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祖母のこと

 私の祖母は、正直に言ってあまり感じの良くない婆さんだった。典型的な嫁いびりに、無神経な言動。自己中心的な行動が目立ち、家族みんなからあまりよく思われていなかった。入院中も、病院側が家族の宿泊はできないと言っているのに対し、半ば強引に宿泊を許可させようと病院側に迫った。本当に病人なのかと母親は皮肉を言ったりしていた。
 私が高校生だった時に、最後にお見舞いに行った日のことを鮮明に覚えている。もう何時亡くなってもおかしくないという状況の陥ったと母から聞かされ、一緒に病院に行った。久しぶりに会った祖母はやせ細り、明らかに衰弱している様子が見て取れた。口には人工呼吸器が取り付けられ、話すこともままならなかった。
 祖母が何か僕に向かって話しかけていることに気づいた。耳を近づけてよく聞いてみる。
「今度、携帯電話を買ってあげるからね。」
 祖母は消え入りそうな声で私に言った。私がいつの日か、携帯電話が欲しいといったことを覚えていたようだ。予想外の発言に私は驚いた。
 そのとき、いろいろな思い出がよみがえってきた。一緒にお祭りに行ったこと。入学祝いに、好物の鰻を食べに行ったこと。その時の祖母の笑顔が想起された。心から家族との時間を楽しんでいるように見えたが、彼女は家族からも嫌われていることに気づいていたのだろうか?
 その3日後、祖母は息を引き取った。最期をみとった父の話では、最後まで私に携帯電話を買うと言ってきかなかったらしい。結局約束は果たされなかった。祖母はどんな思いで死んでいったのだろうか?祖母の命日が来るたび、私は思い出す。

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