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祖父と私と腕時計の話 #1



過去に戻ったら何をするだろう?

過去に戻って、この先もうすぐ死ぬと分かっている人を目の前にした時、自分はどうするだろう?


この疑問が、ずっと頭にこびりついている。

こんな非現実的な疑問が心に居残り続けているのは、あるドラマを見たから。



「時をかける少女」(日テレ系2016年放送)の第2話。


あらすじはと言うと…(ネタバレです)

過去へタイムリープする力を持った女子高校生・未羽は、男子生徒・西岡から、「心臓移植を受けてから、毎日20時過ぎにドキドキする」と聞かされる。

未羽はその理由を突き止めるべく、過去に戻る。

すると、心臓提供者はミホという女子高生であると知る。
彼女はとある日の帰り道、自転車のブレーキ故障により事故に遭うのだった。


ミホは、医学部を目指す真面目な受験生。毎日図書館で勉強していた。
その後必ず駅へと向かい、20時20分発の電車を見送ってから、自転車で帰っていた。
実は、ミホは高校の先生に恋をしていて、その先生が電車に乗って帰るのを見送っていたのだ。
これが、20時過ぎのドキドキの原因。
しかもその先生とは、未羽の現在の担任・矢野先生であった。


現在に戻り、未羽は矢野先生に「生徒に好きになられたこと、ありますよね」と問い詰める。
矢野先生の答えは、
「勘違いしそうになったことは、ある。かも。
   ……でも、分からなかったし、もう分からないんだ。」



勘違いだと思われたままミホの恋が終わることに納得がいかない未羽は、もう一度、彼女が事故に遭う直前に戻ることを決意。
ミホが恋している証拠を残したい。
未羽はミホに接近し、矢野先生の乗った電車を見つめる様子を写真に収めた。

そして、別れの時。
すっかり未羽に心を開いていたミホは、「またね」と言う。

その時。
未羽は、無言で、ゆっくりと、強く、自転車の荷台を掴む。
「行かないで」と、未羽の声にならない心の叫びが聞こえるよう。

いけないことと分かっていながら、自転車から手を離すことが出来ない。
今ならば、ミホの命を救える。しかし、ブレーキが壊れることを言ってしまっては、西岡の命を奪うことになる。


未羽は沈黙のまま涙を流し、葛藤の末、このままミホと別れることを選ぶ。

自転車から手を離し、笑顔で走り去っていくミホを見送る。


そして現在に戻り、矢野先生に「勘違いじゃありません」という手紙と共に、ミホの写真を渡すのだった。





ざっと、こんな話だ。

カメラワークや、主題歌のかかるタイミング等も素晴らしいものだ。切なさや夏の瑞々しさ、輝きを増幅させている。(語り出せばキリがないため、割愛させてもらう)




当時高校2年生の私はリアルタイムで見ていたが、5年経った今見るのとは、受け取るものの深さが天と地の差だった。


この5年間、受験をして、合格と不合格を経験し、大学生になって、新しいものと出会い、新しい悩みを抱え、身近な人との別れを知った。

そうやって変化した環境と、無意味にも重ねた数々の経験が、いつの間にか自分を大人にさせようとしていた。



おそらく、共感できることが増えたのだろう。
ただ他人事として楽しんでいたドラマや映画にも、自然と自分の経験と重ね、当事者として見るようになっていた。
自分なら、と考えるようになっていた。




時をかける少女を見た日も、考えた。


「過去に戻ったら何をするだろう?」

「過去に戻って、この先もうすぐ死ぬと分かっている人を目の前にした時、自分はどうするだろう?」




一番に思い浮かんだのは祖父のことだった。


過去に戻って祖父に会ったらどうするか、それからずっと考えている。


祖父は、私が大学1年生の10月に亡くなった。


フサオっていう名前なのに少し髪が薄くて。
いつもブラウン管テレビで野球中継を見て、スコアをつけていた。
私も小さい頃は、よく一緒に机に座って見ていた。
それが終われば、将棋やトランプで一緒に遊んだ。
トランプを切りながら、ハートのエースが出てこな~い♪といつも歌っていた。


会話はほとんど覚えていないが、机に一緒に座ったときの空気感、雰囲気、笑って楽しかったという気持ちだけは覚えている。


高校生になったあたりからは、特に理由もなく恥ずかしくなってしまい、2人でケラケラと笑いながら遊ぶことはなくなっていた。
祖父の家に行ったときには、いつもと変わらず話しかけてくれるのに、私からの返事は日に日に短く、素っ気なくなっていたと思う。

大学入学記念として、祖父がお金を出して腕時計を買ってくれたのに、お礼は一言で、簡単に済ませてしまった。



その腕時計を4年ほどつけているが、今でも見るたびに心が温かくなる。
話さなくなっていたのに、やっぱり祖父のことが好きだったんだな、と感じる。
小さい頃の会話なんて覚えてないのに、大きくなって記憶のある頃には話さなくなっていたのに。




後悔していることと言えばこれだ。
もし過去に戻ったならば、腕時計のお礼をしっかりと言いたい。


でも、それだけでいいのだろうか。
祖父は、病気が進行していたのにも関わらず病院に行かず、誰にも言わなかった。
強情で、我慢する人だった。
当たり前に体は弱り、病院に運ばれてからは話も出来ずに亡くなった。

生きている祖父が目の前にいるのなら、病院に行けとでも言うべきか。
でも、それで祖父は心から喜ぶのだろうか。



いくら考えても、結論は出てこない。

分からないままこのnoteを書いている。
まあ、何を考えても実現なんてしないのだが。


結論は出せなくても、過去に戻った時のこと・祖父のことを考えるうちに、
私はある決断をした。


それは過去でも今でもなく、未来についての決断だ。




#2 に続きます。





【おまけ】
私が大好きな曲で、大切にしている歌詞がある。

「信じられない早さで時は過ぎ去ると知ってしまったら
どんな小さなことも覚えていたいと心が言ったよ」


(竹内まりや「人生の扉」より)

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