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絵本日記DAY25「うるさいぞ・・・」/Someone、の正体

このまえの金ようび、宮沢賢治の絵本について書きたい記事があり、最近いいなと思っているミキハウスから出版されている絵本をもとめて大手チェーンの本屋さんへ行きました。ところが、宮沢賢治の本はおろかほとんどがわたしの苦手なタイプのしつけ絵本。がっくりとし、でもきょうはカレーだ、とおもったらさいご口のなかがもうカレーになっているのとおなじことで、すこし意地になっていたわたしはそのまま別の本屋さんへと車を走らせたのでした。

15分ほど運転し、たどり着いた本屋さん。ここは観光施設や市場の敷地内にありながら、赤本などの参考書がとても充実しているというおもしろい店舗。入り口の自動ドアをくぐってすぐにわたしの目に飛び込んできたのは、「こどものとも バックナンバーフェア」のポップでした。な、なんと!!歓喜!!

ここでわたしの神保町モード(注:神保町でハイエナのごとく古本を目だけで漁る、リュック姿のおじさまたちから着想を得たモードのこと)がスイッチオン。

眼を見ひらき隅から隅まで点検(もはやパトロール)し、購入したのは三冊。

・パンくうこう/古川タク作

・まじょのすいぞくかん/佐々木マキ作

そして今日ご紹介する「うるさいぞ・・・/五味太郎作」、です。

それから「福音館児童書目録2021」も配布されていたのでしかといただいてきました。これが無料とはさすが天下の福音館。

研究仲間、とよんでいる友人が以前「モノタロウ」というカタログを”圧倒的愛読書”と表していて、おもしろいひとだなーと笑っていたのですが、わたしもたいして変わらないのではないか・・・と内心どきどきしています。

それでは、ごみたろさんの絵本のおはなし。

やはりごみたろさんだ、面白いなぁと思うのは、一回よんだだけではわからないですね、というところなんです。

まず、書き出しはこうです。

「なにやら つくっておりますと・・・」
「ん?なにかが とんでゆきますね・・・」

てんてんてん・・・、とだけ描かれた「なにか」が、とんでいきます。

ここで、ははーん、あのうるさい蚊のことを描いた絵本だなァ、これは年少版こどものともだし、子どもたちに蚊の存在でもしらせるつもりだなァ、などと思っていると、あっ!!というまに足元をすくわれます。

それが、ごみたろさんなのです。

点々の正体、「なにか」は、なかなか捕まりません。紙筒でも缶でも、にげられてしまいます。よっぽど、掴めないもののようです。

ここですきなのは、

「もう かんぜんにおこりました!!ふくろでとっつかまえます!」

ですね。こう、五味太郎さんが描くと、もう文字も絵も完全に怒っているんです。そして愉快なくらい、こちらもはらわたが煮えてくる。おこったぞ!!という気持ち一色にさせられる。この力はなんなんでしょうね・・・。

そして、

「やった! つかまえました!」

ここでも、やった!!と、心からガッツポーズしたくなる。ふしぎ。ものすごくうれしい。

ところが、その「うるさいやつ」の正体はなんと・・・。

というストーリーです。これ、とても、哲学な絵本。

なにかをしているとき、わんわんと、いちばんうるさいのはだれでしょう。

裏表紙に書いてある英訳のタイトルは「SOMEONE IS ANNOYING ME」、だれかが私をイライラさせている、です。

誰もいないところで、瞑想なんかしてみたら、いっぺんに気がつくでしょうねぇ。

あーでもないこーでもない、やめて。しずかにして。なんであんなこと言っちゃったんだろ。いいから、しずかに。あ、洗濯まわしたままだった。もうやめて、今は瞑想ちゅうなんだから。

勘の良いあなた、もういちばんうるさいのはだれなのか、おわかりでしょう?

袋にとっつかまえたはずの「someone」には、またにげられるところで、おはなしはおわります。だってそうでしょう、人間、おきているあいだ、思考をとめることはできないのです。いいえ寝ているあいだですら記憶の整理とやらヘンテコリンな夢を見せてくるのですから、ほとほと、こまったものです。

そしてこれら、人間の普遍的な不条理を、ごくごくシンプルな絵と、でっかい一文の文字だけでここまで面白く描く五味太郎氏は、やはり圧倒的だというほかないのです。

一度よんだだけではここまでは理解できず混乱し、同封されている「絵本のたのしみ」という編集部だよりに頼ってしまったことがなんとも悔しい。

まして悔しいのは、一度よみおえたあとまたページをめくってみると、もう最初のページにちいさいsomeoneがチラと顔をみせていることなんです!くぅ、気がつかなかった。

表紙に描かれている赤やみどり、オレンジの球体とそこにくっついているなにやら記号のような絵。これは、angryやhappy、sad・・・などfeelingを表しているのではないかしらん、と踏んでいますが、これも解説をみてしまったあとだから気づいたこと。なんだか夏休みのワークの答えをみて問題を解いてしまったような、なんとも言えないきもちです。

とはいえ、今回もまたやられた!という心持ちになり、なんどもよみ返したくなる絵本。これだからやっぱりごみたろさんってすきです、と、なるわけなのでした。


とうとうお目当ての絵本には会えなかったけれども、そもそもこの絵本を買おう!と本屋に行ったのははじめてのことで、やはりいつものように、一目みた瞬間頭のなかでゴーンと鐘が鳴り響く「運命的な出会い」をしてこそ、素敵な絵本とは巡りあえるようです。

恋といっしょだね。

月間予約絵本「こどものとも年少版」通巻539号「うるさいぞ・・・」
五味太郎 2022年2月1日発行 福音館書店

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