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レオナール・フジタ事件

こんにちは。

 みなさんは、近代の最高の画家とも呼ばれているレオナール・フジタさんをご存じでしょうか。

 個人的に好きなエピソードとして、法律の研究でフランスに留学したものの、途中で画家への道に転向し、後に東京美術大学の教授となった黒田清輝先生から「絵に黒を使うな!」とみんなの前で吊し上げられて憤慨した藤田さんが、逆に黒の輪郭線を描く手法を用いてフランスで大ブレイクしたことですね。人生には何が起こるか分からないという面白さもあるのですが、藤田さんが最後に描いた作品には黒の色が使われていないところを見ると、先人の教えは人の人生に多大な影響を与え続けるのだなあとも感じました。

 そんな藤田さんの作品をめぐって起きた「レオナール・フジタ事件」(東京高判昭和60年10月17日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 小学館は、『原色現代日本の美術第7巻・近代洋画の展開』の書籍の中に、故レオナール・フジタさんの絵画を掲載しようとしましたが、レオナールさんの著作権を承継した妻の藤田君代さんは、これを拒否していました。しかし、小学館は、「補足図版」であれば論文の引用として問題が無いと考え、妻の許可なく絵画を掲載して出版しました。そのためは、藤田君代さんは著作権侵害を理由に、書籍の廃棄と損害賠償などを求めて提訴しました。

2 藤田君代さんの主張

 夫の絵画の複製物を書籍に収録したのは、論文への引用の必要性に基づくものではなく、書籍の編集上の目的に基づくものでした。つまり夫の補足図版は、読者が楽しく見ながら論文も読みたくなるための材料として、また抵抗感の少ない本作りの手段として利用されたのです。著作権者は、著作物をどのような内容、形態で出版するのかについて、自由な選択権があるにもかかわらず、小学館は自社の意図を著作権者に押しつけ、著作権者の意思や信念を無視して出版活動をしようとしており、横暴極まりない主張をしています。

3 小学館の主張

 問題となった絵画は、公表された著作物であり、書籍に収録された論文中に補足図版として引用されたものであり、公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲内で行われたものであるから、著作権を侵害するものではない。
 また、適法な引用にあたらないとしても、差止めや廃棄を求めるのは行き過ぎだ。侵害の停止、予防を図らなければならないほどの必要性があるとは思えない。また、掲載された書籍ではレオナール・フジタ氏の業績を称えており、決して批判したり、誹謗したりしたわけではないので、藤田君代氏が被った損害は極めて微々たるものである。

4 東京高等裁判所の判決

 問題となった絵画の複製物は論文に対する理解を補足し、同論文の参考資料として、それを介して同論文の記述を把握しうるよう構成されている側面が存するけれども、絵画の複製物はそのような付従的性質のものであるに止まらず、それ自体鑑賞性を有する図版として、独立性を有するものというべきであるから、書籍への絵画の複製物の掲載は、著作権法第32条第1項の規定する要件を具備する引用とは認めることができない。
 よって、小学館は、絵画の複製物を掲載した部分を廃棄し、藤田君代氏に138万円を支払え。

5 明瞭区別性と主従関係性

 今回のケースで裁判所は、絵画と論文とを明瞭に区別して認識することができるが、論文に引用されていない絵画まで含まれていることから主従関係がないとして、小学館による絵画の掲載が引用にはあたらないとしました。   
 絵画を引用する場合には、美術品として鑑賞できるほど高品質レベルで掲載することが、「引用のしすぎ」だとみなされる恐れがありますので、引用に際しては十分に注意しましょう。

では、今日はこの辺で、また。


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