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「喫煙者のひとりごと」アフリカ大陸縦断の旅〜ケニア編⑧〜

 2018年8月30日、2泊3日のサファリツアーに参加。午前9時にはミニバンに乗り込んで宿を出発、お喋りと睡眠を繰り返し、森の中の未舗装道路を抜け、大きな水たまりを何度も通過し、激しい揺れに耐えること約6時間。私たちはようやくマサイマラ国立公園に辿り着きました。スタッフにあれこれと説明を受け、日没までの数時間だけサファリへと繰り出せるとのこと。人生初、野生の動物にお目にかかる瞬間です。どこまでも広がる大自然と草食動物の群れ。リアクションを取ることもなく、ただただ圧倒されるばかりでした。この日の目玉はライオン彼らの凛々しい姿になんとか振り向いていただこうと考えた愚かな私たちは、別グループの男性から渡された音の出る小道具を目一杯鳴らしました。猛ダッシュで近づいてくるセキュリティの車。本気の威嚇で吠えるライオン。私たちを乗せたミニバンは一目散にその場から逃走しました。運転手から注意を受けた私たち、もう2度と野生に逆らわないことを誓いました。


 2018年8月30日午後6時、大自然から逃げ切って宿に戻って来られた私たち。3人しかいない安堵の空間を利用し、「どう考えてもあの変な小道具を渡してきた西洋人が悪い」「あんな重大事項、行く前に説明してくれんと」と他責に他責を重ねていました。そしてしばらくすると、お待ちかねの晩御飯。自然に囲まれるように設置された、屋根と柱だけの簡易的な建物に案内され、目の前の木のテーブルには、その端から端まで食べ物が並んでいました。ひもじい生活を送っていた私たちにとって、バイキングほど喜ばしい食事形式はありません。全く料理名が分からない中から、味の濃そうなものを大量に選びました。小学生時代を思い出させるプレート。景色を見ることなど忘れて、サファリかバイキンングかどちらがメインか分からなくなるほどに、食べ続けました。
 ひとしきり食べ終え、ゆっくりとコーヒーを飲みながら、みんなで談笑。緊張の糸が弛んだ、自然に囲まれて過ごす和やかな時間は、どこか懐かしさと新鮮さを与えました。少し肌寒くなってきた頃、私は煙草を吸うためにその場から離れ、真っ暗で狭くなった自然の中で火をつけました。風に乗って上に消える白い煙をぼーっと見上げていた私。再び開けた視界には、見たことのない星空が広がっていました。街明かりや電線といった人工物に遮られることのない夜の空。目に見えるものが全てが自然物、そんな場所があるなんて考えたこともありませんでした。

 美しいなぁ

 心に浮かんだのか、声に出したのか。残念ながら、この景色を人間が作り出した言語に落とし込もうとするなんて、野暮なことでした。

 星の明るさに気付き、段々と暗闇に目が慣れ始めてきました。さっきよりも広がって見える目の前の景色。精神的にも満腹になった私。

「(昔の人は相当暇やったんやろうなぁ。星を繋げて遊ぶとか、今では考えられへん。でもロマンしかない。視覚から大量の情報を得る人間にとって、上を見上げた時に、星を認識するまでに入ってくる物質が現代人には多すぎる。建物とか電線とかが当たり前に先吸収されるもんな。そこから考えるとすれば、誰が住んでるかとか、高所恐怖症の俺には電線工事なんて向いてないやろうな、とかその程度か。そんなことを経て、最後に星に到達したとしたら、同一の視界から何か考えれる余地は残されてないよ。脳が忙しすぎる。でも先人は何に阻害されることもなく一番最初に空やもんな。思考に星だらけの居住スペースありや。必然かどうかは分からんけど、この星が動物に見えるとか、どこまで空が広がってるとか、想像膨らむよなぁ。もちろん現代の方が科学技術は高いから、正しい答えは散らばってるし、すぐに手に入るけど、妄想の遊びはなくなってる。既知ばっかりやったら、考えんでもいいもんね。なるほど、暇とロマンは表裏一体てことか。)」

 そんなくだらないことを考えていると、月が視界に入ってきました。もはや真っ暗で狭い自然はそこにはなく、私は星と月が照らした遠く眩しい世界を、一番近くで見続けていました。

 2018年8月31日朝6時起床。丸一日サファリを満喫できる日。ライオン、ゾウ、チーター、バッファロー、サイ。この5種類がビッグファイブと呼ばれ、サファリの目玉とのこと。中でもサイは超レアキャラに位置付けされていると聞きました。これを制覇したいという思いと、個人的に1番好きなカバに多くの時間を費やしたいという思いを抱えて出発。
 やはり何度見ても圧倒される自然。前日と同様に、シマウマやヌーなどといった草食動物の群れには何度も遭遇しました。

「(またおるやん。もうあんま嬉しくないて。でも生態系的には仕方ないからなぁ。やっぱり同じものイコール知ってるものになって、興味わかへんねやろな。そうや、初めて見る動物の場所に着くまで目閉じてたら良い。聴覚からの情報だけでサファリってのも悪くないやろ。いや、でも寝てるみたいなったら、周りに気遣わすよなぁ。それは車内の空気破壊してまう。そんな態度で晩御飯はいっぱい食ってたら、バイキングメインの卑しい奴やと思われかねへん。逆にずーっと草食動物を見続けてたらいいんか。同じ漢字ずっと見てたら分からんくなるのと同じで、シマウマ分からんって脳に錯覚させるしかない。草食動物ゲシュタルト崩壊 in サファリ。)」

 一方的に草食動物と遊び、しばらく走った頃、少し先に何台もの車が停まり、窓から多くの人が顔を出している様子が見えました。私たちを乗せたミニバンもそこへ向かい、大きな木々を通り過ぎた時、サファリの目玉は急に姿を現しました。ゾウです。分かってはいましたが、とてつもない大きさ。1頭のゾウが広大な自然を一歩一歩ゆっくりと歩いていました。

「(ゾウって群れで行動してるイメージやったけど、1頭だけでいる時もあるんや。あんな優雅に歩いてるけど、実は群れからはぐれて寂しいってこともあるよな。他のゾウからはどう見えてるんやろ。人間からしたらあんな大迫力やのに、ゾウ界やったら心細くて心配キャラやったら、ちとおもろいな。にしても、1頭でこの圧倒的な存在感。そういえば、シマウマのあの柄て、群れで集まった時にでかい1頭に見せることで、肉食動物から身を守るためって何かで読んだな。肉体的に劣ってる動物ほど、生き残るために考えて進化してきたということか。何かさっきはごめんな、シマウマ。)」

 その後は次々と子供心がくすぐられる動物に遭遇していきました。

「(動物界の冨永愛、キリン。食料に困らんように、首があんな長さに進化したらしい。子孫残せてスタイル抜群て、非の打ち所ないんちゃうか。恋愛にも自信ありや。いいなぁ。低身長の俺には羨ましい。いや、でも水飲むときは大変やって聞いた事あるな。しかも敵に見つかったら、目立ちすぎて逃げ切れんやろ。あの体のバランスで足速いとも思えんし。しかも、あんなに立派な首はさぞ重たいやろう。それを下に降ろして、また上げての動作とは中々不便や。背低かったら、小回り効くし、水も飲みやすかったはず。低身長にも長所あり。自分の身長に自信持てました。街中で富永さんに会ったらお礼伝えます。)」

「(悪い例えの代名詞、ダチョウ。でかいし、足速い。でも飛ばれへん上に、脳みそちっちゃいて、振り切りすぎやろ。何か挙動不審で怖いし。全部の枕に、良くも悪くも鳥のくせにがしっくりくるな。鳥類ではだいぶ異端な方ってことか。残念ながら、人間界では、その記憶力が乏しいことだけがピックアップされてるよ。でもすぐ忘れられるてことは、トラウマなんてないってことやもんな。過去に囚われずに真っ直ぐ生きれるなんて、素敵やん。躊躇なく本能に特化してて魅力的やわ。にしても、ダチョウの話してる時に、トラウマて。動物3種類出てきて話ブレるわ。あぁダチョウの脳なら、こんな後悔もすぐに。)」

「(支持者は小学生、チーター。最高時速110キロで走れるってのは知ってるけども、木の上でずっと寝てる。狩りするところ見たかったなぁ。やっぱライオンとかに比べると細身というか、スピード重視の軽量化て感じ。そういえば他の肉食動物に比べて強さはないから、獲物横取りされるとテレビで見た気がする。あんなに必死で走ってるのに、そのために進化してきたのに。捨て駒やん。速く動ける「歩」てこと?字面だけやったら競歩選手やん。チーターは時速110kmの競歩選手と。)」

 と勝手なことを思いながら、他にもガゼルやイノシシ、サルやワニなどをミニバンから眺めていました。

 視覚的情報から、想像を掻き立てる経験ができる。相変わらず何にも遮られることのない太陽を真上から浴びながら、自分なりにサファリの醍醐味を見つけていました。


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