繊細さんのハローワーク
繊細さんとは、HSP、Highly Sensitive Personの略で、非常に感受性が強く敏感な気質を持った人という意味。公認心理士の武田友紀さんが手がけた著書『「気がつきすぎて疲れる」が驚くほどなくなる「繊細さん」の本』で、「繊細さん」と名付けられたことがきっかけで、多くの方に知られるようになりました。
HSPの人は以下のような特徴があります。
これらは、生まれ持った『気質』であることがわかっていて、日本人の5人に1人があてはまると言われています。
インターネット上の関連検索ワードには、繊細さんの特徴・診断・対処法・仕事といった言葉を見かけます。また、繊細さんに向いている職業(職種)として、事務職・製造業・介護士・カメラマン・ライター・エンジニア・清掃業などさまざまな名前が上がっています。
そこで、繊細な気質を持った「繊細さん」を自覚する方に、どのようにその気質と向き合い生かして働いているのか、お話を伺いました。
繊細な人ならではの強みを活かした働き方とは? そのヒントとなるお話がたくさんあるはずです。
《京都くらしの編集室 ライターの江角悠子さん》
自身の著書『文章を書いて、生きていきたい』で「繊細さんはライターに向いている」と語る江角さん。どんな部分が繊細さんに向いているのでしょうか?
実際に江角さんがどのように繊細な気質と向き合い働いているのか、お話を聞きました。
わたしって繊細さん?
初めて[HSP]という言葉を知ったとき「わたしもHSPなんだ」と気がつきました。近くにいる人の感情に左右されてしまったり、相手の機嫌が良いか悪いかわかってしまう。大人数で集まると疲れる。自己主張が苦手なところなど、本で紹介されている項目の多くに当てはまりました。
それまでは、ずっとネガティブに捉えていた気質だったのですが、HSPに関する本をいろいろ読んでいくうちに、どうしたら、そんな繊細な気質と向き合っていけるのかを考えるようになりました。
書く仕事がしたい、29歳でフリーライターに!
小学生の頃から日記を書く習慣があり、書くことが好きでした。
社会人になり、専門学校の事務職や、出版社、広告代理店でデザイナー兼コピーライターの仕事をしていました。その後、「やっぱり書く仕事がしたい」という気持ちが募りフリーライターに。
[社会人向け講座]に参加したことがきっかけで編集プロダクションの社長と知り合いになり、仕事の相談をしたところ京都のガイドブックの仕事をいただいたり、先に知り合いがフリーライターになり、フリーペーパーの編集部と仕事をしていたので紹介してもらい記事を書いていました。
他には、身近な人に「ライターになりました。書く仕事探しています」と伝えたところ「実は、書く人を探していた!」と言ってもらえることもありました。
最初は、フリーペーパーや雑誌など紙媒体で仕事をしていましたが、現在はWEBサイトの仕事も多くなり、ホテルの紹介記事なども執筆しています。
フリーライターは、働く時間を自分で決めることができます。
以前は、働く時間を特に決めていませんでした。夜遅くまで働き時には徹夜をしたり、土日もない状態でしたが、子どもが生まれてから保育園や学校などがあるため、子どもたちの時間に合わせて仕事をするように設定しました。
そのため現在、平日は8時から18時まで働き、土・日曜日は休日にしています。
取材がある日は、午前中1〜2時間ほど取材、午後から事務所で原稿を書いたりしています。
営業は苦手だが工夫しだいで仕事の依頼が!
フリーランスが仕事をもらうには、営業へ行かなくてはなりません。でも私は自分を売り込むことが苦手でした。
編集部から依頼があり、ブログで京都の情報を発信していたら、そのうちブログを見た方から仕事の依頼が来るようになりました。
また、レトロ建築や洋館が好きで、洋館で楽しくおしゃべりをしながら食事をする企画[京都洋館めぐりの会]の主催や、建物を紹介する「京都麗しき洋館たち」を自主制作でZINE出版も行いました。
これらをブログで発信いていたところ、広報誌で洋館のコラムの依頼をいただくこともありました。
他には、私のブログを読んでくれていたという大学教授から、非常勤講師の依頼もあり、現在は大学で「編集技術」の講座を教えるようになり8年目となりました。
このように、ブログを発信したことで営業に行かなくても仕事の依頼が来るようになりました。「発信して本当に良かった!」と思っています。
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江角さんは、繊細な気質で自分の主張を通す、グイグイ前に出ることが苦手だとしても、工夫しだいで仕事の依頼はあると気づかれました。
そして、ライターの知識と技術で、現在は大学やライター塾の講師としてさらに活躍の場を広げられています。
繊細な気質が強みになる!
ライターを始めて「繊細さんはライターに向いている」と気がついたという江角さん。どのようなときに、そう感じるのでしょうか?
「共感性が高いところ」が、ライターとして記事を書くときに役立っているなと感じます。
インタビューのとき、取材相手がうまく言語化できないことを言語化して記事に盛り込む。「実は、こういうことが言いたかった!」と言っていただいたり、クライアントに「こうしてみては、いかがですか?」と提案して相手に喜んでもらえる記事が書けるところです。
繊細な気質の人は「周りの影響を受けやすく人一倍ストレスを抱えやすいため、自分に合う職場環境に身を置くことが大切」だと聞いたことがあります。
ライター業は、まさに自分が好きなことや得意分野を生かして仕事を選ぶことができますし、自身のペースで働ける環境がとても合っていて良いと感じています。
しかし、自分の軸をしっかり持たないと仕事を詰め込みすぎて忙しくなり、身体に負担をかけてしまうので「自分自身をよく知ることが大切!」だと考えています。
私は、自分自身を知るために「自己分析ノート」を活用しました。
自分はどんなことが苦手で、どんなことが強みなのか? やりたいことは何か?さまざまな質問に一つずつ考えながら書き進めるうちに、自分の心の声を知ることができました。
結果、苦手な仕事は受けないようにしたり、稼ぐことだけを考えたりするのでなく働く環境を整え、そして家族と自分のための時間も作るようにしました。
例えば、子供達が夏休みの時は仕事量を減らして、自分が気持ちよく家族と過ごせるように工夫しました。働き方を自分で選択できるところがフリーランスの良さだと思います。
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江角さんは、自己分析を行なったことで「自分の軸」がわかり、自分に合う働き方と家族との時間を考えることで、ご自身が心地の良く過ごすせるための工夫をされていると感じました。
朝の瞑想で自分をリセット!
五感が鋭くさまざまなことに気づき、ストレスや疲れを人一倍感じやすいとされる繊細さん。江角さんは、生活の中で工夫していることはありますか?
毎朝、「ひとりで静かに過ごす時間」を作っています。
朝5分〜20分くらい瞑想をするようになって、約6年になります。
やはり周囲の環境を受けやすいので、一旦リセットするために始めました。
頭の中がスッキリ整理され、自分に戻れる感覚がするのでとても効果を実感し、今も続けています。他には、1年前から近所の公園へウォーキングも始めました。週に1〜2回ほど取り入れています。
取材後記
江角さんは、主催する[京都ライター塾]の講義でも自己分析ノートを取り入れ、受講生の間で「自分自身を深く知ることができた」と好評を得ていると話します。
自分を知ることで働く環境を工夫しながら、繊細な気質と向き合い身体と心の声を大切にされながら、日々過ごされていると感じました。
繊細な気質は決してネガティブに捉えることではなく、活かすもの。気質を受け入れ、ありのままの自分を大切にし工夫することで、心地よい環境を作り過ごすことができるのではないでしょうか。
取材・文/とーこ