負け戦

夜寝る時。息子は必ず夫の方に行く。

私と夫がそれぞれ寝転がって「こっちにおいでー」と言った時。

「うーん。どっちにしようかなー。おとうさんかなーおかあさんかなー。うーん。おとうさん!」

と必ず夫の方に行くのである。

「…何なの。何の賄賂渡してるの」

「いやー。何も渡してないんだけどなー何でだろねー」

息子を抱いて勝利の笑みを浮かべる夫。解せぬ。解せぬぞー。

男の子はお母さんが好きなんじゃないのか。そんな話を聞くけどあれは嘘なのか。職場でそんな話をすれば、「うちの息子も旦那の方に行く!」という人がいた。やはり男の子が母親の方に行くというのは幻想なのかもしれない。


ある日、息子がパワーアップした。

「にんぽう!ぶんしんのじゅつ!」

あまりに私がこっちにも来いと言うからだろうか。息子は分身してくれたらしい。ならば今度こそ私の方に来てくれるかと思えば、本体はやはり夫の方にいく。

「おかあさんのほうにもぼくいるからね!」

「うん、そうだね…。分身した息子がいるね…」

実際には腕の中は空っぽだがな。

いつも最初は3人で寝るものの、夫は途中で起きて隣の部屋に行く。すると息子はスススっと私の方に寄ってくるのだ。そんな息子を可愛いと思う。でもたまにはさ、最初からお母さんの方にきてもええんやで。

今日もたぶん、息子は私の方に来ない。負け戦なのはわかっている。しかし手を挙げないわけにはいかないのである。99%「来ないだろうな」と思いつつ。「こっちにおいでー」と今日も言うのだった。


ではまた明日。