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キクイモとマッシュルームのコンソメ(と冷凍濾過法)

コンソメの話を続けます。今日は最新式のコンソメのお話。

ここ数年、ガストロノミーレストランで出されることが増えた料理に野菜のコンソメがあります。野菜のコンソメの歴史は浅く、先駆的な存在としてはオーストリア、シドニーの『Tetsuya's』で提供されている『トマトと紅茶のコンソメ』があります。

世界に影響を与えたのはやはりパリ『アルページュ』の『野菜のコンソメ』でしょう。『アルページュ』のオーナーシェフのアラン・パッサール氏は野菜料理のスペシャリストで、様々な傑作料理を生み出しています。パッサール氏によると「単独の野菜でコンソメをつくることもあれば、混ぜることもある」とのこと。ただ、ニンジンのコンソメだけは完璧に澄んでくれないのでエビを混ぜているそうです。トマトのコンソメにはミンチにした鶏肉を組み合わせていました。野菜のエッセンスを抽出した軽い味を世界のレストランがこぞって真似しています。最近でも雑誌『専門料理』(柴田書店)の2015年4月号でPassage53の佐藤シェフがアルページュの影響を色濃く感じられる野菜のコンソメを紹介していましたね。

野菜のコンソメの目指すポイントは二つ。
1. 肉や魚を使わずにいかに深い味わいを表現するか。
2. コンソメらしい透明感をいかに出すか。
の2点です。

用意した野菜は二種類。グリーンピースとキクイモです。どんな野菜でもコンソメはつく れるのですが、選択する基準となるのはどれだけ旨味を含んでいるか。そこで春はグリーンピース、夏はトマト、秋から冬はキノコなどが選択肢に上がってきます。他に白菜は旨味が豊富なのでコンソメに向いているか、と思いましたが、実際につくってみると鍋を連想させる特有の香りがあったので日本人には提供しづらいかもしれません。

デンプンを含む野菜も濁りの原因になるので難しいですが、ジャガイモは皮だけを焼いて使うなどすれば問題ありません。

まずはグリーンピースから。グリーンピースは野菜のなかで突出してグルタミン酸含有量が多く、コ ンソメには最適。とはいっても使うのは食用ではないさやの部分です。

グリーンピースのコンソメ
 グリーンピース 2パック分の鞘
 水 200cc

鞘の部分をそのまま煮出しても、繊維が強く味が出ずらいので、ジューサーミキサー にかけます。

硬い鞘からは想像できないほど、エキスがとれます。今回は約100ccがとれました。

水200ccを足して、鍋に入れて加熱していきます。エキスが1に対して水が2〜3の割合です。

沸騰したら弱火で静かに15分加熱します。青臭い香りが落ち着き、甘い豆の香りに変わり、写真から液体の葉緑素が分離しているのがわかると思います。

布で漉します。

澄んだ美しい液体がとれました。

グリーンピースのコンソメのできあがりです。必要であればお湯で薄めて、塩で味を つけます。同じ手順で生のトマトをミキサーにかけ、加熱してから濾せば同じようにトマトのコンソメがつくれます。

菊芋とマッシュルームのコンソメ

色々な野菜でコンソメの試作をしましたが、なかでも出来がよかったのがキクイモです。キクイモはトピナンブールと呼ばれる根菜で、コンソメの濁りの原因となるデン プンを含まないのが特徴。土っぽい風味が味に厚みを与えてくれます。

菊芋 200g
マッシュルーム 100g
水 1L

菊芋は皮を剥きます。

菊芋だけでもコンソメはとれるのですが、旨味を足すために相性のいいマッシュルームを加えました。このあたりは好みですね。

皮は180度のオーブンでローストします。10分程度で香ばしい焦げ目がつきます。こ れがコンソメの風味を良くします。

スライスした菊芋とマッシュルーム、分量の水を鍋に入れて加熱します。

いい感じに焼けた菊芋の皮も鍋に加えます。スペインの某レストランではジャガイモ の皮を焼いて、水で煮出したコンソメをつくっていましたが、その手法を応用しました。

弱火に落としてコトコトと20分です。肉と違い野菜の旨味成分は短時間で抽出されます。長時間煮ると香りが損なわれるので注意。

水分の蒸発量を抑え、香りの揮発を防ぐために紙蓋をしました。

20分煮込むとこんな状態。

同様に布で越していきます。

できあがり。菊芋とマッシュルームのコンソメです。

さきほどのグリーンピースのコンソメを混ぜると複雑味が出ます。

透明感があって、コンソメらしい仕上がりです。しかし、人によってコンソメというわりには濁ってるな、という意見もあるでしょう。野菜のコンソメを作るときにも普通のコンソメのように卵白を使うことでより透明感のある仕上がりにはなります。しかし、卵によって風味化合物の一部もとりのぞかれてしまうのが難点。

そこで、次に紹介するのはフードライターのハロルド・マギーが考案した『冷凍濾過法』です。

ゼラチンを使います。食べるわけではないのですが、動物性のものを使うのが気になる人もいるかもしれません。植物性にこだわりたいのなら、メチルセルロースを使う手がありますがあまりにもマニアックな材料で、かつ入手が困難なので今回はゼラチンを使っていますが、ベジタリアンの方に提供するときには気をつけてください。 繰り返しますがゼラチンを食べるわけではありません。

1リットルのスープにたいして2.5gのゼラチンを溶かします。

製氷皿に入れて、凍らせます。バットなどに流して凍らせてもOKです。

ざるに布を敷いて、凍ったコンソメキューブを入れます。このまま一晩、自然解凍し ます。冷蔵庫で解凍してもOK。

するとどうでしょう。ゼラチンがフィルターになって、不純物が濾過されます。

でき上がったコンソメは完璧な透明感。

この冷凍濾過法は野菜のコンソメ以外にも肉や魚のコンソメにも使えます。通常の コンソメは冷たく冷やすとゼリー状に固まってしまいますが、こちらはゼラチンを除 去しているため液体のまま提供できるというメリットもあります。ジュースを透明にするのにも使えるテクニックです。

コンソメはレストランならではの料理。お腹を膨らませずにエキスだけのおいしいところ、純粋な味を楽しんでもらいます。家庭ではつくる必要のない料理ですが、つくる楽しみはありますね。

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樋口直哉(TravelingFoodLab.)

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!

ありがとうございます。料理のリクエストがあればコメントに是非
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樋口直哉 作家・料理家 主な著作として小説『スープの国のお姫様』(小学館)ノンフィクション『おいしいものには理由がある』(角川書店)料理本『最高のおにぎりの作り方』(KADOKAWA)など。