ジャック・ロンドン「赤死病」#13

第2

 少年から昔話をお願いされた老人はご満悦のようだった。ゴホンと咳払いをして、老人は語りはじめた。
「二、三〇年前であれば、みな興味津々でわしの話を聞きたがったものだ。だが最近は誰も興味を示さな――」
「また始まった!」ヘアリップは不満げに叫んだ。「どうでもいい前置きはいいから大事なとこを話してよ。わくわくする話は? 赤ちゃんじゃないんだからちゃんと話して!」
「黙って聞こうよ」エドウィンはヘアリップを遮った。「でなきゃ怒って二度と話してもらえなくなるよ。つまらない話は聞き流して、おもしろいところだけ聞けばいいんだ」
「続きをお願い」フーフーは老人を促した。すでに老人はぶつくさと、少年らに年長者を敬う気持ちがまるでなく、かつて高度な文明を誇っていた人間がかくも野蛮になってしまったことを嘆いていたのである。
 老人は再び話しはじめた。
「当時はこの地球に途方もない数の人間がおった。サンフランシスコには四百万もの――」
「"ヒャクマン"って何?」エドウィンが割って入る。
 老人は彼を優しい目で見つめた。
「お前たちは十を超える数を数えられないんだったな、では教えてやろう。両手を出してみなさい。あわせて十本の指がある。ここまではいいな。次にわしがこの砂粒一つを手にとって――フーフーよ、落とさないよう持っていなさい」老人は砂粒を一つフーフーの掌に落とし、先を続けた。「その砂粒がエドウィンの指十本を意味するとしよう。さて、それからまた砂粒を一つ加える。これで指が十本増えた。さらにまた加え、さらにもう一ぺん、もう一ぺん……と、エドウィンの指の数十本と同じになるまで加える。さて、これがわしの呼ぶ"百"というものだ。この言葉、"百"を忘れずにな。それから、この小石をヘアリップの手に置こう。この小石が砂粒十個分を表すとしよう。つまり十本の指が十ある、したがって指が百本あるということだな。わしがヘアリップの手に小石を十置く。これで"千"本の指になる。次はムール貝、これが小石十個分を表すとしよう。つまり砂粒百個分、したがって指は千本だ……」云々と、老人は骨折りながら同じ説明を何度も繰り返し、なんとか少年たちの頭に簡単な数の概念を植え付けることに成功した。数の単位が増えていくと、老人は三人の少年の手に異なる大きさの物を持たせ、さらに数が大きくなると、老人は流木の上に単位のシンボルを置いていった。頭蓋骨の歯を百万に、カニの甲羅を十億に見立てると、老人はこれ以上のシンボルを使えなくなった。少年らに疲れの色が見えたので、ここで老人は説明を終わりにした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?