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2,3等星で星空案内・冬(その1)

普段、私が移動天文台などで観望会をしている場所は市街地の学校のグラウンドや公園の広場、児童会館などの駐車場になります。
そこで見える星はせいぜい3等星ぐらいまででしょうか。
決して星のよく見えるところではありません。

1等星(よりも明るい星)は全部で21個ありますが、2等星だと67、3等星だと190個あるそうです(国立科学博物館-宇宙の質問箱-星座編 より)

私の移動天文台のモットーが「話の幅は広く、そしてちょっと深く、だけどマニアに走らない」なのですが、思えば2,3等星の名前は10も知らないんじゃないかと思います。

今回は少しは「天文指導員らしさ」を出すために1等星以外の「ちょっと暗いけど市街地でも見える星」について星空案内風にまとめていこうとおもいます。
(紹介している星空は1月1日22時、2月1日20時、3月1日18時ごろの北海道札幌市で見えるイメージになります。)


季節は秋ですが、西の空ではまだまだ秋の星座が頑張っています。

西の空に見える秋の星座たち

詳しい案内は、2,3等星で星空案内・秋をご覧ください

ベテルギウス、リゲル、ベラトリクス、サイフ

ベテルギウス、リゲル、ベラトリクス、サイフ

オリオン座はこの時期、南の空で非常に目立つ星座になります。
そのオリオン座に輝くα星ベテルギウス(Betelgeuse)とβ星リゲル(Rigel)は言わずと知れた一等星、冬の夜空でとても目立つ星ではないでしょうか。
オリオン座の目立つ四角形の左上がベテルギウス、右下がリゲルになります。
そして右上がγ星ベラトリックス(Bellatrix)(1.6等級)、左下がκ星サイフ(Saiph)(2.1等級)になります。

ベラトリックス(ベラトリクス)はラテン語で「女戦士」を意味するとされます。
サイフはアラビア語で「ジャウザーの剣」を意味するサイフ アル・ジャバール(saif al-jabbār)に由来するとされます。

アルタニク、アルニラム、ミンタカ

アルタニク、アルニラム、ミンタカ

オリオン座の目立つ四角形の中、横一列にほぼ同じ明るさの星が並んでいます。
いわゆる「オリオンの三つ星」や「オリオンのベルト」と呼ばれる星々になり、左から順にζ星アルタニク(Alnitak)(1.8等級)、ε星アルニラム(Alnilam)(1.7等級)、δ星ミンタカ(Mintaka)(2.2等級)になります。

アルタニクはアラビア語で「ジャウザーのベルト」を意味するニターク・アル=ジャウザー(Niṭāq al-Jawzā')アルニラムはアラビア語で「連なり、数珠つなぎにしたもの」を意味するアル・ニザーム(al-Niẓām)ミンタカはアラビア語で「ジャウザーの帯」を意味するミンタカ・アル=ジャウザー(Minṭaqa al-Jawzā)に由来するとされます。

オリオンのベルトと同じように三つの星でジャウザーのベルトと考えると、アラビアではオリオン=ジャウザーとなるのでしょうか?
この「ジャウザー」ですがアラビア独自の星座名のようで、モデルがいたようです。
諸説あるのですが、ペルシアの天文学者アブドゥッラハマーン・スーフィーが10世紀に描いた「星座の書(キターブ・スワール・アル・カワーキブ)」があります。この中でオリオン座を含むあたりは「ジャウザー」と呼ばれる女性または巨人とされ、オリオン座の恒星は、その多くが『星座の書』に書かれたジャウザーに関連した名称が由来となっています。

Astra Inclinant by Sascha Akhtar – CONTRABAND より

上の絵で三つ星を見つけられます?ちょうど腕の位置でも星が輝いていますがこれがベテルギウスと思われます。
そうなるとヤド・アル=ジャウザーで「ジャウザーの手」となると納得がいくかと思います。
アラビアの星座、調べてみるともっとわかるかもしれませんね。

シリウス、ミルザム、ウェズン、アダラ、アルドラ、フルド

シリウス、ミルザム、ウェズン、アダラ、アルドラ、フルド

夜空でひときわ輝く星が(太陽を除いて)全天一明るい恒星、おおいぬ座α星シリウス(Sirius)です。
そのシリウスの東側で輝くのがおおいぬ座β星ミルザム(Mirzam)(2.0等級)です。
シリウスの下になんとなく正三角形のような3つの星があります。シリウスに近い方から、δ星ウェゼン(Wezen)(1.8等級)、ε星アダラ(Adhara)(1.5等級)、η星アルドラ(Aludra)(2.5等級)になります、
そしてその三角形の東で輝くのがζ星フルド(Furud)(3.0等級)になります。

ミルザムはアラビア語で「吠えるもの、予告するもの」を意味するアル=ムルジム(al-Murzim)に由来するとされます。シリウスよりもわずかに早く登ってくるため、この名がついたものと考えられています。

ウェゼンはアラビア語で「重さ」を意味するアル=ワズン(al-Wazn)に由来するとされます。南中しても高度が低く見えるため、「地平線から登るのが重そうな星」という意味からついたものと考えられています。

アダラはアラビア語で「乙女たち、処女たち」を意味するアル=アダーラ(al-ʽAdhārā)に由来するとされます。
アルドラはアラビア語で「(ジャウザーの)乙女」を意味するアル=アドラ・アル=ジャウザー(al-‘udhra al-Jawzā)に由来するとされます。
この三つの星で作る三角形は日本でも「クラカケボシ(倉掛け星、静岡県沿岸地方)」や「サンカク、サンカクボシ(宮城県、秋田県)」、ミツボシ(三つ星、秋田県)」などと呼ばれています。
北海道でも中部以北のアイヌの人々の間でアイコッチェプ ノチウ(aykotcep nociw - エイ 星)という呼び名が伝えられています。

フルドはアラビア語で「孤独なもの」を意味するアル=フルド(al-furūd)に由来するとされます。なるほど、先の三角形の星並びから少し離れて寂しそうな感じがするかもしれませんね。

プロキオン、ゴメイサ

プロキオン、ゴメイサ

こいぬ座α星プロキオン(Procyon)の隣で輝くのがβ星ゴメイサ(Gomeisa)(2.9等級)です。
やや暗いので目立たないかもしれませんが、ゴメイサはアラビア語で「小さな涙ぐんだもの」を意味するアル=グマイサー(al-ghumaiṣāʾ)に由来するとされます。元々はプロキオンの名前(こいぬ座全体の名前)であったようです。その由来はもちろん、シリウスに比べてやや暗いことになります。

アルネブ、ニハル、クルサ、ザウラク

アルネブ、ニハル、クルサ、ザウラク

これら4つの星はややマイナーな星と言えるかもしれませんが、透明度の高い冬の夜空だと意外と良く見えるので探してみてください。

オリオン座の下にはうさぎ座があります。そのうさぎ座のα星がアルネブ(Arneb)(2.6等級)、さらに下に輝くのがβ星ニハル(Nihal)(2.8等級)になります。

アルネブはアラビア語で「ウサギ」を意味するアル=アルナブ(al-arnab)に由来するとされます。星座名はここから来ているんですね。

ニハルはアラビア語で「ラクダがのどの渇きを癒し始める」を意味するアル=ニハル(al-nihāl)に由来するとされます。
元々はα星アルネブとβ星ニハルにγ星とδ星を加えた4つの星で作るアステリズムにつけられた名前だったようです。ニハルは4頭の酒を飲む獣を表していると考えられています。

リゲルのすぐ東から南に伸びる星の連なりが天を流れるも一つの川、エリダヌス座になります。
その始まりの星がβ星クルサ(Cursa)(2.8等級)です。ちなみに川の果てにあるのが「川の果て」を意味するα星アケルナル(Achernar)ですが、北海道からは地平線下で見ることができません。
もう一つかろうじて見えるのがγ星ザウラクZaurak)(2.9等級)になります。

クルサはアラビア語で「ジャウザーの前側の足台」を意味するアル=クルシイ・アル=ジャウザ・アル=ムーカダム(al-kursiy al-Jauzāʾ al-muqaddam)に由来するとされます。その名の通りオリオン座と深い関係がありアラビアでは大きな星座であったことを窺わせます。

ザウラクはアラビア語で「ボート」を意味するアル=ナイル・アル=ザウラク(al-Nāir al-zauraq)に由来するとされます。古い名ではなくエリダヌス座のこの辺りの星に用いられた表現が、いつしかこの星の呼び名として使われるようになったもののようです。

※アラビア語のカナ表記・発音表記は翻訳ソフトなどにかけて記載していますが、正確ではないかもしれませんので誤り等あれば指摘願います。

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