記憶は雨の中に【天候術師のサーガ 18】
アガヴェは
ユースコールによって施された
水の球体に苦しめられていた
呼吸をしようとすると
口や鼻の中に水が入るし
なにしろパニックで
何が起きているのか
理解するのに時間がかかった
がばぼ…!
── 島ギャル、アガヴェ
アガヴェは
背負っていたオロロンを
地面へ落としてしまった
どさ
という鈍い音とともに
オロロンは
地面へ力無く倒れ込んだ
ナナミも
どうすればわからなかったが
ひとまず気を失った
ナミナおばあちゃんを地面へ
やさしく下ろし
アガヴェの顔に張り付いた
水の球体を剥がそうとした
しかし
固形物ではないため
掴んだとしても
割れたり溶けたりすることはなかった
一生懸命水を払うも
アガヴェの顔と一体になるかのように
全くもって離れなかった
どうすればいいの…?
このままだとアガヴェちゃんが…!
── イノリゴ島の少女、ナナミ
ナナミがアガヴェを助けている間
ユースコールは
床に倒れ込んだオロロンを
担ぎ上げ
雨の森の中へ歩いて行った
しかし
オロロンが
見知らぬ衣服を着ていることに気づくと
それを剥ぎ取って
地面へ放り投げた
ナナミは
オロロンの奪還を試みようとしたが
目の前で友だちが死にかけているのを
見捨てるわけにはいかなかった
ぐうぅっ…!
── ナナミ
ナナミは悔しさを噛み締めながら
アガヴェの顔に取り着いた
水の球体を除去する方法を模索した
ちょっと強引かもだけど…!
── ナナミ
ナナミは
思い切ってアガヴェの唇にキスする形で
顔に取り着いた水を
ごくごく飲みはじめた
すると
鼻で呼吸するくらいにまで
水位は下がった
アガヴェの目は赤く充血しており
吸えるようになった鼻で
大きく息を吸い込むと
水の混じった咳をした
げっほ!げほげほ!げほ!
── アガヴェ
アガヴェが大きく咳こむと
残りの水の球体が
口の中から飛び出し
地面へべちゃりと落ちた
はぁはぁはぁ…。
げほっ…。
ありがと…はぁ、ナナミっち…。
死ぬかと…思った…。
── アガヴェ
よ、よかったぁ…。
── ナナミ
ふたりはその場に
へたり込んだが
サミダレとユースコール
そしてオロロンはいつの間にか
居なくなっていた
あれ、私たち
ここで何してたんだっけ?
── ナナミ
わかんないけど、
なんか、海で溺れてるみたいだった。
── アガヴェ
ふたりは
先ほどまでの出来事を
全く覚えていなかった
19へつづく
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