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何がすごいって、三笑亭夢丸師匠のネタはほとんどかぶることがないってことさ。

 大好きな三笑亭夢丸師匠。安定の高座だから、寄席にお呼びがかかることが多く、年に数回トリも取っているけれど、もっともっと師匠の話が聴きたくて、独演会、二人会にも足を運ぶようになった私。
 寄席とは違う魅力をたくさん見せてくれるのだけれど、驚くのがその持ちネタの多さ。古典の師匠なんだけれど、何度お邪魔しても初めて耳にする噺をやってくれる。
 それと、まくら。
 どうして師匠の周りには、こんなおかしなことが起こるの? と思う日常のちょっとした事件を、それはもう面白おかしく話してくれてそれだけでもう一席聴いたような状態になる。

 でもよく考えると、たしかに面白い事件に遭遇することも多いけど、それを伝える「言葉力」にものすごく長けているんだと思う。
 よく、
「今日まくら何しゃべろうかな~って考えながら、ここに来たんですけど」
 と言ってるけれど、つまりちゃんと起承転結を練りに練ってから話しているってことで、もう感情移入して聞き入っているうちに、すーっと噺に入っていく技は、毎回見事としか思えない。
 それが自然にできるのは、やっぱりきちんと筋道を立てて流れを作っているからで。
 それはもう尊敬以外のなにものでもない。

 古典と言えど、そこにちょっぴりまくらで話したエピソードをまぶしたり、前座さんのネタを引っ張りこんだりと毎回アレンジが施されているし、そもそもたとえ知っているネタでも、
「あ、師匠の大工調べは初めて聴く! 言い立てどんな風にするのかな?」
 などと、いつも新しい驚きと笑いを届けてくれるんですね。
 ちなみに、大工調べの言い立ては、いつも「新潟出身なのにさも江戸っ子のふりして江戸弁しゃべっちゃってる」と自虐を言っているけれど、強いパンチで殴られたような江戸弁でガンガン責めてきて、とてもかっこよかったです。

 小さい会場でお客さんが2,30人しか入れなくても全力投球。伝わってくる熱気を浴びながら、この少人数で師匠を満喫できる幸せを噛みしめる。
 会場によってその品格を考え、まくらの内容を変えるところもすごい。それくらい気を使っていることを、さりげなく発表して、最初はその違いがよくわからなかったけれど、だんだんと状況がわかるようになってくると、
「たしかにこういう話は、この会場でしかできないな~」
 ということが理解できて、それも色々な場所に行くことの醍醐味。

 これは、春風亭一之輔師匠とずっとやっている「夢一夜」という名の二人会の時の演目。こんなきれいな題名をつけることができて、それだけで二人でやる意味があるな~といつも思うけれど、時々夢丸師匠一人でも「ひとり夢一夜」っていうタイトルで独演会を開いているのは、ご愛嬌。どっちでもOK、二人の時はお互いのエネルギーがぶつかり合って思わぬ相乗効果で盛り上がるし、一人は一人で夢丸師匠を独占できるから。
 とにかく夢丸師匠の話が聴ければ良いの、私は。

 一番最近にお邪魔した赤坂会館で(5月8日)撮影。「長短」で気の長い男の所作で笑わせてもらい、「明晰夢」(これはナツノカモさん作の擬古典と言われる新作なんだけど、舞台は古典という作品)のシュールさに圧倒され、ラストの「唐茄子屋政談」でほろりとさせてもらった充実のプログラム。
 雨模様の夕方だったけれど、終演して外に出た時にはすっかり晴れていて
ちょうど良い温度の中、師匠の話しっぷりを思いだしながら、家路についたのでした。

 古典もじゅうぶんに楽しませてくれる師匠だけれど、新作を自作してやったらきっと捧腹絶倒の話が出来あがるような気がする。でも、落語という伝統芸の世界において、
「寄席の歯車になりたい」
 なんて謙虚だけれど、とても大切な思いを持っている師匠のことだから、このまま古典で駆け抜けるのも、あり、ですね。
 どちらにしても、私は夢丸師匠について行きます!

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