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「クライマックスナーバスポリス」アフリカ大陸縦断の旅〜南アフリカ編⑩〜

 2018年9月20日、日没後トラックの中で、まだ旅を終わらせたくない、やっと終わりを迎えられるというジレンマに押し潰されていた私たちは、不安定な様々な要素を考慮した結果、それらのちょうど中間「ケープタウンの郊外で降ろしてもらうこと」を選択しました。その後、運転手と8時間耐久の談笑を行い、日付が変わった21日深夜1時頃、私たちは確かにケープタウン郊外に到着し、周囲を警戒しながら寝床を探していたところ、前からやってくる人影を確認したのでした。

「(絶対に目合わせたらあかん。)」

 光と闇にボヤける3人組に何か悪い予感が働いた私たちは、一瞬立ち止まって目配せをして歩道の端に寄り、少しだけ歩く速度を上げました。

「(このまま素通りで頼む。)」

 下を向きながらもそう願い、体格の良い3人の男性とすれ違おうとしたその時。

「HEEEY!!!」

「Come here !」

「(うぅわ、終わった。走るか?いや、逃げてたら怪しまれる、というか撃たれるかもしらん。)」

「(2対3、戦うか?いや、数的不利な上に武器まで持ってる可能性ある。勝ち目ないやん。)」

 確実に詰んだ盤面に諦めた私たちは、無意識ながら従順に彼らの元に歩いていました。

「What are you doing here ?」「Homeless ?」
「Where are you from ?」「Are you really tourists ?」
「Show me your passport.」「Let me check !」

 怪しげな3人から一気に詰め寄られてたじろぐ私たち。加えて矢継ぎ早に浴びせられる高圧的な英語に、脳内は大混乱。何をどうすれば良いのかと狼狽し、不可解な身振り手振りを披露する始末。そんな明らかに挙動不審で弱々しい外国人2人を彼らが見逃すはずもなく、私たちは無抵抗のまま腕を引っ張られ、暗がりの中を連行されたのでした。

「Are you OK ?」
「We are police officers.」

「(ん?今、警察とか言ったか?)」

「Calm down. 」
「Chill out.」

 どれほど歩いたのか、徐々に冷静さを取り戻した私たちは初めてまともに彼らの姿を認識しました。深く被った帽子、ネイビー色のジャケットとパンツ、腰に巻いたベルトに差し込まれた拳銃、胸の辺りにくっきりと示された【POLICE】の白文字。

「ポリス・・ポリス?」

「Yes, Yes.」

「本当に警官ですか?(偽物が偽物ですっていう訳ないやろ。アホか俺は。)」

「そうだと言ってるだろ。」

「えっと、どこに向かってるんですか?」

「警察署だ。不審者でないと分かれば、すぐに解放する。」

 どうやら私たちは相当疑われているらしく、パスポートや荷物の確認、不法滞在ではないかなどを調査する間、しばらく拘束されるとのことでした。まだ偽警官である可能性も残されてはいましたが、現状ではどうにもならず、私たちは警察署に向かっているという彼らの言葉を信じるしかありませんでした。

 そして数十分後、こじんまりした白い建物に連れて来られ、目が痛くなるほど明るい部屋に通された私たち。そこには簡易的な木のテーブルに肘をついて険しい顔つきでパイプ椅子に座る、太った黒人男性が待ち構えていました。そして、その上官らしき彼は私たちから目を離すことなく立ち上がって、口を開きました。

「パスポートを見せろ。」

 すぐにボディバッグからパスポートを取り出して、急いで上官に渡す私たち。

「上に着ている物を脱いで、バックパックを下ろせ。」

 緊迫した空気が漂う中、言われた通りに寝袋と上着を脱いでバックパックを下ろした私たち。パスポートを捲りながらも、時たま目線をこちらに向けて訝しげな表情を浮かべる上官。

「・・・日本人なのか?」

「はい。そうです。」

「ここには観光で?」

「はい。」

「・・・そうか。それなら大丈夫とは思うが、一応調べさせてもらう。」

 そして、先ほどの3人は私たちのボディバッグとバックパックの中身を全て取り出し、綿密な確認を開始。一方で上官は私たちの身体検査をしながら丁寧な質問攻め。

「どうしてあんな時間に外を出歩いていたんだ?」

「ヒッチハイクでここまで来たんですが、渋滞とか色々ありまして、着いたのがこの時間だったんです。」

「ヒッチハイク?それはもうよく分からんが、ホテルまで歩いて行こうとしてたのか?」

「(やっぱ聞かれるよなぁ。宿ないねんて。どうしよ、でも嘘ついてバレたら余計にややこしいことなるよなぁ。)」

「・・実は泊まる場所がなくてですね。どこかこの辺りでテントを建てようと思ってたんですが・・・。」

 この言葉によって上官は目の色を変え、瞬き一つせずにこちらにグッと顔を近づけました。

「何考えてるんだ。死にたいのか?」

「いや、そういう訳ではなくて・・・」

「絶対にダメだ。ケープタウンの治安は知ってるだろ?そんな危険なことはさせられない。今すぐホテルを予約しなさい。」

「・・えっ、いや・・・」

「問題ない。ホテルの前までは車で連れて行ってやる。」

「あぁ、はい。分かりました。ありがとうございます。」

 とは言っても電波のない環境に変わりはなく、当然宿の予約は不可能。しかし、この場の空気に飲み込まれ、全てに恐縮する私たちは、その事実を伝えるタイミングを完全に逃していました。

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