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父と緊張しながらの共同作業

先日、実家に帰り、父と姉と私の3人で銀行に向かった。姉は車の運転担当。ペーパードライバーのわたしは父の付き添い担当。


最近、父の理解力が、一段と厳しくなってきたため、本人の判断力がまだあるうちにと、定期の解約&普通口座のキャッシュカードと代理人カードを作りに行ったのだ。

この件については、一昨年から家族会議で何度も話し合ってきた。しかし,父からすれば、子供から親のお金の話をするなんて、プライドが許せなかったようだし、まるで自分がもうボケているように扱われていると思ったのか、この相談をすると、普段、見たことがないような剣幕で私たちを怒鳴った。

本当ならわたしもこんな話をしたくない。
というか、恥ずかしながら、自分の生活を考えていく事だけで精一杯。

しかし、とりわけ心配性の長女の指令により、両親の金銭管理などについて家族全員が真剣に考えることになったのである。それが約2年前。

ところが、、、その後、心配症の姉があまりにも、根掘り葉掘り、お金関係について両親に質問するので、両親は姉が自分たち(両親)のお金を狙っているのではないか、と疑心暗鬼に。。。というか完全拒否。
しばらく、お金管理に関する話題は、NGとなってしまった。

チーン。。。

しかし、NG期間中も、両親はどんどん年を取っていく。自身の老いを一番、痛感しているのは、他の誰でもない両親のようだ。最近では、やれ、あれがない、これが無いとか、盗まれた、とかしょっちゅう大騒ぎ。

そんな両親の様子を見かねて、やっぱり大切なものの管理は子供にも少しは任せてほしいと再打診した。再打診する際は、二人の尊厳を傷つけないよう、細心の注意を払った。

こうして、2年近い家族での話し合いを経て、やっと、一部情報共有がされる。それが先月の話。

その後も、色々すったもんだ、あったものの、先日、やっと一つの銀行の手続きに父と向かう事が出来たのだ。

が、しかし、ここで一つ問題が。。

この2年で父は、またさらにぐーんと認知能力が落ちてしまった。最近では、言った側からすぐ忘れてしまう。晩御飯だって5分後には何を食べたのか思い出せない。

だ、大丈夫なのか。。。

今は詐欺対策などで、銀行での窓口対応は一層、厳しくなっていると聞いている。
定期の解約や代理人カードの諸々の手続きには、本人以外、付き添い人は不要と、銀行のHPでは書いてあった。

また、判断力が乏しい、もしくは認知症を疑われると口座は凍結され、成年後見人制度を勧めれることもあるらしい。

ふ、ふ、ふ、不安すぎるっ!

そのため、銀行に行く1週間前から、銀行でのやり取りを想定して、姉から父に、なぜ今回、この手続きするのか、理由と聞かれそうな質問を幾度も説明。言い換えれば熱血レッスン。

父自身もすぐ忘れることを自覚しており、銀行で何をするかメモに書いては、何度も自分で口に出しては、確認していたようだ。

実際、銀行に行く日も、父はボロボロになったメモを見返しては、ポケットにお守りのようにしまっていた。

わたしもどうなることやらと、やきもき。父が変なことを言って、口座凍結とかならないといいけど、なるようにしかならないしな、と割り切っていざ出陣!

2人で銀行に入ると、親切そうな案内係の人が、今回の手続きについて我々に質問。それから、その手続きに必要な書類を持参しているかどうか、確認してくれた。わたしは父と顔がそっくりなせいか、怪しく思われなかったよう。
ふうう、まずは、よかった。

その後、窓口に呼ばれるまで、2人でのんびり待った。不安そうな父のために、私は、愛猫の写真や動画を見せては、しょうもない話をする。
父に少しでも安心してもらうためだ。
そうこうしているうちに、ついに父の番号が呼ばれた!

父が立ち上がり、わたしもさりげなく、一緒に窓口について行くと、なんと同席が許されたのである。

やったーーー!(えっ、大袈裟?)

行員の女性から、父との関係性を聞かれたので、娘だと伝え、持ってきた運転免許証を提示。信用してくれたご様子。
よしよし。

しかし、私から積極的に話すのも印象が悪くなるかもと思い、行員の女性からの質問には全部、父に答えてもらった。どうなるかとヒヤヒヤしていたが、父は練習した通り、行員の女性に話している。行員の方も高齢の父を慮って、ゆっくり説明してくれる。
時折、娘のわたしにも視線を送ってくださり、終始、和やかに手続きが行われた。

父は、家であんなに不安がっていたのに、行員の女性の前では、昔みたいに堂々と話していた。      

ジーン。。

こうして、我々は、その日のミッションは全て無事に終え、晴々とした気持ちで銀行を出たのだ。

ふうう、なんていい日なんだ。有休をとった甲斐があっななあ。太陽が眩しい!!

車で待っていた姉もよかったね、と一緒に喜びを分かち合う。

しかし、当の本人である父は、ずっと浮かない顔をしている。そりゃそうだ、今回の解約手続も父の希望ではなかった。
私たち子供の話を聞き、母からもお願いされたため、渋々、1週間練習して銀行に来たのだ。

車内で、「お父さん、ずっとパッとしない顔してるね。」と心配そうに聞くと、
父は「俺は昔からパッとしない顔だからな。」と笑って答えた。私たちも笑った。
父なりに気を利かせて、ジョークを言ったのだろう。

本当は、父は多分、車内で色んなことを思っていたのだと思う。憂鬱そうな顔だった。

家に着くと、「ありがとうございました。世話をかけてすみません。」と、父は私と姉に言った。

「今まで、学費やら何やら何不自由なく育ててくれたんだもの。頼りないかもしれないけれど、何かあれば、みんなで考えていこう。なんとかなるよ。」と姉とわたしも、それぞれ父に伝えた。

父のボロボロの紙を思い出すと、今も少し感傷的な気持ちになってしまう。


いやいや、感傷的になるのはまだ早いぞ。
おそらく、これからなんだから。

今日のことも、いつか懐かしく思い出す日が来るのかな。



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