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あなたのおかげ【天候術師のサーガ 8】

〜 イノリゴ島 海岸沿い ナナミの家 居間 〜



 おはようおはようおはよう〜!
 あ〜さ〜だ〜よ〜!
 起きて〜!
 ── イノリゴとうの少女、ナナミ



カンカンカンカン!

ナナミは
中華鍋とお玉を打ち鳴らし
アガヴェとオロロンを起こした


 うぅ〜、うるさぁ〜い。
 まだ寝かせてよぉ〜…。
 ── しまギャル、アガヴェ

 え、え…!
 なになになに?
 ── 泣き虫オロロン


アガヴェは
呑気にまだ寝ぼけていたが
オロロンは
半泣きになりながら
辺りをキョロキョロした


 さぁ、朝ごはんは
 ナナミ特製チャーハンだよ〜!
 今日は特別に
 イノリゴエビが入った
 エビチャーハンで〜す!
 ── ナナミ

 え!
 チャーハン?
 食べたい食べたい食べたい!
 ── アガヴェ

 は〜い、
 食べたい人は
 先に歯を磨いてくださ〜い!
 ── ナナミ

 え〜、お腹すいたよぉ〜。
 ── アガヴェ

 アガヴェちゃん、
 寝てる時ってね
 口の中のバイ菌が
 増殖するんだよ?
 そのまま食事したら
 お腹壊して
 美味しいチャーハンが
 食べられなくなっちゃうよ〜?
 ── ナナミ

 え、え〜?
 そうな〜ん?
 それはやだぁ〜!
 歯磨いてくる!
 ── アガヴェ


アガヴェはナナミに脅され
洗面所へ向かった

オロロンは
寝ぼけながらも
アガヴェについて行った


 アガヴェ、
 歯って
 どうやって磨くの?
 ── オロロン

 ん〜?
 貸してみそ?
 ── アガヴェ


アガヴェは竹歯ブラシを咥えながら
オロロンの口の中に竹歯ブラシを
突っ込んだ


 おえっ。
 ── オロロン

 あ、ごめん
 喉奥つっついちゃった。
 ほら、
 こうして、歯と歯の間とか
 歯の裏側とか奥歯もちゃんと
 磨くんよ。
 自分でやってみ?
 ── アガヴェ


オロロンは
アガヴェに教えてもらった通り
竹歯ブラシを動かした


 こう?
 ── オロロン

 ん、そうそう。
 うまいぢゃん。
 歯磨きマスターになれるよ、
 オロぴょん。
 ── アガヴェ


オロロンはぎこちない手つきで
表情ひとつ変えず
一生懸命歯磨きした

アガヴェが磨き終わっても
オロロンはまだ
一生懸命磨いていた


 オロぴょん、
 もうキレイになったくね?
 あんまし磨くと
 歯削れちゃうよ?
 ── アガヴェ

 ぼくは
 バイ菌がお腹に入るの怖いから
 バイ菌が無くなるまで磨く!
 ── オロロン

 あ〜そ。
 じゃあ、
 うちは先に食べてっかんね。
 ── アガヴェ


アガヴェは呆れながら
ひと足さきに食卓へついた

食卓テーブルには
八角形の皿が
三人分並べられており
アガヴェの皿には
大盛りのエビチャーハンが
よそわれていた


 うっわぁ〜!
 うんまそぉ〜!
 ナナミっち、食べていい?
 ── アガヴェ

 ちょっと待って。
 みんな揃ってから。
 オロロンくんは?
 ── ナナミ

 え、まだ歯磨いてる。
 バイ菌が
 お腹に入るの怖いから、
 口の中のバイ菌を
 全滅させてるんだって。
 ── アガヴェ

 オロロンく〜ん。
 口の中のバイ菌を
 全部倒すのは無理だよ〜。
 食べ物食べたら
 また菌が増えるんだから〜。
 もうキレイになったと思ったら
 口ゆすぎな〜。
 ── ナナミ


オロロンが
なかなか歯磨きをやめなかったので
ナナミが洗面所へ向かい
強制的に歯磨きをやめさせた

そして口をゆすがせ
ようやく食卓へ戻ってきた


 ナナミっち、
 おばあちゃんは?
 ── アガヴェ

 あぁ、
 朝早くに山菜取りに行ったよ。
 おばあちゃんの
 毎朝の日課なの。
 ── ナナミ

 ほぇ〜、
 結構おばあちゃんだけど
 元気なんね〜。
 それが元気の秘訣なんか。
 ── アガヴェ

 うん、きっとね。
 あと、公園で太極拳とかもやるよ。
 ── ナナミ

 元気、有り余ってんぢゃん。
 ── アガヴェ


ナナミとアガヴェが話しているうちに
オロロンが食卓テーブルについた


 よし、食べよ!
 ── アガヴェ

 だ〜め。
 いただきますしてから。
 ── ナナミ


すぐさま食べようとしたアガヴェを
ナナミは制止した


 では、
 全ての生き物に感謝して。
 いただきます!
 ── ナナミ

 いただきま〜す。
 ── アガヴェ


オロロンはなんのことやら
わからなかったが
見よう見まねで
手を合わせた


 うっま〜…!
 ── アガヴェ


アガヴェはそう言ったまま
しばらく無言で味わい
幸せそうな顔を浮かべていた


 アガヴェちゃん、
 ホント美味しそうに
 ご飯食べるよね。
 作りがいがあるよ。
 ── ナナミ

 こんなおいひいチャーハン
 食べたことない!
 エビがプリップリで、
 ご飯の炒め加減も絶妙!
 おまけにちゃんと
 パラパラしてるときた!
 ご飯一粒ずつの見た目も、
 輝く宝石みたい…!
 ── アガヴェ

 アガヴェちゃん、
 食レポの時だけ
 ボキャブラリー
 めっちゃ増えるよね。
 ── ナナミ

 まぢ?
 全然意識してんかった。
 料理に言わされてるんかも。
 ── アガヴェ

 その発想はなかったよ。
 やっぱ面白いね、
 アガヴェちゃん。
 まだたくさんおかわりあるから
 たくさん食べてね!
 ── ナナミ


ナナミがふと
オロロンを見やると
チャーハンの入った
蓮華を持ったまま
固まっていた


 オロロンくん、
 どうしたの?
 食べられなさそう?
 ── ナナミ

 この赤いの、
 攻撃してこない?
 ── オロロン

 うん、大丈夫だよ。
 もう調理してるから。
 もう死んじゃってるけど、
 生命いのちをいただくから
 いただきますしたんだよ。
 ── ナナミ

 そっか…。
 ── オロロン


オロロンは蓮華を置いて
再びいただきますをした

手を合わせた彼の目からは
一筋の涙が流れていた

オロロンは置いた蓮華を
再び持ち上げ口に運んだ


 美味しい…。
 なんか、
 この食べ物、
 食べたことある気がする…。
 ── オロロン

 よかった〜。
 お口に合わないかと思って
 ヒヤヒヤしちゃった。
 どこかで食べたことあるんだね。
 ── ナナミ


ナナミがオロロンと話している間
アガヴェはものすごい勢いで
大盛りのエビチャーハンを食べ終わり
おかわりの入った
中華鍋に手を伸ばしていた


 あ、アガヴェちゃん。
 デザートもあるよ。
 食べる?
 ── ナナミ

 え?まぢ?
 もち!
 ── アガヴェ


ナナミは冷蔵庫から
何やら白い塊の入ったボールを
持ってきた


 今日のデザートは
 アンニンドーフで〜す。
 ── ナナミ

 うおぉ〜!
 しゅげぇ〜!
 ── アガヴェ


アガヴェは
テンションが高まり過ぎて
もはや言語を
正確に発音できなくなっていた

ナナミは
小鉢にアンニンドーフをよそい
アガヴェに渡した


 いただき…!
 ── アガヴェ

 待った!
 ── ナナミ


ナナミは再びアガヴェを制止し
アンニンドーフの上に
どこからか取り出した
さくらんぼを載せた


 うわ、うわ、うわ。
 こんなゼータク
 しちゃっていいん?
 うちは罪な女です。
 神様、どうかお許しを。
 ── アガヴェ


アガヴェは
天に意味不明な祈りを捧げ
アンニンドーフを口にした


 はい、このアンニンドーフは
 天使からの贈りものです。
 迷える子羊のうちは
 これで今日も生き長らえます。
 ── アガヴェ

 あはは!
 ホンっト面白いね!
 ── ナナミ


オロロンは
アガヴェの言葉を聞いて
しばらく何も食べていなかったはずなのに
自分はよく生きながらえたと思った

それと同時に
ナナミが本当に天使か何かに見えた


 ナナミ、
 あそこから助けてくれてありがとう。
 あのままあそこに居たら
 多分、死んでた。
 ── オロロン

 う、うん。
 でも、あそこに行こうって
 誘ってくれたのは
 アガヴェちゃんだから。
 ── ナナミ

 アガヴェもありがとう。
 ── オロロン

 え、やめろし。
 て、照れるなぁ。
 ── アガヴェ


アガヴェは顔を赤らめながら
アンニンドーフを食べ続けた


 * * *


三人は食事と身支度を終えて
ナナミの家の玄関にいた

ナナミは
金色ボブヘアの両端に
中華ヘアカバーをしたお団子と
雷紋刺繍のヘアバンド

昨日の肝試しで
いつものお気に入りの服は
洗濯中だったので
今日は
紅地に黒の中華ナイロンジャケットを羽織り
中には黒いキャミソール

ドラゴン刺繍の
紅いベルボトムジャージを履き
陰陽太極図をあしらった
赤地に黒ラバーの
近未来型スニーカーを履いていた


 ちなみに靴下は
 パンダちゃん。
 ── ナナミ

 え、かわいい!
 ── アガヴェ


アガヴェは
ぱっつん前髪で
黄金色の髪の三つ編みを
前後ろ合わせて五本下げており
トップは編み込みで
カチューシャのようになっていた

小麦色の肌は
定期的に日サロで焼いているが
シミひとつなく艶やかだ

アガヴェも
昨日の大雨で
服を洗濯してもらっていたので
ナナミの作った服を借りて着た

首には雷紋柄の
黒いチョーカーを巻き付けており
黒いシースルーのモックネックの下には
昨日来ていたものとは異なる
黒地に赤ラインの入った
中華ボディスーツを着用しており
胸元がハート型にくり抜かれているため
谷間がかなり強調されている

シースルーの肩からは
ハートのタトゥーが透けていた

下にはデニム地の
ベルボトムを履いており
靴はハートをあしらった
黒字に蛍光グリーンのソールの
近未来型のスニーカーだ


 うちは、なんだ?
 なんだこれ?
 ── アガヴェ

 それはお面だよ。
 お面デザインの靴下。
 ── ナナミ


オロロンは
アガヴェの際どい衣装を
直視しないようにしていた

彼は
青のドラゴン刺繍のフーディーを
フードまで被って着ていた

サイズが大きいのか
ワンピースのようになっており
下は履かず
そのまま自身の長靴を履いていた


 フーディーに長靴っておニュ〜だけど
 これもこれでアリぢゃない?
 ── アガヴェ

 うん!
 アリだね!
 ── ナナミ


ナナミは玄関の扉の鍵を閉め
しっかりしまっているか確認した


 そうだ、オロロンくん。
 海に打ち上げられたって言っていたけど
 どの辺か覚えてる?
 ── ナナミ

 う〜ん、大体しかわからないけど
 行ったら思い出すと思う。
 ── オロロン

 じゃあ、まず
 「雨の小屋」から海の方に
 歩いてみよっか。
 ── ナナミ


三人は「雨の小屋」の方へ向かった。


9へつづく

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