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湧き上がる衝動

その頃ミナミは
両親と一緒に
門の前の
群衆のなかにいた

どうして門がないんだ…!
これじゃあ
あの電波塔の怪物に
踏み潰されて
みんな死んでしまうじゃないか…!

ミナミの父親は
切羽詰まって言った
ミナミは
お気に入りの苗を持って
群衆のなかに佇んでいた
しかしながら
どこか
使命感に駆られていた
電波塔での
マグマドグマとの対決で
自分は守ってもらうだけで
何もしなかったことを
思い出していた
彼女はこの街の人々は
好きではないけれど
この街のことは
他の誰よりも愛していた
そんな街が
こんな訳の分からない
異形の巨人に
蹂躙されるのは
悔しくて仕様がなかった

わたしにも魔法が使えたら…

彼女はこころのなかで思った

きみはもう
気づいているはず
そして
それを扱えるくらいの
充分強いこころを持っている
きみが路上で
苗を売っていたとき
どんなに蹴散らされても
そこを動くことはしなかった
揺らぐことのない
信念を持っている
あなたの良いと思うものを
他の誰かにも教えたい
それは押しつけがましさではなく
他の誰かを想っている証拠
何故なら
その苗こそが
魔法そのものなのだから…

どこか懐かしいような
それでいて聞いたことのない声が
ミナミの脳内に拡がった
そして抱き抱えていた
苗を見つめた
そして遠くに聳え立つ
電波塔の巨人を見つめた
彼女のこころのなかに
抑えられない衝動が
込み上げたとき
その脚は
目的の場所へ
駆け出していた


◆ 戦利品 ─【湧き上がる衝動】

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