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【ドイツ風物詩】リミテッドエディションの季節菓子

[初出:2008年11月]

街の教会広場の裏に老舗のパン屋がある。広さ3畳ほどの小さな店で、年老いた老夫婦がやっている。おじいさんが焼くパンはほんのり甘く、日本人好みである。この季節には赤いリボンをつけたヴェックマンがショーウィンドウを美しく飾る。

ヴェックマンとは、毎年11月11日前後に祝われる聖マルティン祭の時期に出回る菓子パンである。なぜかパイプを手にしたこの人形パンは、もともと司教を形どったものだという。確かに、パイプを逆さにすれば、司教の杖に見えないこともない。

かのパン屋は週三日しか開いていない。数少ない営業日を狙い、やっと窓に飾ってあるのと同じヴェックマンを手にすることができた。一つ3ユーロと市価の倍もする。年寄りの道楽商売かもしれない。しかし、チェーン店にはない温もりを求めて、店には客足が絶えない。

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