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マウントゴックス破産事件


 こんにちは。

 今日は「仮想通貨で億り人」というワードで加熱している暗号資産(仮想通貨)について、法的な視点で考えてみたいと思います(決して購入を勧誘するものではありません)。

 日本の法律では、仮想通貨は「暗号資産」と定義されます。

<資金決済に関する法律2条5項>
この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法第2条第3項に規定する電子記録移転権利を表示するものを除く。
一 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

 この暗号資産をめぐっては、2021年4月14日に、アメリカ大手暗号資産取引所のコインベースがナスダックに上場したり、テスラモーターズが15億ドルのビットコインを購入するなど、今後も暗号資産(仮想通貨)をめぐる話題は尽きることはないでしょう。

 しかし、暗号資産については、わからないから怖くて近づけない、複雑で難しそうだから調べることをあきらめがちな人も多いでしょう。そこで理解を深めるきっかけとして、暗号資産の1つであるビットコインをめぐって日本で裁判になったマウントゴックス破産事件を見ていきたいと思います。

1 ビットコインの歴史

 暗号資産の先駆けだったビットコインは、どのようにして広まったのか。そのきっかけは、2008年にサトシナカモトという謎の人物がビットコインに関する論文を発表したことでした。当時において、ブロックチェーンという技術を使って、みんなで通貨を監視し合って管理するという発想が画期的だったのです(これに対してPaypayや楽天ポイントなどの電子マネーは企業が独自に管理しています)。

 このビットコインのプログラムは一般公開されていて、誰でも簡単にコピーすることができたので、その後にイーサリアムやネム、モナコインなど様々な暗号資産が登場することになります。

2 ビットコインピザの日

 2010年に、アメリカのフロリダに住んでいたラズロー・ハニエツは「誰か10000ビットコインをピザ2枚と交換してくれへん?」とサイトで呼びかけたところ、ロンドン在住の学生ジェレミー・スターディヴィアントが、オンラインでアメリカのピザ店にクレジット決済をすることで、ピザ2枚を注文して応じたのです。ピザを受け取ったラズローは、ジェレミーに対して約束通り10000ビットコインを支払いました。

 このビットコイン決済が初めて実現した日は、ビットコインピザの日と呼ばれています。ジェレミーがそのまま10000ビットコインを保有し続けていたとすると、現在その価値は・・・(想像にお任せします)。

3 マウントゴックス事件の概要

 2010年、マウントゴックスは日本を拠点に暗号資産取引所を開設しました。2013年には世界中のビットコインのうち7割以上を取り扱うほどの規模に拡大していました。しかし、2014年にビットコインと顧客からの預かり金の合計約430億円がハッキングによって消失していたことが発覚しました。

 債務超過に陥ったマウントゴックスは事実上の経営破たんに陥り、東京地裁に破産申立て行い、Yが破産管財人として選任されました。顧客だったXは、488ビットコインの残高があったとして、Yに対してその引渡しを求めました。

 東京地判平成27年8月5日は、ビットコインが所有権の対象となる民法85条の「物」に該当するかどうか(つまり有体性及び排他的支配可能性の要件をみたしているかどうか)について、X の主張が「所有権の対象になるか否かの判断において、有体性の要件を考慮せず、排他的支配可能性の有無のみによって決するべきであると主張するものと解される。このような考えによった場合、知的財産権等の排他的効力を有する権利も所有権の対象となることになり、『権利の所有権』という観念を承認することにもなる・・・物権と債権を峻別している民法の原則や同法 85 条の明文に反してまで『有体物』の概念を拡張する必要は認められない」として、ビットコインのX への引渡しを認めなかったのである。

民法85条
この法律において「物」とは、有体物をいう。

 4 デジタル資産を保護する知識が不可欠な時代へ

 ビットコイン以外に、非代替性トークン(NFT)にも注目が集まっています。こちらも、みんなでチェックして改ざんが困難なブロックチェーン技術を用いたもので、作者や所有者の情報を示す「証明書」を発行する、つまり唯一無二の本物だとの証明書がついたデジタル資産とされています。

 実際に、アメリカのツイッター社の創業者であるジャック・ドーシーの初めてのツイートが、約3億円でオークションで落札されました。この「史上初のツイート」について唯一無二のデジタル資産だと証明することが可能となったからこそ、3億の価値が出てきたのです。

 しかし、現在の日本の民法では、有体物でないことを理由にデータ自体に所有権を認めていません。そのため、NFTがハッキングされてデータが無くなっても所有権に基づいて返還を求めることできない可能性があったり、デジタルアート自体をコピーして勝手にNFTを発行している事例もあるようです。

 デジタル資産の被害者や著作者を保護する法制度を早急に整備する必要がありますが、そのためにも世間一般にもデジタル資産への理解が広まっている必要があるでしょうね。

 では、今日はこの辺で、また。



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