セールスフォース社の"共業型"営業モデル 「The Model」

 著:福田 康隆

「The Model」は日本のセールスフォース社が自社で構築・導入している"共業型"の営業の仕組みを表したものになります。"共業"型とは機能として分業により役割分担しつつ、売上向上のため共同作業を行う仕組みを実現した営業モデルとなります。セールスフォース社の高い成長を支える営業の仕組みということもあり、SaaSビジネスやサブスクリプションモデルビジネスの拡大とあいまって近年多くの企業が導入しているなど注目度も高まっています。


どういった営業に向いているか

今回紹介する「The Model」のビジネスモデルでは、マーケティング、インサイドセールス、営業(フィードセールス)、カスタマーサクセスの4つの機能がそれぞれ相互連携している形態を採っており、そうした機能形態を取ることが合理的である事業が望ましいと考えます。分業自体は業務効率化や機能の専門性を高めるというメリットもある一方で、情報断絶や習熟スキルが限定的になってしまうなどIT面や人事面を含めた支援体制が整っていない状態で導入するとデメリットの方が大きい結果にもなりかねないことに留意すべきです。
セールスフォース社同様、SaaS事業やサブスクリプションモデルを採用しているサービス事業などでは広く適用が考えられますが、それ以外にも適用余地は十分にありえます。
例えば、カスタマーサクセス機能は、士業のようなサポートサービスや、企業向けの配食サービス、あるいは一種のサブスクリプションモデルとも言えるリース業などにおいても、顧客との継続的なコミュニケーションを通して活用促進やアップセル・クロスセルを図るような活用が考えられます。一方でサブスクリプションモデルであっても例えばドメイン利用料などのように用途や機能が限定的なものには適さない場合があります。
またインサイドセールスによる商談獲得についても、特定セグメントや企業を対象市場としている場合(例えば官公庁向け事業や大手攻略時)には直接フィールドセールスがアプローチをする方が望ましいでしょう。また、自社が創業間もないタイミングや、世の中にあまり知られていないサービスや商品を扱う場合には、商品やサービスを熟知したフィールドセールス部門が直接アプローチすることでまず市場の感触を掴むことが肝要です。

ただし本書に記載している営業の仕組みそれ自体は活用出来なくても、The Modelという、自社の売上向上のためのビジネスモデル作りの重要性、必要性を知るという観点においては業態に関わらず活かすことのできるものだと思います。そのため営業に直接関係がない方々にも是非一度手にとって頂きたい一冊です。

以下は本書の要約になります。(一部セールスフォース社のセミナーでの情報など本書の補完内容も含まれております)

1.The Modelとは?

The Modelは、著者が米国セールスフォースで使われていたマーケティング、営業、インサイドセールスの分業体制を、日本で展開する際に冠した呼称であり、営業の仕組みになります。

同社ではプロセスに加えて戦略や人材マネジメントまで含め「顧客を成功に導くことでLTVを向上させ、売上を拡大する仕組み(レベニューモデル)」として位置づけています。

2.The Model型営業と従来型の営業組織との違い

従来の営業組織は、おおむね1人の営業担当者が商談活動はもちろん、見込み客の探索・発見からその囲い込みや顧客のサポートまで、すべてのプロセスを担当することが一般的でした。営業担当者の負担が大きく、効率的に営業活動を進めることは困難でした。

その点、「The Model」での営業は、営業プロセスを細分化しそれぞれが分担して行うため、効率性と専門性を高めることができます。

3.The Model型営業の特徴

The Modelには大きく3つの特徴があります。

1.営業プロセスの分業
2.売上構造の因数分解とKPIによる可視化
3.リサイクルプロセスによるリードの再利用

3-1.営業プロセスの分業

The Modelでは、営業プロセスを「マーケティング」「インサイドセールス」「営業」「カスタマーサクセス」の4つの機能に細分化し、それぞれ専門の部門が担当しています。

<マーケティング>
マーケティング部門は、オンライン・オフラインを含め顧客との接点を統合的に扱う役割を果たします。イベント参加やサイト訪問、資料請求など顧客との接点の種類や状況に応じて見込み顧客の段階別管理とそれぞれに応じた促進施策を講じる必要があります。

<インサイドセールス>
インサイドセールス部門は、マーケティング部門が獲得した見込み顧客にアプローチを行い、商談を進める役割を果たします。効率的な商談獲得のために、見込み顧客を役職や業種などの属性や獲得チャネル毎に優先度をつけて行う必要があります。
また、個人でのばらつきを無くすため、どういう状況でフィールドセールス部門に渡すかの基準を決めておく必要があります。ただしこれらの基準は固定的なものではなく、「商談共有の調節弁」としてフィールドセールスが抱える過剰・枯渇してしまわないように適宜基準を調整していくことが重要です。

<フィールドセールス(外勤営業)>
フィールドセールス部門は、インサイドセールスが商談を引き継ぎ、受注・契約まで進める役割を果たします。商談の進度に応じてフェーズ管理とパイプライン管理や受注見込管理を行う必要があります。それぞれの管理にあたっては、恣意的な判断を極力除くため顧客側の行動をベースとした明確な判定基準、移行基準を設けておくことが肝要です。

<カスタマーサクセス>
カスタマーサクセス部門は、契約済みの顧客に対するアフターフォローを行い、商品・サービスを顧客が最大限活用できるようサポートする役割を果たします。また顧客満足度の向上を図ることで、契約の継続・拡大を、必要に応じてアップセルやクロスセルを促したりします。

3-2.プロセスのKGI、KPIによる可視化
4つのプロセスそれぞれにKGIとなる「ゴール」とそれを導くためのKPIである「母数」「成功率」の3つの指標を「ゴール」=「母数」×「成功率」の形となるように数値化します。
その際に、あるプロセスの「ゴール」が次のプロセスの「母数」となるように設定するのがポイントとなります。例えば、インサイドセールスであれば、「ゴール」「母数」「成功率」をそれぞれ「案件数」「見込み客数」「案件化率」と置きます(この場合、「案件数」=「見込み客数」「案件化率」が成立します)。そしてこの「ゴール」である「案件数」が次のプロセスであるフィールドセールスにおける「母数」となります。

4つのプロセスにおける「ゴール」「母数」「成功率」はそれぞれ以下になります。
マーケティング:  「見込客数」  =「来訪者数」×「獲得数」
インサイドセールス:「案件数」   =「見込客数」×「案件化数」
フィールドセールス:「受注数」   =「案件数」 ×「受注率」
カスタマーサクセス:「追加・継続数」=「受注数」 ×「更新率」

①、②の特徴を図示したものが下図になります。

画像2

出典:セールスフォース社主催イベントより

3-3.リサイクルモデルによるリードの再利用

リサイクルプロセスも、売上拡大を支える仕組としてThe Modelの大きな特徴の一つと言えます。インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサポートの3つのプロセスのいずれか途中で脱落してしまったリードを蓄積しておき、適切なタイミングで再利用するというプロセスを指します。

例えば、今期の予算がないとの理由で脱落したのであれば、期が変わるタイミング(実際には来期予算取りのタイミング)で改めてアプローチを掛けることができるように管理しておくというものです。これにより経時で厳しくなるリード獲得を補完する形でリードの循環を行うことができるようになります。

画像2

『THE MODEL(MarkeZine BOOKS)』(p.72-73/福田康隆 /翔泳社)

4.The Model導入を成功させるための"共業"

The Modelは分業体制を採っているため、ともすれば縦割り組織による情報の分断や、部分最適による他責志向(受注できないことをマーケティングやインサイドセールスでの質の問題に転嫁するなど)悪い循環に陥ってしまうリスクがあります。そうならないために、それぞれの部門が連携し協力しあい顧客への貢献と売上拡大に邁進できるような”共業”体制が求められます。
"共業”を実現するためには、以下の2つの仕掛けを行います。

1.情報の「逆流」
2."共業"を促進するマネジメントと評価制度

4-1.情報の「逆流」

通常マーケティングからインサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスへと情報は行き渡っていきます。これらは一方的であり、そのため各部門は自分たちの範疇(KGI、KPI)のみ追求すれば良い形になります。
そこでカスタマーサクセスからマーケティングに向けた方向に情報が流れる仕組みを設けることで部門を跨いだ働き方を行うことを促進します。
具体的には、
・カスタマーサクセス部門は顧客から受けた悩みや課題を分析し、マーケティング部門や製品開発に反映します。またフィールドセールスに対しては提案の方向性やその必要性/重要性をフィードバックします。
・フィールドセールス部門はインサイドセールス部門に実際の訪問時の内容をフィードバックし、インサイドセールス時の商談内容と乖離があれば是正を行います。
・インサイドセールス部門は実際のリードと接触を行い顧客がコンテンツやイベントなどのプロモーションに対してどのような感想を持っているかをマーケティング部門にフィードバックし効果的なプロモーションの改善に役立てます。
このような通常の流れに加えた双方向の働き掛けを行うことで売上向上という共通目標に対しての"共業"体制を構築します。

また、これらの実現にあたっては、MA・CRMなどといった各種ITツールの連携、運用も併せて行う必要があります。

4-2.マネジメントと評価指標

如何に"共業"のための流れを作っても、実施を各人の自由意志に任せていたり、前述のKGI、KPIのみでの評価であれば誰も積極的には行いません。それぞれの部門の機能に合わせた共業を促進するマネジメントと評価制度を整備する必要があります。

<マーケティング>
マーケティング部門は4部門の中で最もデジタル化が進んでいることもあり、多くの評価指標を持ち得ますがそれらを売上と紐付けて管理することが必要です。そして売上に対する費用対効果をベースに、チャネル選択やプロモーション施策の実施が行われるようにマネジメントしていく必要があります。

<インサイドセールス>
インサイドセールス部門ではKGI、KPIでの「数」の評価以外にも「質」の評価を取り入れたマネジメントと評価指標が必要となります。マネジメントとしては、コール件数や案件化件数だけでなく、「良い仕事」と「いい加減な仕事」を峻別して評価できることが求められます。そのためには普段からの電話の内容に耳を傾ける、フィールドセールスへの商談のパスの際のコメントや活動履歴などから個々人の仕事の質について傾向を把握しておく必要があります。

<フィールドセールス(外勤営業)>
フィールドセールス部門は、売上拡大のためインサイドセールスやマーケティングに指摘を行うに積極的です。マネジメントとしては、それらがクレームにならないように、原因がインサイドセールスやマーケティングにあるのか、フィールドセールス側にあるのかきちんと評価・判断することが求められます。

<カスタマーサクセス>
カスタマーサクセス部門は、様々な意見を顧客から得られる立場にあるため、そういったものを如何に他の部門に共有・反映させるかがビジネス拡大に大きな影響を及ぼします。その一方で継続率やクロスセルなどでの売上といった数値はフィールドセールスでの商談時の提案内容や開発状況などの影響も大きいため、そのものを評価対象とすると不公平が生じかねません。そのため、KGI、KPIは活動量としてのみ評価を行う一方で、他部門貢献については質・量での評価を行うなどの工夫が必要となります。

5.おわりに

The Modelはあくまでもセールスフォース社のベストプラクティスであり、そのままの形で活用することが自社にとってベストであるとは限りません。ベストなことはそれぞれの機能を理解しつつ、自社の「The Model」を確立していくことです。







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