね」って言った。
オレ、何か叫んだりしてましたか?なんか1回叫んだ気がするんですけど。そう聞いたら
K さんは「うん、まぁ」と曖昧に答えた。
Kさんがカードがないって言ったの覚えてるし、エレベーターに乗ったのも覚えているし、ベッドの上について、Nさんは呆れたように『どうしようもねえなお前』って言いましたよね
(オレはあの世界を必死に反芻しているつもりだったんだけど、まあ当然ながら2人にしてみればラリった酔っ払いが必死にオレは大丈夫、全部覚えてるって頑張ってるようにしか見えなかったみたいだ。
当たり前だよな)

N さんとその彼女が自分達の部屋に帰って行った。
オレはもう一度立ってみた。
さっきより手のシビれというか震えは収まっていたし足ももう震えてなかった。
ただちょっと歩くのはふらついてた。それでもだいぶ抜けてきたというか治ってきたんだと思った。

ラリって死ぬやつ。

Kさんの彼女が「タバコでも吸う?」って言った。
オレは頷いて彼女と二人でタバコを吸いにベランダに出た。
オレはそこでラリって死ぬやつの気持ちが少しわかった。

ここから飛び降りたらもちろん死ぬ。
でもあの永遠の中ではオレの中の誰かがいつかは飛び降りる。
それですらあの世界ではそれで終わりにはならない、それは永遠の一部でしかないから。
でも当然現実ではそこで終わる。
そこで死ぬだけで、本人にだけがそれがわからない。
ラリって死ぬって言うのはそういうことなんだろうって思った。

彼女を慰めてあげたかった。

まあオレはベランダに出た時にはもう大丈夫だったんでタバコに火をつけて彼女と並んでタバコを吸った。
彼女がオレとの間にガラスの灰皿を置いた。
彼女は「あなた一人?」って聞いた。
オレは一人だって答えた。
彼女は一人はダメだと言った。友達や仲間いるけど私は家に帰ったら一人。一人はダメだよって彼女は言った。
(彼女はまぁアレだKさんの3日間だけの彼女だ)
オレはさっきまでこの4人を永遠の世界に引きずり込んでいたからそれが申し訳なくて申し訳なくて仕方がなかったけど、どうしようもなかった。
だからオレは一人でいいと思った。
いや一人がいいって思った。
でも彼女は一人が本当に嫌だったらしく1人はダメだよ1人はダメだよと言って泣いているようだった。

オレは慰めてあげたかったけど決して分かり合えないなって思ってそのままタバコを吸ってた。
だって、オレは、一人がいいから。

タバコがもうフィルターまで焦げ付きそうだったから灰皿に押し付けて戻ろうって言った。
オレの体はもうだいぶ回復してきて歩けるようになっていた。
オレが味わってきた世界を K さんに説明してあげようと思って少し話したけど、Kさんの反応を見て
あぁこれは伝わらないな。と思って話すのやめた。
Kさんとその彼女はここで寝てっていいからって言うけど、オレは寝るつもりはなかった。
まだ寝るのは怖かった。
まだ完全にあの世界から帰ってきたとは思えなかった。いや帰ってきても寝たらまた連れ戻されるんだろうって思いがあった。

結局はまだオレはまだ永遠の中にいるんだっていうのが心のどこかにあった。
やっぱりコレは永遠の中の一部なんだって。
安心させてまた引きずり込むんだ。そう思わずにはいられなかった。

帰る。

オレはだいぶ歩けるようになっていたんでホテルに帰ることにした、自分のホテルに。

リュックのチャックや荷物を全部点検して忘れ物がないことを確認した。リュックの中身も確認してパスポートもちゃんとあるし、ホテルのカードキーもちゃんとある。
財布の中身も確認してお金もちゃんとあるタバコも持って「オレ帰ります」って言った。

Kさんに迷惑料だと言って3000バーツ渡した。もちろんKさんは受け取ろうとしなかったけど、オレが汚したベッドのクリーニングでお金を取られるだろうからこれで払ってください、そう言った。
すると K さんは分かったって言って素直に受け取ってくれた。
まぁ3000バーツもかからないだろうけど、余ったらそこの彼女にあげてくれればいいな。そう思ったけど口にはしなかった。

だからオレはじゃあ帰りますと言ってすみませんでしたと頭を下げて部屋から出た。Kさんの彼女は下まで送ろうかと言ったけど K さんがそれを止めた。
大丈夫だろうと。早くヤりたかったんだろうな。
オレはそれが少し寂しかったけどホテルから出て道路を歩いてた。
時間は深夜一時過ぎだった。
あの永遠に苦しんでいた時間はたった三時間だった。

あの店。

オレはゆっくりと慎重に歩いた。転んだりしたら立ち上がれないかもしれない。座ったら幸せ過ぎて立ち上がらないんじゃないかって思った。
あの店があった。
その店はKさんのホテルからすぐ横と言ってもいいくらいの距離で100メートルも離れていなかった。
あの二人の外人は見当たらなかった。
オレはあの外人を一目見たくて店の前でタバコを吸ってたけど最後まであの外人は出てこなかった。
だからオレはそのまま、また歩いてホテルに向かった。

オレはホテルの部屋で何が起きたのか何を体験したのかをずっと録音してた。
ふと思ったことも全部記録しておかなければならない気がした。眠くはならないだろうと思ったけどやはり夜中の3時ぐらいに寝た。
やはり夢というか寝ている世界の中ではあの世界がまた戻ってきた。
でも今度は恐怖ではなくて何か体験したことをもう一度ただ見ているだけといった感じだった。ただの夢だった。
恐怖はわずかだった。

そのまま死んでしまうことも怖かったけどオレは次の日も普通に起きた。
朝8時ぐらいだった。

ここから先は

0字

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?