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「スマートショッピングカート 」開発秘話 #3―オフライン×オンラインでのマーケティング活用


トライアルグループが掲げる“リテールDX“の実現にあたり、社内で最も力を入れているプロジェクトが「スマートショッピングカート」の開発・研究である。今回はトライアルグループのテクノロジー開発を一手に担うプロフェッショナル集団・株式会社Retail AIの経営陣に、その開発の軌跡や今後の展望を語ってもらう。
 
語り手
田中 晃弘 :RetailShift 代表取締役社長
増岡 学 :RetailShift 常務取締役

前回までの記事はこちら

 ―スマートショッピングカート(以下、SSC)の今後の展開について

増岡

「既に実装されている部分もありますが、マーケティング領域への活用を今後さらに拡大できるのではないかと思っています。オンラインの世界では当たり前となった技術やまだ実験段階であるリアルマーケティングへの適用(オンラインとオフラインマーケティングの融合)については、これまでも弊社が積極的に進めている分野です。
 
オンラインの世界において、顧客の行動データを商品やサービスとマッチングさせることでユーザー体験および購買確率(転換率)の向上を図る取り組みはこの20年で進化し続けてきました。近年で非常に大きな成果を見せた領域です。
代表例としてA社は検索エンジンに始まり、ユーザーの「興味」をデータ化し、商品やサービスと結びつけることで新たな広告ビジネスを創出しました。このような流れはA社にとどまらず国内外で多くのデジタルマーケティング事業が隆盛を極め、今では従来型の4マス広告からデジタル広告への広告費のシフトが顕著となっています。広告主の視点からすると、1to1でのユーザーケーションによる広告精度の向上に加えて、費用対効果が見える化されたというのもその投資トレンドの変化の大きな要因となりました。
 
このような取り組みは広告の領域に留まらず、物販の部分においても大きく伸長しています。大手外資系EコマースであるB社の商品レコメンドに代表されるように、顧客の購買データと商品をマッチングさせ、顧客ごとに商品提案を行うことにより、大きな売上向上効果をもたらすことができています。このようなユーザーと商品・サービスとのマッチングに基づき、物販や広告効果を向上させることは、オンラインの世界においてはすでに確立された成功モデルであるといえるでしょう。」

増岡

「我々が実現したいと考えているのはそのオンラインの世界で確立された成功モデルをリアル店舗でのマーケティング活動に適用し、オフラインの世界でもこれまでにはない圧倒的な価値(お客様から見た場合:買い物体験の向上、店舗から見た場合:売上向上、広告主から見た場合:広告効率の向上)を提供したいと考えています。
 
上述したA社やB社といったデジタルの世界での成功企業はオンライン上でのユーザーの興味、購買に関わるデータは保有しているものの、オフラインの世界でのデータの保有は現状では限定的です。現状で行くと購買におけるオンラインでの市場は2割に満たないわけであり、まだまだオフラインの世界には大きな未開拓の資源が埋まっています。オンラインの世界の巨人たちもリアル店舗でのデータ獲得に名乗りを上げだしており、「データは21世紀の石油である」との言葉の通り、データの価値を理解しているこれらのプレイヤーの動きは非常に早いです。B社は2017年に大手スーパーを137億ドルで買収、日本においても大手Eコマース企業が続々とオフラインの決済市場の覇権を争っています。
 
逆の立場で考えると、我々は元々オフライン側にいるプレイヤーであり、A社、B社、大手Eコマース企業といったオンラインの巨人たちが狙っている市場に元々根を張っているわけです。そこにオンラインの世界で成功が確立された技術モデルを適用し、差別化されたマーケティングソリューションを提供できると考えています。実際に我々のチームでマッチングエンジンのモデル構築にあたるチームは流通業界ではなく、上述したようなテック企業からヘッドハントされた技術者集団です。マッチングやレコメンドといった技術そのものはある意味コモディティ化されている状態になっていますので、勝負の分かれ目はそれをリアル店舗に投入し、そのデータをもとに学習し、精度を上げていく部分であると考えています。その点において、我々は自社グループに実店舗を保有しそのような実験を先駆けて行っていくことができる差別化された環境があります。SSCはすでに100店舗、1万台以上が稼働していますので、すでに実験という段階ではないのですが、この規模でデジタル技術の適用の改善を回し続けることができる我々には圧倒的なアドバンテージがあると考えています。」
 
参考記事:日経XTREND 「Amazon Go対抗の最有力 トライアルHDが共創基盤を福岡に集約」 
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00488/00008/

増岡

「SSC上でのマーケティングが従来と異なるのは、大きく2つのポイントがあります。
 
①    店舗における買い物客の情報を、顧客属性や購買履歴といった過去のデータに加えてリアルタイムで取得することができ、
②   その情報に基づいて、お買い物中のお客様に対してスピーディーにかつパーソナライズされた形でコミュニケーションができることです。

左側に表示されているのがおすすめクーポンと商品

①    における情報(データ)のリアルタイム性については、SSC上で商品スキャンの順序が取得できます。これを元に、例えば、そのお客様の購買履歴に基づいて次に購入する商品を予測し提案するということも可能ですし、スキャンした商品の位置を把握することにより買い物客がどういった導線で買い物をしているか?ということもわかるということです。これまでの購買行動に基づいた提案も可能ですし、これまでにはない全く新しいカテゴリーの商品(例えば通常食品を中心に購買していく買い物客に対してアパレル商品を提案する)といったことも可能になります。
 
重要なことはまず「顧客体験ありき」ということであり、SSC上でなんでも売り手の売りたい商品を提案するということではありません。これは我々が開発するマッチングエンジンにより、顧客体験と売上向上という両方の側面を向上させていくということが可能であると考えており、買い手、売り手の双方がハッピーになれる仕組みを提供していきたいと考えています。」