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【スクリーン旅】#002 不思議の国の数学者

第二回目は韓国への旅。
ちょうどこのゴールデンウイークに実際に韓国に足を運んだこともあり、気軽に行けるおとなりの国の文化や空気感について思いを馳せる旅となりました。

鑑賞日:2023/05/27


◆鑑賞経緯

おなじみ静岡シネギャラリーさん(http://www.cine-gallery.jp/)の会報に載っていて、ポスターの雰囲気が良かったので気になった作品。
役所広司さんと似た系統の雰囲気を持つイケおじ、これは観るしかない。

◆概要

今日の旅行記は韓国の超エリート高校への訪問。
ソウルの街並みも添えてどうぞ。

この映画について

2023年4月28日公開の韓国映画。

脱北した天才数学者と挫折寸前の劣等生
思わぬ出会いがもたらす、
一歩踏み出す勇気と希望に満ちた温かな感動作

公式サイト(https://klockworx-asia.com/fushigi/)より

あらすじ

学問と思想の自由を求めて脱北した天才数学者ハクソン。彼は自分の正体を隠したまま、上位1%の英才が集まる名門私立高校の夜間警備員として生きている。冷たく不愛想なため学生たちから避けられているハクソンはある日、数学が苦手なジウに数学を教えてほしいとせがまれる。
正解だけをよしとする世の中でさまよっていたジウに問題を解く「過程」の大切さを教える中で、ハクソンは予期せぬ人生の転換点を迎えることとなる。

公式サイト(https://klockworx-asia.com/fushigi/)より

総評

後味    ★★★★★
映像・音楽 ★★★★★
リアリティ ★★★★★
閲覧注意の場面: 無(おだやか)
注記:韓国・北朝鮮あたりの政治や歴史への造詣が欲しい。

よく纏まったお話。
しっとり穏やかな雨の日に観たい師弟モノ作品でした。
韓国史・韓国の現在についての解像度が高い方がより没入できるのかなと思いました。
それだけ韓国の『いま』をナチュラルに切り取りつつ北朝鮮との関わりを描いている作品なのでしょう。

◆見どころ

『人民軍』ことハクソンの機微の表現はもちろん、主人公のジウくんの演技が良かった。全体的にライティングや空気感の表現が素晴らしく、どのシーンを切り取ってもお洒落なポストカードになりそうな具合。
担任の数学の先生の演技は、アレやってて楽しいだろうなあ~と思う。あとこの先生あまりに顔が好みだった。
予告編や公式サイトで言及がある「π」ソングのシーンは出来たら劇場で観ていただきたい。
私は帰り道に聴いて帰りました。あるんです、Spotifyに。

◆こんなときに

・競争社会に疲れてしまったとき。
・人と比べあって苦い気分を持て余しているとき。
・家族との関係が上手くいっていないとき。
・最高の師弟モノを観たいとき。
・リアルな韓国の若者の解像度を高めたいとき。
・何かしら人生に指針が欲しいなと思ってしまうとき。


このnoteは鑑賞記録であり、情緒の標本箱です。なのでこれより、ネタバレオンパレードの感想を連ねていきたいと思います。視聴予定のある方はここで引き返してください。








★鑑賞済みの方向け:ネタバレ満載の感想


『人民軍』、ずるいよ人民軍。
最後の演説のとき『人民軍普通にちゃんとウィットに富んだトークできちゃうおじさんじゃん!!!』と叫びたくなった。そうよ彼はインテリ……

友を護るために公の場所に顔と実名を出す。
状況はやや異なるとしても国同士のいさかいで失われたことに変わりのない、彼の息子がよぎった。
このことがどんなに危険な行為であったかが分かると同時に、息子を守れなかったハクソンが【友】と呼んだ少年のために危険を冒したことの意味について考えさせられる。
贖罪の気持ちはなかったとしたら嘘になるんだろう。
けれど、芽生えた友情はきっと本物だった。
あのときジウはもう『息子の代わり』じゃあなかった。

ジウはジウでさ、どこかお父さんのこと『切り札』にしてた節あると思うんだよね。この話題出したら絶対みんなそれ以上強いこと言えないし、かわいそうだね、頑張ってるんだね、きみは悪くないのにねって寄り添ってくれるでしょう。あの話題を出した時も、ジウは大人に甘えて特別な庇護を受けることを期待してたところはあるように思えた。当然そうされるべきとまではいわないけど、同情による『心づけ』をうっすら求めていたような。

実際、ジウはだいぶ理不尽に色々奪われて無理して頑張ってるわけで。本当につらい境遇を、持ち前の頭脳でなんとか切り開いてきた努力は本物で。
だけどそれって、他人からしたら見えてないし見えても別にどうにもしようのないことで。
なんだったら「その可哀想免罪符のおかげでウチの子が入る枠がない」って糾弾されることもあれば、「あの底辺どもがいるおかげでウチの子の順位が上がる」って踏み台にされることもあって、誇りも自尊心もなくて捨て身なんだよなジウ。
だからハクソンに『お父さん切り札』が通用しなかったとき、彼は人生の身の振り方についても『解答の過程』を見直すことになったんじゃないかな。

最後自分の力でハクソンのバディになりにくるジウ。
誰の代わりでもなく、お世話になった数学の先生とその優秀な教え子という、唯一無二の師弟関係の成立に伴う当然の結果として。
いいラストシーンだったな。近頃見た中でも指折りの美しいラストだった。

途中までボラムの呑気さ加減に「なんちゃって学園青春要素~~~???」って思ってたのだけど(ごめんね)、πソングのシーン、ピアノが弾けるっていう設定、学習塾でのアレ、最後ジウの危機を伝えてくれる役目を持ってるので無駄なヒロイン感がなくなった。
彼女は彼女でお受験社会のギアに組み込まれてしまって意思と関係なくやりたくないことやらされてる子供のひとりで、そのまま何も気づかないフリをしていればお母さんや先生の思惑通りに『凄い何者か』になれたんだろうけど、それが出来ない良心を持ち合わせていたのが良かったね。
だってあのオイラー塾の生徒他にも何人もいたでしょ。ボラム以外の子は黙ってたもんね。

ハクソンとジウのやりとりずっと眺めていたい。
親子みたいな、ただの他人。
だけど血の繋がりも責任もないからこそ、お互いを好ましく思う『友情』が際立って光る関係性なんだよな。
良作だった。

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