ジャック・ロンドン「赤死病」#14

「サンフランシスコの人口は四百万、つまり歯四つ分だった」
 少年らの目は、百万を表す歯からそれぞれの掌の上のものへと移り、それから百を表す小石、十の砂粒へ動き、最後はエドウィンの指で止まった。ついで今度は反対に単位を増やす順番で目を動かしながら、想像も及ばない数字の大きさを理解しようと努めていた。
「とんでもない数の人だね」ようやくエドウィンが口にした。
「きっとこの浜辺の砂くらいあるぞ。砂粒一つひとつが男だったり女だったり子供だったりすると思えばいい。お前らわかるか、それだけの人間がわしら今いるこの場所、サンフランシスコに住んでいたんだ。それにいつだったかはよく憶えてはいないが、彼らがこぞってこの浜に出てきたことがあったんだ――砂粒の数より多かった。とんでもない人の数だったよ。サンフランシスコといえば有名な街だったが、湾の向こう、わしらが去年キャンプをしたサン・レアンドロのあたりにはさらに多くの人がいて、ポイント・リッチモンドから良く見えたのだが、平地はもちろん高い土地にもたくさんの人が住んでいた。そこは七百万人が住む街だったんだ。七百万とは……歯七つ分だな。
 少年たちの目はもう一度、エドウィンの指から丸太の上の歯へと行ったり来たりした。
「世界は人で溢れていた。二〇一〇年の調査によれば地球全体には八〇億の人がいたそうだ。カニの甲羅八つ分、それが八〇億だ。今とはまるでちがった。食料を得ることにかけては今より豊富な知識をもっていたし、実際にたくさん食べるものがあって、たくさんの人がいた。一八〇〇年時点ではヨーロッパだけで一億七千万人。そのさらに百年後――フーフーよ、小石一つだぞ――、百年後の一九〇〇年にはヨーロッパの人口は五億になった――フーフー、歯が小石五つ分あるということだ。わかるのは、食料に困らないまま人間は一気に数を増やしたということだ。二〇〇〇年になれば、ヨーロッパだけで一五億だ。ヨーロッパ以外の地域でもだいたい同じ調子で増えていった。だからな、赤死病が始まったとき、カニの甲羅八つ分、つまり八〇億の人が地球上にはいたんだ。

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