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ITベンチャーに転職して、3年で破綻した話 #2

本稿は#1の続きになります。まだご覧になっていない方はぜひ#1からご覧ください。

入社日の事件

丸ノ内にあるITベンチャーに内定をもらってから、3ヶ月後、初出社の日。私はワクワクしていた。
丸ノ内というオシャレなエリアにいることも、気分を高揚させていた。

オフィスは、新しいオフィスビルの中階にあるインキュベーションオフィスの一画。面接で一度来ているが、とにかくオシャレだ。東京ど真ん中だ。

緊張してインターフォンを押す。

事務の女性の方が案内してくれて、自分のデスクを確認する。一人一人パーテーションで区切られていて、デスクも前の会社の1.5倍くらい。集中して仕事ができそうだ。

なんか今日は人が少ないなと思ったが、たいして気に留めなかった。

早くK部長に色々教わって、会社に貢献するぞ!そんな気持ちだった。

PCの設定などをしていると、K部長が来て、MTGをしようと別室に連れて行かれた。

私「本日からよろしくお願いします」

K部長「実はあと1ヶ月で辞めることになってね。」

私「へっ??」

この時の衝撃は、鮮明に覚えている。さらに、T取締役も退任すると聞き、すぐに状況が飲み込めなかった。

K部長「ちゃんと引き継ぎ書は作ってあるから、安心して欲しい」

私「システム部門は他にどなたがいるんですか?」

K部長「事務の女性が1人いるよ。」

つまり、あと一ヶ月でIT系の企業で技術部門の責任者が、なんの経験もない私になるというのだ。安心できるわけがない。

私「なぜお辞めになるんですか?」

K部長「実は大学で学び直そうと思ってね。T取締役は任期が満了したんだ。」

恐らく、面接の時点で決まっていたんだろう。自分たちの後任を見つけなければいけないところに、私が飛び込んできたというわけだ。なぜ入社前に教えてくれなかったのか、と怒ってもいいところだが、社会人として未熟な私は納得してしまった。

入社を辞退するという選択肢もあったが、あれだけ引き留めてくれた会社を振り切ってきた手前、すぐにやめるわけにもいかなかった。

K部長「そういえば名刺作るから、肩書きなにがいいか決めておいて。部長でもいいよ。」

おいおい…。

それから1ヶ月は、ウキウキした気分など全くなくなってしまった。K部長がいるうちに、必死に知識をつけなければいけなかった。

私は必死だったが、K部長は心なしか晴れ晴れした様子にみえた。普通なら、自分の都合で会社をやめるのだから、後ろめたい気持ちになっててもおかしくないが、なぜかやたら明るい。

大学に行くというのは本当かもしれないが、辞める理由は他にあるような気がしてならなかった。

U社長

案件はたくさんあると言う話は本当のようで、次から次へと色々な案件の話があった。魅力的な案件でも、いざ自分がやることになると思うと、自信がなくて出来ればやりたくなかった。

常に新しい売上を生み出さないといけない、頼れる人もいない、自分でなんとかしないといけない、ベンチャーとはそんなものだ。私はこれまで、なにもしなくても売上が上がる仕組みが整い、困ったことがあれば助けが求められる、とても恵まれた環境にいた。
例えるなら、突然サバンナに放たれたような状態だった。
私はとにかく不安だった。

会議はいつもU社長が仕切っていた。
U社長は、大手ゼネコン出身で、色々コネクションを持っている方だった。いつも営業担当がいないので、不思議に思い事務の女性に聞くと、以前はいたが辞めたそうだ。

ほかにもK部長が実は1年前に入社したばかりで、前任の方も2、3年で退職したということも教えてくれた。引き継ぎ書は、ほとんどその方が作ったものらしい。

さすがにここまで人が入れ替わるのは、なにか理由があるに違いないとようやく私も気がついた。

どうやらU社長に問題があるようだ。

事務の女性の方の話によると、U社長はとにかく案件を作ってくるが、全く後先考えず、大風呂敷を広げてきてしまうらしい。

こんなのあったらいいな、レベルの話を「それ、うちできます」と言ってしまう。受注したら部下に丸投げし、リソースなど考えず、次から次へと案件を取ってきてしまうらしい。
もちろん、それで成り立っていれば優秀な経営者なんだが、無理がありすぎて結局実現できず、クライアントが憤慨することも珍しくなかった。

ちなみに、後から知ったが、事務の女性はU社長がいきつけの飲み屋で働いていた方で、スカウトされたらしい。

なるほど…これはヤバいとこに入ってしまった。

一人で働き始める

給料はちゃんと支払われていたので、辞めずに働いていた。すでに入社してから2年経過していた。私はサバンナに適応しつつあった。

U社長は相変わらずだった。本当にいきなり無理難題を持ってくる。開発案件は、見積りもせずに予算が決まっている。

できない場合は直接自分でクライアントに連絡し、妥協点を見出すようにしていた。

案件はあったが、私たちが取り組んでいた事業は、いくつかの問題点があり、実証実験の域を出ていなかった。それでも当面のキャッシュはあったらしい。

この会社には、非常勤の取締役にHさんと言う方がおり、私はその方に目をかけてもらっていた。社内の色々な話を教えてもらっていた。
実は株主がU社長に愛想を尽かしており、結託して投資撤退を考えているらしいとのこと。株主総会でも適当なことを言っているのか…。

Hさんは私を心配してくれていて、今のうちに給料を上げてもらいなさい、とか、いよいよとなった時に次の私の行く企業を探してくれたりしていた。

突然の移転と放牧

ある日、事務の女性から事務所を移転するという話を聞かされた。私はそのとき大きなプロジェクトを担当しており、受託元の事務所に半常駐していたので、全く知らなかった。

Hさんから投資先が全て撤退することを聞いていたので、いよいよキャッシュがなくなってきたのだろう。

やばい状況だ。

移転先は三田の古いマンションの一室だった。オートロックはなく、1DKの普通の家だ。

丸ノ内のオフィスに比べるとすごい落差だ。

が、私ははもう何も感じなくなっていた。
ダイニングに社員が集めらた。この頃社員は私を含めて、4名ほど。あとは業務委託の方だった。

U社長「今日から出社は自由です。カフェで仕事しても家で仕事してもらっても構いません。やり取りはメールで。」

ほ、放牧…?

最近の多様な働き方を目的とした在宅ワークではなく、単純にデスクを置くスペースがないだけだ。

私は転職も考えたが、プロジェクトを抱えていたので、Hさんとも相談してそのまま働くことにした。結婚もしてなかったので、正直、後のことはあまり考えていなかった。

出資者との謎の面談

会社の資本のうち、大きな割合を大手のベンチャーキャピタルが占めていた。

そこの担当者のNさんは度々会社に訪れていた。年齢は40手前くらいだったと思う。大手の会社だけあって、いかにも仕事はできそうな感じの人という印象であった。

何度か会社のことについて、話を聞かせてほしいと言われ、話をしたことがあった。

聞かれたのは、たしか主にU社長のことだった。私は聞かれたことに正直に答えたと記憶している。

移転の話があった後、しばらくしてからだったと思うが、突然Nさんからランチに誘われた。
正直言うと、このとき私は次の会社を紹介してくれるかもしれないと期待していた。今の会社で様々なプロジェクトで貢献していた自負があったので、一定の評価をしてくれていると思っていた。

食事は丸ノ内の高級な料亭のようなところだった。しかし、期待していたような話はなく、他愛もない話をして終わった。
最後に「これからも頑張ってください。応援しています。」的なことを言われた。

このときはなんのための食事だったのか、理解できなかった。

今なら理解できる。当たり前だが、この時点で私にそこまで特別な価値はない。
Nさんからすると、会社を潰すために、私を利用してような形になり、私はそれで職を失うのだから、罪悪感があったのだろう。従業員には悪い結果になった、という思いがあったに違いない。

申し訳ないという気持ちを伝えることはできないが、せめて食事くらいはと考えたのではないだろうか。夜の食事とまでなると間がもたないから、ランチを選択したのだろう。

もっとも私は、Nさんの会社に恨みなど全くなかったのだが。

休眠宣言

プロジェクトも終わり、しばらくするとU社長から、話があると言われ、2人きりで面談をした。
「この会社の休業することになった。今後は、フリーランスになってE社の業務委託として働いてほしい。」

たしかこんな感じの言い方だったと思う。

E社とは大手の通信工事会社。そこで、これまでの事業を引き継いでもらい、社員も業務委託として働くということのようだ。恐らく、借金はなかったので、倒産はしなかったのではないかと思う。

この先、この社長についていってもロクなことにはならない気はしていた。なにより精神的にキツかった。

私はE社の業務委託は断り、独自にフリーランスとしてやっていく選択した。転職してから3年目の出来事だった。

最後に

十数年前のことで、思い出しながら書いているので、ところどころ実際と違うところがあるかもしれません。

ことあと私はフリーランスを2年くらい続け、今の会社に再就職します。この経験があって、今の私がある(何者でもありませんが)ので、貴重な経験だったと思います。

改めて記事にして思ったことは、会社を経営するといのは決して甘くないということ。
少し歯車が噛み合わなくなっただけで、簡単に破綻してしまいます。

最近起業する人が増えていますが、最終的にどうにもならず再就職する人も少なくないと思います。
そのときに再就職先も見つからないとなると、悲惨なことになるかもしれません。

もちろん上手くいく人もいますが、あくまでひと握りであることをわかったうえで、リスク対策をして起業するのがよいと思います。

この記事が、起業する人の注意喚起になれば、幸いです。

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