ジャック・ロンドン「赤死病」#18

ムール貝はエドウィンの指千本分だったな。つまり四千はムール貝四十個分、そのくらいまで病原菌は拡大できたんだ、顕微鏡さえ使えばな。また時代が下れば、"動画"という方法で四千倍の病原菌をもう何千倍も大きくできるようになった。こうしてわしらは肉眼では見えないものの形を確認できたわけだ。砂粒をひとつ手にとってみなさい。それを十個に割って、そのうちの一つをまた手にとって、また十個に割ってみなさい。それをまた十個に割って、また十個に、また十個に、また十個に。ひがな一日、陽が沈むまでそれを繰り返せば、病原菌と同じ大きさの砂粒になるぞ」少年らは見るからに怪訝な顔を浮かべた。ヘアリップはふんと鼻を鳴らして嘲笑い、フーフーはくすくす笑った。エドウィンが肘で二人を小突くとふたりは静かになった。
「ダニは犬の血を吸うが、途方もなく小さい病原菌は人の血の中に入り込んで増殖をはじめる。その当時、感染した人の体には十億もの――ええと、十億はカニの甲羅だな――カニの甲羅ほどの数の病原菌がいた。病原菌は"微生物"と呼ばれていた。何百万か、あるいは十億くらいだろうか、微生物が体内、つまり血の中で殖えてしまえば、その人は病気になる。こういう微生物は病気の原因なんだ。微生物は数限りない種類がいた。この浜辺の砂粒よりも多いくらいだ。人間が把握できていたのはそのうちのほんの少しにすぎない。微生物の世界たるや、不可視の、人間の目には見えない世界で、人間はわずかな知識しか持ち合わせていなかったんだ。とはいうものの、人間が知っているものあるにはあった。炭疽菌、ミクロコッカス、そしてラクトコッカスラクチス――これは今でもヤギの乳をチーズにするのに使われているんだぞ、ヘアリップ。際限なく殖える分裂菌というのもあった。他にもいろんな種類が……」

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