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パスタは水で変わる? 変わらない?

料理本をパラパラとめくっていたところ、パスタを茹でる水に硬水を加えているレシピを読みました。理由としては「ゆですぎを防ぎ、プリッと仕上げるため」と書かれています。「パスタ 硬水」で検索してみたところ、様々なサイトで「硬水で茹でたほうがおいしい」という記述が。これは実験してみる必要がありそうです。

硬水の代表として市販のミネラルウォーターでも硬度が高いコントレックスを用意しました。

コントレックスの硬度は1468mg/L。東京都の水道水の硬度は(各浄水場によって違うのですが)だいたい50〜70ぐらいです。コントレックスのほうが比べ物にならないくらいカルシウムとマグネシウムが多いんですね。ちなみに日本やアメリカではカルシウムとマグネシウムの量を炭酸カルシウム量(CaCO3)に換算したものを硬度と定義しているので

硬度=(カルシウム量x2.5)+(マグネシウム量x4.1)

という式で求られるので、一応頭に入れておきましょう。

コントレックスと水道水各1Lを準備し、1%の食塩を加えました。食塩は公益財団法人塩事業センターの『食塩』を使用しています。塩化ナトリウム99%以上で、カルシウムとマグネシウムは基準で0.02%です。

パスタは袋の表示時間9分茹でます。

これ、ちょっと話が反れるんですが、たいていのパスタには袋に『COTTURA=加熱完了』と『AL DENTE=アルデンテ』という表示があります。後からソースを絡めて加熱する場合はアルデンテで麺をあげ、ソースをかけるような場合やペペロンチーノのようなオイル系の場合はCOTTURAの茹で時間を目安に調整すると良き感じです。

ちょっと雑談でした。パスタの表面が傷つくので混ぜないように、また湯が沸いてパスタ同士が擦れ合わないように気をつけました。

茹で上がり比較です。左がコントレックス、右が水道水です。コントレックスのほうが白っぽい色に仕上がります。色は違いますが、茹で上がりの食感はほぼ同じ

違うのは茹でたお湯です。コントレックスで茹でたほうは白く濁っており……

水道水は透明感があります。マギーキッチンサイエンスには

硬水(カルシウムイオンとマグネシウムイオンを含みアルカリ性)を使うと、デンプンの溶出が多く麺がくっつきやすい。(表面のタンパク質─デンプン膜を弱め、イオンが接着剤のように働いて表面同士がくっつくと考えられる)

マギーキッチンサイエンス p558

とありますが、コントレックス=硬水で茹でるとデンプンが溶出するのです。硬水で茹でると色が白っぽくなるのはデンプンの状態が粗くなったからで、水道水(軟水)で茹でるとデンプンが密な状態で仕上がるので黄色い色が残っています。

改めてパスタを茹でるとはどういうことでしょうか? マギーキッチンサイエンスを再び引用すると

パスタをゆでると、タンパク質の網目構造およびデンプン粒が吸水、膨潤し、外側のタンパク質層が破れてデンプンがゆで湯に溶け出す。内側にはあまり水が届かないので、デンプン粒はさほど壊れない。しががって麺の中心部付近は表面よりも構造が崩れない。

とあり、外側と内側のデンプンの構造の差がパスタ独特の食感を生みます。デンプンがたくさん出れば冒頭の「プリッとする」という主張とは異なり、麺はやわらかくなる気もしますが、実際にはそうなっていません。これはパスタの食感はデンプンよりもグルテンの影響の方が大きいからでしょう。ただ、デンプンが多く溶出している分、伸びやすいかもしれません。

それぞれトマトソースを絡めてみたところ味や食感はまったく一緒。茹で過ぎを防ぐには硬水を使うのではなく、タイマーを使ったほうがよく、コストを考えると硬水を使う必要性はないでしょう。水を変えると料理の出来上がりが変わってくるのは確かなので、他の料理でも比較していきます。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!