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スターシップと宙飛ぶ校舎『放課後のプレアデス』感想補足解説パート5(第6話)

 前回(第5話)はこちら
 視聴時から時間が経っているので、当時と見方が変わる部分が出てきました。感じたことが整理されてきて、気付けなかったことに気付けるメリットはあるのですが、当時の感想ツイートとは異なった見解に変化する部分もあるため、痛し痒しではありますね。
 これまでは、Blu-rayで各話を見直しながら書いてきたのですが、気付ける部分が増えていて調整が大変になるので(長くなりすぎる)、そろそろ書き方を(感想の文面によって)変えた方が良いかなと思う次第です。

 今回のサブタイトルはわりとすんなり決まりました。
 ジュブナイルSF風味です。

第6話 目覚めの花

 『放課後のプレアデス』6話。例の星は宇宙船側の時空間との接点であり「進歩しすぎた科学は魔法みたいなもの」という世界観を確認が、魔法を自然科学っぽくしていて面白い。
 選べないからこそ選べる可能性の大きい相手を探したという背景や一番星や過去に触れたカケラという共通点と相違。同じく夜の学校の闇により既知が未知になる不穏さと庭園の明るさの安心感が、魔法使いからいち生徒へと立ち位置の自然に遷移させていた。
 すばるとみなとのやり取りを通して、これまで「なんとなく」感があったカケラ集めを大切なことだと言葉と行動で覚悟を示す。
 選ぶことは決めること。生きることは進むこと。そして変わっていくこと。ドライブシャフトの変形(配置は空冷星形発動機)と蕾が花開く様が変化を象徴していた。
 何気に地球の危機なのだけど、全く気負いがなくて好き。庭園から展望室へ画面転換が次への予感とこれまでの余韻になっていたと思う。木造校舎が宙を飛ぶのって良いよね(笑)
 
   2020年6月11日 22:24

 例によって時系列順に並べ直します。


>一番星や過去に触れたカケラという共通点

 アバンですばるとあおいが一番星(金星)を見つけっこして、幼馴染みである2人が「小さいときも同じことをしたね」と思い出話をするところと、第2話で星めぐりの歌でタイミングを合わせて同時にカケラを捕まえたことが重なる、という意味です。
 
 すばるとあおいは距離が近いせいか、いわゆるあおい回がなく2人の関係から過去をあらわにしていく形で描かれています。
 この時点であおいの背負っている背景(過去)については純粋に彼女自身の記憶なのか、2人が共有している思い出なのか明確な区切りがない曖昧な状態だということが見えてくるシーンでもあります。
 同時に、曖昧な状態ではあるけれど、曖昧なままで良いと考えているわけでないともほのめかしているとも思いました。

すばる「エンジンのカケラってあといくつあるのかな?」
あおい「うーん。そう言えば……」
すばる「聞いてないの?」
あおい「どーする? 『あと100個ー!』なんて言われたら?」
すばる「あははは、そんなにあったら大変だよ」
あおい「ん? すばる、何か楽しそうじゃない?」
すばる「だって、そうしたらまだまだみんなで魔法使いしてられるから」
 
   『放課後のプレアデス』第6話 目覚めの花

 文面で見ると「ずっといまのままが良いなぁ」的と言いいますか、終わらない夏休み感と言いますか、そういった状況は推移するのに時間は流れないという雰囲気が漂いますが、本編を見ているとあまりそういった印象は受けません。
 2人がいまの状況ではなく、いまの会話を楽しんでいることが描かれているからで、この直後にプレアデス星人の宇宙船が〝見えて〟しまうように時間は流れるし、わずかであっても確実に変化していくことが示されます。

 『放課後のプレアデス』は、第6話のこのシーンで静かに、しかしはっきりと時間は過ぎていくし、どんな理屈を述べたところで生きていく限り変わっていく、と明言していると受け取りました。
 そういう意思表明を感じるところも大好きです。


>例の星は宇宙船側の時空間との接点

 無から有は作れないというわけで、そこに存在する限り時空間(時間と空間)に影響が出ないはずがないのですね。
 例の星こと魔法使いの星と作中で呼ばれているコスプレ研究会の面々が魔法使いになったときだけ見える星は、そこに異星人の宇宙船が存在するという証しでもあると思います。
 その宇宙船が空に掛かる巨大な帯にしか見えないほどのスケールだと会長から明かされ、それぞれが抱いていたであろう宇宙船のイメージが一気に覆るわけです。
 なにより、エンジンのカケラが両手で持てる程度の大きさなのに、とてつもないエネルギー源だという裏付けにもなるスケールの説得力です。


>魔法を自然科学っぽくしていて面白い

 自然科学。ざっくり書くと、数学、物理学、化学、天文学、地学、生物学、植物学、動物学、医学などといったいわゆるガチ理系の分野です。
 科学的に云々とか科学考証と言ったら、この分野に足を踏み入れることになります。

 感想ツイートにも書きましたが「進歩しすぎた科学は魔法みたいなもの」で、既存の科学技術で解明できないことは、論理的に理解できません。だからといって、存在を否定することもできません、

 あおいが「それって魔法じゃん」と言うのは、理解することを放棄しているのではなく、理解しようとしても理解できないからです。もちろん、そういう捉え方が好きなので、魔法と言っちゃうのもあると思います。
 これがひかるになると「便利な宇宙人だなぁ」とか「相変わらず滅茶苦茶だ」とか率直な感想だけを言っていますね。


>夜の学校

 わくわくします。
 中学時代は部活でも何でも日暮れ過ぎで帰されましたが、高校時代は生徒会に属していたので、文化祭前夜などは泊まりで夜の見回りもやったことがあります。良く知っている校舎内に全く違う空気が漂っているので、真面目に見回りをするだけでもわくわくしました。
 実際のところは、各クラスの文化祭のレギュレーション違反チェックで楽しんでいる余裕は無かったのですが「何かあるのでは? 誰かいるのでは?」という前提で動くので、「何事もありませんように」とおっかなびっくり見回りをしていました。

 本編では、すばるが夜の学校でいきなり変身してしまって、閉じ込められるシーンのことです。
 画面全体にすばるの不安と緊張感、そして責任感が漂っていて、「これだよ。この張り詰めた感じ」と画面の前で興奮していました。

 コス研の部室の窓からあおいが突入しようとして、ドライブシャフトの衝突防止機構が働いて自動ブレーキが作動するSUBARUの安全装備アイサイトの表現も面白かったですね。
 私に『放課後のプレアデス』の存在を教えた大学の同期ハルサメ氏は「アイサイトの表現は1回しか出てこない」と言っていたので、「ここで使うのか。なるほどなぁ~」と思いながら見ていました。
 
 なお、実際SUBARU車に装備されているアイサイトは、ステレオカメラで画像認識して、距離と対象が何であるかのおおまかな判別まで行った上で、ドライバーに情報フィードバックし、必要に応じて危機回避のための警告を出したり、危険が差し迫った場合は自動ブレーキを作動させる装備です。
 実はこの機構、自動運転技術の開発状況が表に出始めた頃──私が見たことのある資料は1980年代末か90年代初頭頃──に紹介されていた(自動運転技術において)最も重要な部分とされていた機構です。


>これまで「なんとなく」感があったカケラ集めを大切なことだと言葉と行動で覚悟を示す。

 すばるがカケラを持ったあおいの前に出て、身を挺して庇おうとしたシーンです。すばるにしてみれば、わからないけどわかるから覚悟を示したのだと思います。

 宇宙船の規模だとか、カケラが持つ力の大きさだとか、魔法が何なのかだとか、地球の危機とか、謎の少年の理由とか、そういうことは全然わからない。わからないけど、カケラが会長にとってどれだけ大切なものなのかはわかる。謎の少年がどうしてそこまで執着するのかはわからないけど、譲れないことなのもわかる。
 でも、自分達が一生懸命頑張ってきたことは本当だし、みんなで集めたカケラも大切。地球も大切だし、あおいちゃんももちろん大切。
 なにより、魔法使いをやってきた短い期間で体験したことや仲間との関わりから、自分が貰った(色々知った)ように今度は自分も何かを返したいから。過去という思い出とみんな一緒にいるといういま、そこから続いていく未来は何にも代えがたく大切だから。

 これを理屈ではなく直観でやっちゃうのが、すばるという子であり13歳らしい率直さの現れだと思います。

 もう少し年齢が上がると、上に書いたようなことの何割かを口に出して、言行一致の動きになると思いますが、言葉が出てこなくてそれでも体が動いちゃうのがまさしくジュブナイルです。

 あと、ずっと守る側だった(本人もそう自負していた)あおいがヒロインのポジションになって、すばると立場が逆転するところも見どころですね。すばるの背中を見つめるあおいの眼差しが完全に乙女です。


>ドライブシャフトの変形(配置は空冷星形発動機)

 ドライブシャフト本体のモデルチェンジもありますが、それよりも「いまあるカケラを使って宇宙船を制御するため、5つのドライブシャフトを点火プラグ代わりにしてエンジンを動かす(意訳)」という会長の指示と5人の位置関係に注目していました。
 
 航空機や船舶では本体のエンジン動かすために始動機あるいは補助エンジンを使うのは馴染み深い光景なのですが、今回すばる達はドライブシャフト(小さなエンジン)で宇宙船のエンジン(大きなエンジン)を一時的に作動させたわけです(※1)。

 Blu-ray付録冊子やアートワークスを読んだ人はご存じでしょうが、ドライブシャフトの後端にある光る星は、星形エンジンという設定があります。
 現実の星形エンジン(Radial Engine)は、エンジンシリンダーを放射状に配置したエンジンでして、仮に5気筒だとしたらちょうど5人のドライブシャフトの先端を合わせた配置と同じようになります。
 そんなわけで、このくだりで興奮しているわけです。
 こういうの大好き。


※1:一部の人には、補助エンジン動力接続→フライホイール始動→(メインエンジンに)接続点火とか、回せ!→1番よーそろ、2番(略)→コンターック!→起動、と言えばわかりやすいでしょうか?


>選ぶことは決めること。生きることは進むこと。そして変わっていくこと。

 会長はコス研の面々に対し「まだ何物でも無い」と言い、自分達の選択を「選ばないことを選んだ」と言っていますが、実はこの二つの側面を象徴しているのが謎の少年なのですよね。

 ひかるが「ツノマント」と呼ぶことはありますが、この名称はひかるの中ですら定着しておらず「あんにゃろめ」になったり、「あいつ」になったりします。その他は、「あの人」、「あいつ」、「彼」などで、仮の名前すらないのです。
 たとえば、変身する前は中学生のすばるで、変身すると魔法使いのすばる、とそれぞれの側面を持つことになりますが、彼はカケラ集めの邪魔をする正体不明の謎の少年でしかありません。

 ここで浮かび上がってくるのが温室のみなとなのですが、彼は自ら名乗ったことと、すばるがあおいやひかる、いつきとの関わりについて相談したことによって、2人でいながら話題上の1人が存在することで、関係が相対化されます。

 温室のみなとと謎の少年との最大の相違点は、すばるとのやり取りを通してみなとという名の少年として、パーソナリティを獲得していることです。

 これは、以降の温室を出たみなとをコス研の面々と、彼を「転校生」と呼ぶ男子が観測できることでもあると思います。そこにいる──すばると一緒に花壇の前にいる──から見えるのではなく、あの姿でパーソナリティを獲得しているから、クラスメイトの男子にも認識されているのでしょう。
 
 そして、すばるにとって第6話での(みなと君のいる)温室は、学校の中で部室以外の安全な──心安らぐ──場所として無意識に思っているから扉が開き変身が解ける=日常に戻るという繋がりです。
 校舎に入ってきた謎の少年が温室に行けないのは、中学生のすばるとは関わりがないからです。

 謎の少年はコス研の5人と対立することで、カケラ集めの邪魔をする相手として認識され、パーソナリティを獲得したのはなんとも皮肉な話です。

 第1話での登場シーンの描かれ方とタイミングもここに繋がっていると思いますし、彼をカケラと巡り合わせたのは、事前に魔法使いになるすばるが温室の扉を開き、みなとを目覚めさせたからでしょう。

 蕾のままの花は咲くか咲かないか確定していない保留状態とも取れるので、謎の少年が第3話から黒星続きなのは温室のみなとが進まないため進めなかったからではないでしょうか。
 2人がコインの裏表のような存在である以上、片方の状態はもう片方に影響を与え、離れていた両面が合わさることで次のステップへ進んだと見ています。
 第6話の最後の2人が遭遇するシーンが背中合わせなのは、そうしたことの暗示ではないのかな、とも思えますね。

 この見解は考える時間ができたから出てきたものであり、実際に見ているときは最終話になってもここまでまとまっていませんでした。

 なお、こうした自分自身の見解が整理できていなかったので、『みなとの星宙』が読めずにいたので、自分としてもようやくこの段階に達したとひとまず安堵しています。


二人のみなとについて

 視聴中の仮説は3つありました。

1:温室のみなとと謎の少年は同一人物だが、多重人格のような状態にある。
 これなら、身体は共有していても記憶が共有されていないので、温室内におけるすばるとのやり取りとカケラを巡るコス研のやり合いに齟齬が起きません。
 そして、みなとが温室の中(内側)に留まっているのは、彼のままでは出られないからであり、逆に謎の少年は外で動ける代わりに自分を定義するために必要な記憶を持ち込めないので、1人が2人になっているような状態だという予測です。
 とすると、同時存在はできないので、第6話のラストでこの仮説が崩れたのでした。


2:温室のみなとと謎の少年は同一人物で、魔法使いの正体に気付いていない。
 魔法使いになると他の人から見えなくなるという特性が謎の少年=みなとにも作用していて、何度も違う形で顔を合わせているのに学校でのすばると魔法使いとしてのすばるの間に関係性を見出せていないということです。
 これが、第6話以降にとりあえず確定した認識でしたね。


3:実はそっくりさん。
 これも考えました。ただ、完全な他人ではなくて、血縁関係はあると思っていました。
 みなといる時間軸は現在とずれていて、すばるだけが温室に入るという形で認識できる状態(記憶の再生みたいなもの)。みなとは謎の少年の兄か弟で、病院かサナトリウムで眠っていて、別の宇宙人からエンジンのカケラの情報を知って謎の少年は家族を助ける可能性に賭けていたのでは? といった感じです。

 宇宙船の規模を想像すると、会長だけでカケラを回収するのは難しいでしょうし、宇宙人側も一枚岩ではなくて、様々なアプローチをしているのではないかな、という想定です。
 ですが、これだと第3話での「僕にはエンジンのカケラが必要なんだ。返してくれ~!」という発言に対する反応が矛盾します。
 全体の尺の長さや作風から、これは無いだろう、と思っていましたが、可能性の一つとして考えていました。

 実際、第10話を見ると、現実を受け容れられなかったみなとが、その現実とともにエルナトも否定してしてしまっているため、当たらずとも遠からずな予測で、そう思わせるところが伏線だったのかもしれません。


 なお、YouTube版は本編視聴後に見たので、温室のみなとと謎の少年の接点については完全に第5話までに提示された情報のみで推測していました。


 ようやく折り返し地点に辿り着きました。
 この第6話をどう書くかでかなり考える必要があって書き始めるまでの道のりが非常に長くなってしまいました。pixivの更新をするなど別のことをしていたこともありますが、それを抜きにしても久しぶりに引っ掛かった難題でした。
 その分、ここに至るまでに考えたことのフィードバックは大きかったです。ついでに、『放課後のプレアデス』のキャラの中ではひかるが一番好きになった自分を発見したりもしました。

 次は北極星は動かないあおすば回です。


 つづく。


※今回のヘッダーは、Mitakaでシミュレートした2015年の地球衛星軌道からプレアデス星団望む画像です。




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