みずのあわ

それは洗い物をしている時だった。

「お母さん、『水の泡』って何?」

と息子に聞かれた。

水の泡。頭に浮かんだのは、水面に泡がポコポコある光景である。今は洗い物の途中だから。眼の前にだって泡立った水面は沢山ある。水の泡って要はそういうものなのでは。

あ、でも「水」の泡だから石鹸とかは使っていなくて、「水オンリーでできた泡」ということなのか??

それともアニメとかでありそうな、水の中で大きな泡の中に入っていて息もできるとかそういうの??

イマイチ正解像が見えてこないものの。

「水面をバチャバチャーってしたら、泡ができるんじゃない?」

とりあえず無難に。水で泡を作る方法を言ってみた。

しかしどうも息子が思っているのとは違うようで。

「んーとね。◯◯(何かわらからないけど敵の名前っぽい)が人間を倒そうとして、でも何とかがああなって(説明してくれたけどよくわからない)『水の泡』って言ってた」

ふーむ。動画か何かが元っぽい。しかしアレか。シチュエーション的につまり。


「水の泡」ってそっちの「水の泡」かーー!!


息子の話を聞いてようやくわかった。物理的な「水にできた泡」ではなくて、慣用句的「水の泡」ね。そっちは全然思いつかなかった。


「ええとね『水の泡』っていうのは、何かをやろうとして頑張ったんだけどそれが無駄になった、上手くいかなかったってことだよ。だから、人間を倒そうとしていろいろ頑張ったけど上手くいかなかったってことじゃない?」

「そっかー」


とりあえず息子が聞きたいことに答えられて良かったものの。自分の中ではこっちの「水の泡」が最初の質問だけでは全然出てこなかったことに驚いた。

確かに「水の泡」って前後に文や流れがついて初めて意味が通じるものなのだろうと思う。せめて「水の泡だ」とかセリフっぽい感じで言ってくれたら、最初から思いついたかな、と思いつつ。

あと単純に息子の年で「水の泡」なんて単語が出てくるわけがない、という思い込みもあったのかもしれない。

でもそれって本当に思い込みで。息子は動画やテレビや絵本で知らない単語があるとよく聞いてくる。それは簡単な言葉も、大人でさえ普段使わないような言葉も変わらない。息子にとっては使う頻度や難しさは関係なく等しく「知らない言葉」なのである。

「水の泡」って突然聞かれたらそうなるんだなーという面白さと。息子が聞いてくる言葉にフィルターをかけちゃいかんなーという戒めと。たったひとつの質問だったのだけれど、いろいろ考えたのだった。


ちなみに後で夫に「水の泡」を聞いてみたら、やっぱり最初は水でできた泡について考えていた。「水の泡」という単語だけを聞いたらそっちの人の方が多いのかな。



ではまた明日。