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ビジョンの共有にはDo'sも良いがDont’sが大事だという話

”実務協業型”人事制度構築・導入支援を行うTrigger 代表の安松です。

4月になると年度が代わり、新年度の事業戦略や方針が策定され、組織メンバーに共有されて、個々メンバーの目標設定をはじめる企業も多いのではないかと思います。

私はこれまでいくつかの会社で人事をやってきました。
人事の戦略や方針は、経営ビジョンの実現や事業の目標達成のためにありますから、人事戦略を担うポジションにいると、経営ビジョンや事業のゴールは当然意識しますし、それ自体の策定に参画する場面も多くあります。

ビジョン、戦略、方針というと、「○○のような組織になる」「××を達成する」「□□を強化する」といった形で語られることが多いと思います。それはそれで良いのですが、最近、「~~する」というDo'sと同時に、「・・・は絶対しない」というDont'sの語り口がとても大事なのではないか、と思っています。

私が人事制度構築・導入をご支援している、とあるエンターテインメントカンパニーでは、創業以来、トップが人事のすべてを司り、会社運営をしていますが、業容拡大に伴い、リーダー陣にマネジメントの「しくみ」を渡し、チーム内での「対話」を軸とした組織運営を行っていくスタイルに変革していこうとしています。
この会社で人事制度を考える取り組みの一番最初に行ったのは、「これから〇〇社は、何をマネジメントの”よりどころ”にするのか?」という議論でした。

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この会社は、創業者であるトップ慕うメンバーが集ってできた会社です。したがって、これまではトップ個人の力量や見識、人柄に対する信頼が、組織運営の元手であった(一番左の図)わけですが、これを変えていくことが取組みの狙いです。このチャートを使いながら、どんな組織マネジメントを目指すのか?について、トップおよび数人のキーパーソンで議論を行いました。

これからさらに業容が拡大し、組織の機能が整備・構築されていけば、人事に関するきっちりとしたルールを定め、透明度高く定義と規律によるマネジメントを志向(一番右の図)していくという道もあります。しかし、それではエンターテインメントカンパニーとして持ち続けたい「楽しさ・面白さ」を働くメンバーの心から削いでしまうのではないか。「私たちは、現在地(一番左の図)から見て、右方向を目指すことは確かだが、一番右の図のような組織になりたいわけではない!」ということが明確に共通認識となりました。これからの取組みにおいて目指さないこと=Dont'sがはっきりした瞬間でした。このようにはっきりと共通認識できた世界観は、その後の人事制度検討の大事な道標となっています。

別のとある会社では、グローバルでの競争を戦っていくため、それまでの伝統的な日本企業の人材マネジメント・組織運営のスタイルを変え、欧米型スタイルのエッセンスを取り入れていくことで、国籍を問わない適材適所のアサインメントを実現しようとしています。しかし、それまでに慣れ親しんだスタイルを、いわば逆方向に向けて大きく変えていくとなると、組織メンバーには動揺や戸惑いが広がり、反発も起こります。変革時にはある意味必要な軋轢とも言えますが、メンバーの気持ちがついてこない変革は決して成功しない、と私は思います。
しかし、ある一人のリーダーは、自身が率いる組織のメンバーに向けて、これから目指す組織の姿を示すと同時に、「こういう組織は目指さない」=Dont'sを示し、語りました。私はその場に居合わせたわけですが、Dont'sが極めてクリアに語られた瞬間、聞いていたメンバーに安堵と納得の空気が広がり、一気に方針の受容率が高まったことが肌で感じられました。

ビジョンを描き、戦略・方針を立てる。それらをみんなと共有する。
そのときに、みんなの琴線に触れるのは、案外Do'sよりもDont'sの方かもしれない、そんな体験をした、という話でした。

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