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海とわたし


水族館が好きだ。

ガラス1枚を隔てて、目の前に別世界が広がる。
海の中にいるようなのに、海の中には絶対に足を踏み入れることはできない。
でも、泳ぐ魚たちを見ていると、"自分が社会の一員であること" を再確認できる。

そんな水族館が好きだ。


水族館が好きになったきっかけは、水中写真家・鍵井靖章さんという方だ。

鍵井さんは東日本大震災以降、宮城・岩手の海を定期的に撮り続けている。
その写真には、海に引きずり込まれた家、服、ランドセル、扇風機、車……
信じられない状況が記録されていた。


しかし、海底に残された瓦礫は、次第に生き物の隠れ場所となり、住処となり、そこに新たな生活が生まれていたのだ。


鍵井靖章「ダンゴウオ 海の底から見た震災と再生」
新潮社,2013年2月


震災があって、東北の地は一瞬にして一変した。
それは海の中も同じで、瓦礫が流れ込んできたことで魚たちの生活は一変し、様々な命が失われたかもしれない。


でも時間が経つにつれて、再生していく。
決して「元に戻る」のではなくて、変化を受け入れ「進化」していくように、再生していく。

海も、私たちの生活も。


海の生き物たちが瓦礫を住処にし始めたのと同じように、私たちも新しい生活を始めた(始めざるを得なくなった)人々がいて、震災跡地は新たな用途として利用され、私たちの社会に組み込まれた。

鍵井さんの写真からは、その時の流れと変化を感じることができる。


海の中も、私たちがいる社会も、別々なようで実は繋がっているのだと思う。



生き物たちが食べて、呼吸して、必死に生きている姿を見る。
色んな大きさ・形の生き物たちが共存していて、そこにある秩序を知る。
それをガラス越しに見ている私という存在も、社会を構成している一員なのだと再確認する。
私はここに、生きていることを実感する。


私にとって水族館は、社会と自分を繋いでくれる、そんな大切な場所である。

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