長崎のお菓子たちが、勢ぞろいした日。


長崎のお菓子たち


 ある朝ダイニングテーブルに座ると、私の席に何やら置いてある。
 よく見ると、透明なパッケージに包まれたお菓子の詰め合わせ。夫が長崎で開かれた会議に出席した際、お持ち帰り用にいただいた品だった。

 嬉しいっ!

 大好きな「クルス」もある。「出島蘭館」ってのは、初めて。どんな味なのかな?(食べてみたら、濃厚なマドレーヌみたいな感じでおいしかった)

 なんだか、遠足のお菓子を思い出しちゃった。その昔、遠足のお菓子は¥300まで、などと決められていた。

「先生、バナナは、お菓子に入りますか?」
 というギャグが受けたことあるけど、これはこれで子どもにとっては真剣な問題でしょ。お菓子のカテゴリーに入ったら、その分普通のお菓子が買えなくなっちゃうんだから。

 私の時代は、消費税もなかったから、スーパーマーケットに行ってきっちり¥300分買うのが鉄則。どうしても余っちゃう時は酢こんぶの「都こんぶ」が¥10だったから、帳尻合わせたりして。これも、当時の「あるある」。

 今回私が強烈に思い出したのが、ある年の遠足のお菓子のこと。どういう経緯かわからないけれど、PTAのお母様たちが選んで配布してくれるというシステムだった。その詰め合わせと、長崎のそれがとても似ていたから。

 つまり。

 小学生には、ちょこっと高級すぎたのね。今だったら、逆に大喜びするラインナップなんだけど、上品なクッキーとか、お煎餅とかそういうものが色々入っていた。
 最初に現地で渡された時は、
「ゲッッ」
 と思った。その頃は、個別包装のお菓子は少なかったので、ご丁寧に小分けしてくれたのだろうけど、そうするとメーカーも何もわからないお菓子が少しずつ詰め合わされているわけで。
 もともと私は、そんなにジャンクフード(ポテトチップなどのスナック菓子)は好きではないけれど、この高級感にはたじろいだ。
 皆もそう思っていたのかもしれない。誰も大声で文句を言ったりしなかったけれど、その時一回だけだったから不評で、次回からは取りやめられたのかもしれない。その熱心なお母様の任期が終了して、元に戻った可能性もある。

 今になると、もう一度その詰め合わせを見てみたいな、とよく思う。どんな物が入っていたのだろう。きっと子どもたちのことを考えて、身体に良いものを、と選んでくださったのだと思う。
 悲しいかな、そういう思いはなかなか伝わらない。
 男子たちも、内心、
「ちぇっ、仮面ライダースナックが食べたかったのに!」
 と思っていたかもしれない。
 けれども、何十年も経って思い出すのは、たった一回のこのお菓子のこと。

 最近私は、昔ながらのお菓子の良さを再認識していて、「鳩サブレー」「泉屋のクッキー」「ユーハイムのバームクーヘン」「神田精養軒のマドレーヌ」など、特にミルクティーに合う品々を、自ら買い求めたりする。これらのお菓子って、子どもの頃はお中元などいただき物が中心で、なんとなく家にあったから口にしていただけ。それこそ一回限りの高級遠足お菓子のようにちょっと敬遠しちゃったりもしてた。

 そもそも一番感謝しなければいけないことは、今でも普通にさりげなく売っていることね。「神田精養軒のマドレーヌ」はもうなくなっちゃったのかと悲しかったけど、デパートの「諸国名産」コーナーの「関東」によくカゴに入れられて売っている。その他の物は、駅ビルやデパ地下で容易に買うことができる。

 本や映画も同じだけれど、自分が幼すぎてわからなかった良さを年齢を重ねてわかるようになるのは、醍醐味。
「年は取るもんだよね~」
 と、ここ数週間でいきなり飲んでも汗をかかなくて済む熱々のミルクティー片手に思う秋の午後でしたとさ。
 とりあえず長崎のおやつを満喫するのが、目下の楽しみだけど、ね。


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