旅鳥レポート:干潟での鳥見
9月初め、まだ夏の危険な暑さにうなだれる日々を過ごす中、ふと海辺で野鳥が見たいと思い立った。なぜ急にそう思ったのか、おそらく、日々の仕事に追われる生活を続け、野鳥観察したい欲求がここにきて限界を迎えたのだろう。
そう思い立つと、水とカメラと双眼鏡を鞄に詰めて、私は野鳥観察へ出かけた。
東京都に位置する「葛西臨海公園」は野鳥観察に最適な干潟が広がっている。人工的に整備された環境エリアで、西なぎさと東なぎさと区画が分けられている。
磯の匂いが強く立ち込め、水鳥にとって楽園とも言えるほど有機物に富んだ湿地一帯は、ラムサール条約湿地に指定される貴重な自然環境である。
私が着いた頃は、ちょうど干潮の時間に差し掛かるタイミングであったため、干潟が少しずつ浮き出て見える状態だった。
浜辺を歩き始めると早速、波打ち際に押し寄せられた小魚を捕らえようとするコサギを目撃した。細く黒い脚で足速に浜を駆け、長く華奢な頸を斜めに曲げて狙いつける様は、なんとも奇妙な姿態をしている。
浜をさらに見渡すと、少し遠くの方で、似たようなシルエットの群勢が早々と波間を駆け回る様子が見てとれた。ダイサギとコサギが群れを成して魚を追い立てており、中には魚を巡り奪い合いの喧嘩をするものも見られた。どうやらここら一帯は魚の活性が上がっているらしく、獲物にありつくのに最高の状態なのだろう。
潮流によってプランクトンが水中を漂い流れ、それらを狙う魚が波打ち際に集まることで、鳥たちの漁場が形成される。普段は獲物を物静かに狙うイメージのサギだが、魚が豊富にとれる環境を前にすれば、慎重なスナイパーも慌ただしく手数を増やすようだ。
サギの豊漁の瞬間は自然の豊かさを感じさせる一幕で、とても見応えのある光景だった。
なんだか無性に魚が食べたくなる。
鳥による群像劇はここでは終わらず、その後更なる光景を目の当たりにする。
私はサギの群れを横目に西なぎさを後にすると、反対側に広がる東なぎさへと向かった。東側は保全区域のため、干潟への進入は禁止されている。通常、人の足が踏み入れない場所ゆえに、そこには壮観な鳥の楽園が広がっていた。
アオサギ、ダイサギ、コサギ、ウミネコ、カワウ・・・
代表的な水辺の鳥が辺り一体を埋め尽くし、遠方からでもその壮大さを感じさせる集結ぶりである。遠洋の一方をまじまじと見つめるカワウたち、砂浜に寝そべり羽を休めるウミネコなど、細かく観察するとその仕草や習性の個性的な一面を垣間見ることができた。
鳥による白と黒、海の青に干潟の鼠色とが鮮やかに照り返し、渾然一体を成す様は、今でも忘れられないほど強く印象に残っている。
群れの大きさに感動しつつ眺めていると、甲高いウミネコの鳴き声とともに奥側にいた群れの一群が騒がしく飛び回りはじめた。規則的だった群れは穏やかに崩れ、白い渦を巻くように上空を旋回し、鳥によるスペクタクルを生み出していた。
その後、群れは再び整然とした落ち着きを取り戻した。
干潟の鳥見では、大規模な鳥の数と景観、匂いや気温などあらゆる感覚を刺激する
有意義な時間を過ごすこととなった。
強い日差しと歩き疲れでヘトヘトになりながらも、これまで見たものの余韻に浸りながら、私は干潟を後にした。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?