水で料理は変わるか〜ストック編〜
水で料理はどんな風に変わるかシリーズです。
前回は出汁について検討しました。
日本料理の出汁は軟水が基本ですが、動物性の素材を煮出して抽出するストック=フォンはどうでしょうか。ここは一つ、コントレックスと水道水で比較検討してみましょう。
ストックのとり方はモダニストキュイジーヌの圧力鍋を使ったアプローチを基本としました。
鶏手羽は小さく切ります。この一手間が重要。小さく切ればそれだけ味の抽出効率がよくなるからです。
ぜいたくに手羽肉を使いましたが鶏ガラでもいいでしょう。
材料を準備しました。
ストックにセロリを入れるとコクが増すのはこちらのnoteでも解説しています。フタライドが肉の脂肪の臭みを抑え、味わいとして「持続感」や「広がり」を増す、という仕組みです。
すべての材料を鍋に入れて、加熱します。はじめの実験はコントレックス100%です。
圧力がかかってきたら弱火に落とし1時間。圧力をかけることで高温抽出します。
出来上がり。透明感のある仕上がりですが、圧力鍋抽出では素材が動かないのでそもそもにごりにくいのです。ただ、ニンジンや玉ねぎなどがあきらかにしっかりとしているのがわかります。硬水で煮るとカルシウム分がペクチンと結びつき、野菜を硬くするのでしっかりとした食感に仕上がるのです。このあたりは理屈通り。
比較のために水道水100%で同じように仕込みます。
出来上がり。透明度は高いですが、コントレックスと比べると若干濁っています。野菜が溶けているからでしょう。
味見をしてみます。鶏のうま味にはそれほど差がありませんが、コントレックスで抽出したストックの方が鶏の香りがよく出ています。一方、水道水のほうが野菜の甘みを感じ、コントレックスのほうがすっきりした味わい。出汁のときはあれだけ気になったコントレックスの収斂味はそれほど気になりません。(ないわけではありませんが)理屈で考えれば出汁は軟水、ストック=フォンは硬水で作ったほうがおいしくなりそうなものですが、風味が濃いのは軟水です。
出汁の実験のときはコントレックス自体の味が強すぎて、バランスが悪くなったケースがありました。そこで今回はブレンドをテストします。水道水400ml+コントレックス200ml。
コントレックスの硬度はおよそ1400くらいなので、水道水で割ることで450〜500くらいになっているはず。パリの水道水の硬度とだいたい同じくらいでしょう。
はたして結果は……と味見をするとちょうど中間的な味になりました。透明度が高いのがメリットで、コントレックス特有の収斂味は気になりません。すっきりした味わいが欲しければブレンドがあり、かもしれません。
硬水を使うと野菜の煮崩れを防げるので透明度が高く、軽い仕上がりになるのたしか。一方、野菜の味が出るのは軟水です。コストを考えると水道水がやはり安いので、肉や野菜の量を調整すれば軟水でも透明度が高く、すっきりとしたフォンが取れるかもしれません。
インターネットで検索すると「硬水は肉料理との相性がいい」というような記述が多く見られますが、それよりも違いがはっきり出るのは野菜です。硬水を使うと野菜の味を閉じ込める効果があることが確認できました。一番差が出やすいのはミネストローネのような刻んだ野菜を煮込んだスープで、硬水を使うと野菜の味それぞれの個性を残した仕上がりになります。これだけ野菜の味が水に出ることがわかったので、普段野菜を茹でるときも硬水を使うメリットはあるでしょう。というわけで、次回は野菜を茹でてみたいと思っています。
撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!